第38話 思わぬ遭遇(レヴァン視点


◆レヴァンside




 俺は金のために仕方なく冒険者ギルドの前までやってきた。


 でかくて威圧的な建物だ。まるで自分が偉いとでも主張するようなその姿が気に食わねえ。


 さっさと用事を済まそうと扉に目をやると、偶然にも見知った後ろ姿を目撃した。


「あっ? お前、エミルか」


「レヴァン……!」


 呼びかけるとそいつは振り向き、眉をひそめて驚いたような表情を見せる。


 やはりエミルだ! やつの雰囲気に得体の知れぬ違和感はあったものの、この顔を忘れるはずがない!


「まさかこんなところで会えるとはなあ、エミルッ!」


 俺は足早に近づくと、やつの胸ぐらを右手で掴む。


「わっ……!?」


「よくもやってくれたな、ああん?」


「い……いったい、なんのことだよ」


 胸ぐらを掴まれたエミルが、苦しそうに答えた。


「俺がやったことを村や街で言いやがっただろてめえ!」


「知らない! オマエらのことなんて忘れたいくらいなのに、わざわざ人に言うもんか!」


「とぼけてんじゃねえぞ!」


 あくまでシラを切るつもりらしい。それならもっと思いきり締めあげてやれば正直に認めやがるか?


 俺は右手にさらに力を入れようとした。しかしエミルをより締め上げるどころか、実際には掴んでいた胸ぐらから手が放れてしまう。


 放そうとしたわけじゃない。どこからか振るわれたムチが俺の右手に巻きつき、不意に引っ張られたからだ。


「なっ、なにい!?」


「いいことを教えてあげるわ」


 驚く俺の耳に、女の声が届く。


「そういうときはね、まずは落ち着いて相手の話を聞くものよ」


「ヴァネッサ!」


 ヴァネッサと呼ばれた女は、俺の右手にムチを巻きつけたままエミルの横にやってきた。


「話を聞くとか言ってるが、ムチで巻きつけるのはいいのかよ?」


「あら、打たれる方がお好きだったかしら?」


 見たところこいつはそこそこできるようだ、俺ほどではないが。


 そしてエミル、やつからは村にいたときとは違ったものを感じる。


「おいおい、騒がしいな、どうしたんだ?」


「ケンカかー? それなら俺はエミルにつくぜ、がっはっは!」


 冒険者ギルドの建物からおっさんどもが出てきて、エミルのすぐ後ろに立つ。


 こいつらは動きからして大したことはなさそうだ。


「エミルくん、大丈夫ですか!?」


「こわい顔してるし、ただごとじゃないよね」


「なんの、用?」


 さっきのムチ女とは反対の道から、新たに3人の女たちが駆けよってくる。


 そしてエミルを守るかのように、俺との間に立ち塞がった。


 見知ったやつもいるが、この3人も問題にはならねえ。


 ならねえはずだが……。


 気づけばエミルの周囲に人が集まり、そいつら全員がこっちを見やがる。


 責め立てるような目を向けてきやがる、あの村のやつらのように!


 またその目か! クソッ、どいつもこいつも俺より弱いくせに!


「な、なあレヴァン。これはちょっとまずいんじゃないか?」


「ここ街なかだし人も増えてるし問題起こすのやばいっしょ、いったん出直そうよ」


 グラッグとジュリアが俺の後ろから声をかけてきた。


 ああ、そういえばこいつらがいたな。


 俺は右手に力を入れて、巻きついていたムチを振り払った。


「ふん、集まって勝手にピーピーわめいてろ……行くぞ」


 エミルとその周囲のやつらに背を向けてその場を離れる。


 グラッグとジュリアも後ろをついてきてるようだ。


 エミルめ……! この怒りは必ず晴らしてやるからな!





「ふふふ、キミ、ずいぶんと怖い顔をしているじゃないか」


 やつらから見えなくなるほど歩いたところで、道にいた女から声をかけられる。


「……俺はいま機嫌が悪いんだ。ケンカ売ってんなら女だろうが容赦しねえぞ」


 ぶしつけで不愉快に話しかけきたその女の顔を見たら本当に殴ってしまいそうな気さえするので、一瞥いちべつすらせずに言い捨てた。


「おっと、誤解だよ。ケンカなんて売る気は無い。もし売るものがあるとしたら私をキミに売り込みたい、といったところさ」


 売り込む? 娼婦かなにかか、くだらないな。


 無視して立ち去ろうとする俺に、女はさらに続ける。


「あの少年を、やっつけたくはないのかい」


 その言葉に足が止まる。


「エミルのことか?」


 聞きながら、俺はその女の方を見た。


 そこには丸眼鏡をかけたうさんくさい女が、ヘラヘラ笑っていやがった。


「ようやくこっちを見てくれたねえ。それじゃあ話を聞いてくれるかい。力を合わせてバケモノと戦うための、作戦会議といこうじゃないか」




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