第37話 晴れやかな空の下



 賢者が訪れたつぎの日、僕たちは街なかの通りへとやってきていた。


 はればれとした青空が気持ちいい、絶好のお出かけ日和だ。


「1時間くらいしたら冒険者ギルドに集合だね」


「はい。今日は下見のつもりですので、それまでに済むと思います」


 僕の発言に、イーリスは片手を頬に当てたまま答える。


 イーリス、リフィ、セレナの3人で行きたいところがあるらしい。


 そのためあとで集まる場所と時間を決めたところだった。


「僕は適当に見て回るつもりだけど、みんなはどこに行くの?」


「それは、ひみつ」


「ひみつだよねー」


 聞いてみるも教えてもらえず、セレナとリフィはおたがいに視線を合わせて楽しそうにしている。


 女性だけで行きたいところでもあるのかな?


 気にはなるけどひみつと言われた以上は仕方ない。無理して聞きだすのもなんだし詮索はやめておこう。


「わかったよ。それじゃあまたあとで」


 みんなを見ながら片手を挙げる。


 イーリスは微笑みながら手元をゆったりと。


 リフィは笑顔で、ピンと伸ばした手をぶんぶん。


 セレナは少しさみしそうに、控えめに小さく。


 それぞれ手を振って、おたがい別の方向へ歩き出した。





「ここは……どこだろう?」 


 僕は気づけば全然わからない場所にいた。


 はち合わせてひみつの行き先を知ることがないよう、みんなと真逆の知らない道へ行ったのがまずかったか。


 街なかでもこっちの方は今まで来たことがないのに、進み過ぎた気がする。


 初めて見るお店も多くて、つい先へ先へと進んだのが原因だ。


 でも大丈夫、来た道を戻ればいいんだもんね。


 たしかまず1つ前の曲がり角を右に……いや2つ前だっけ?


 ……まあ帰るときはそれっぽい方向に戻ればたぶん帰れるでしょ。


 よし、もう少し進んでみよう。


 そう思ったとき、不意に声をかけられる。


「おや、少年じゃないか」


 声のした方へ振り向くと、丸眼鏡をかけた女性が笑みを浮かべて立っていた。


「シャムニー。また会えたね」


 彼女とはビスケットをごちそうになって以来かな。


 こんなところで会えるとは思ってなくて、こっちも笑みがこぼれてしまう。


「ああ、再会が嬉しいよ。ところで少年、キミはいまなにを?」


「僕は時間まで街を見てまわってるとこだよ」


「ふうむ、時間までというと、このあとなにか予定でもあるのだろうか?」


「うん。冒険者ギルドで待ち合わせしてるんだ」


「ほう、冒険者ギルドで……。ではそれまで私がご一緒しても構わないかな?」


「もちろん。時間までそんなにないけどそれでよければ」


「ああ。少しの時間で充分だよ」


「あっ、そうだ。ちょっと待ってて」


 僕は近くにあった屋台で串焼き肉を2本購入し、戻ってきて。


「はい、どうぞ」


 片方をシャムニーに差し出す。


「おや、これは?」


 それを見てシャムニーはきょとんとしていた。


「鳥の串焼きだよ。この前ごちそうになったお礼。それともシャムニー、お肉苦手だったりする?」


「ああいや、そんなことはない。ただ少し、昔を思い出してね」


 シャムニーはそう言って、少し笑いながら串焼き肉を受け取る。


 そして僕たちは串焼き肉を食べながら歩いていると、1つのお店を見つけた。


 魔道具に関するお店のようだ。


 お店の外からでも商品の魔道具がいくつか見えるし、ドアの横には『魔道具に関するお悩み、なんでもご相談ください』と書かれた紙が貼ってある。


「魔道具店になにか用でもあるのかい?」


 シャムニーが、お店を見ている僕に聞いてきた。


「用はないけど初めて見るお店だったのと、以前聞いた古代の魔道具のことを思い出して、それで気になっちゃった」


「古代の魔道具、アーティファクトのことだね」


「そう、そのアーティファクト。それってこういうお店でも売ってたりするのかな?」


「アーティファクトは稀少だからそうそう出回らず、こういう店で見かけることはまずないだろうねえ。それにどちらも魔道具とつくけど、それぞれ別物みたいなものなのさ」


「どっちも魔道具なのに別なの?」


「現代の魔道具は主に生活面の向上のために作られているけど、古代の魔道具は戦闘での利用を想定されたような物が多い。ほとんど再現不可能で、技術も性能も比べ物にならないんだよ」


「そんなに違うものなんだ。アーティファクトってすごいんだね」


「ところで時間の方は大丈夫かい? 余裕をもって冒険者ギルドで待っているくらいがいいんじゃないかな」


 十字に交差する道に差しかかったところで、シャムニーが聞いてくる。


「まだ大丈夫なはずだけど、そうだね。早めについておくのも良さそう」


「それがいい。時間には余裕を持つべきだからねえ」


 体感だけど今からゆっくり戻っても1時間は経ってないはず。


 とはいえみんなを待たせちゃうのもなんだし、シャムニーの言うように早めに向かおうかな。


「それじゃあ早速行ってみるよ」


 僕はそう言って、十字の道のなかで、来た道とは違う方の道へと歩き出す。


 冒険者ギルドへ最短で行けるのは、たぶんこっちな気がするから。


「ああ、向かおうじゃないか……てっ、ちょっと待って。どこへ行くつもりなんだい!?」


 シャムニーがあわてて呼び止めてきた。


「どこへって、冒険者ギルドへだけど」


「ええ……? それなら反対方向だよ。急ぎたいところだし、私が案内するからついてきてくれないか」


「あっ、あれ、そっちだったんだ。うん、じゃあお願い」


 来るとき道を曲がったりしたからたぶんこっちかなと思ったけど、違ったみたい。


 僕はシャムニーの案内の元、歩き出した。


 それにしても急ぎたいところって言ってたけど、もしかしたら僕の事情を気にしてくれてるのかな。





「ここまで来れば大丈夫だろうか?」


 シャムニーが笑みを浮かべながら僕の方を見る。


 最短と思える道を通り、僕たちは冒険者ギルドの近くまでやってきていた。


「すぐそこだからね。助かったよ」


「ふふ。では私はこの辺りで失礼するよ。それではさようなら」


「うん。ありがとう、シャムニー。またね」


 僕は去っていくシャムニーを見送る。


 そして彼女の姿が見えなくなると、冒険者ギルドまで歩き出した。


 まだ1時間には少し早いくらいかな。


 なかに入ってみんなを待ってよう。


 そう思いながら、その建物の前へとやってきて。


「あっ? お前、エミルか」


 なかへ入る前に、僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。


 聞き覚えのあるいやな声に、まさかと思いつつ僕は振り返る。


「レヴァン……!」


 そこには、レヴァンがいた。


 僕の家を燃やし、村から追い出した張本人が、目の前に現れた。





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