第34話 賢者の来訪②



「僕の剣に、欠点?」


 僕の剣の腕は、スライム相手に苦戦するほどだ。


 大したことない自覚はあるけど。


 どこが欠点でどう直したらいいかは、自分でもわかってなかった。


「スライムにも苦戦すると聞いたときは、謙遜か冗談だと思ったよ。だって最初にキミの素振りを見たけど、あれでその程度だなんて信じられなかったんだ」


 アレリアの説明を、僕は聞き入る。おたがいに剣をおろし、動きをとめたまま。


「素振り通りのキミの剣なら最低でもCランクモンスターあたりなら問題なくやりあえるはずだよ。だが戦いとなったときの攻撃に大きな欠点があり、そのせいで弱いモンスターにすら苦戦するのだろうね」


「攻撃の仕方になにか問題があるの?」


「ああ。といっても技術ではなく精神面だけど。キミの剣は攻撃になると、とたんににぶるんだ。無意識のうちに力を抑えてしまっているのだろう、自覚のない手加減ぐせとでもいうべきか」


「そうだったんだ。気づかなかった」


「まずはそれを自覚して、相手を倒すつもりで振り抜くことから始めるといいよ」


 全力でやってるつもりだったけど、どこかで力を抑えてしまっていたらしい。


「じゃあ模擬戦や話を再開しようか。魔族についてだっけ」


 アレリアが笑みを見せながら土の剣を構える。


 こちらもうなずいて木剣を構えた。


 相手を倒すつもりで。


 僕は踏みこみ斬りかかった。


「ふふ、いい感じだね。っと魔族の話だっけか。魔族とは一言で言えば、ボクたち人間と相容あいいれない存在さ」


 アレリアの土の剣がそえられて防がれるも、今までより手ごたえはあった。


「彼らの共通点として、魔族は人間に対して強い敵意や害意を持っている。そして人間よりもはるかに強く危険な存在だ。それともう1つ、魔王への崇拝すうはいがあってね」


「魔王……そういえば倒した魔族もそんなこと言ってたよ」


「彼ら魔族はある時期を除いてほとんど表立った行動はしないんだ。例外はおおよそ1000年に1度ほど、その時期になると魔族は活発になり、対抗するかのように人間にも強い力を持つ者が多く現れる。まさに今がその時期だね」


 話している間も、剣を振るい、また振るわれもした。


 ついエアライドでよけたくなるけど、魔法抜きの取り決めだから。


 こらえつつ、相手の攻撃を木剣でかろうじてさばく。


「魔族についてはこんなとこかな。キミの剣はさっきよりもよくなってるよ。まだ欠点を克服したとは言えないけど、その調子だね。あとこれは欠点とはまた違う気がするけど、キミが防ぐ動きにぎこちなさというか、違和感があるように見える。もしかして普段とは違った動きを無理やりしてるのだろうか?」


 アレリアが剣をおろしたので、こちらもそれにならう。


 動きのぎこちなさからそこまでわかってしまうのか。 


「攻撃されるとエアライドでよけたくて、しないよう抑えてたからそれでかな?」


「ああ、魔法抜きと言ったもんね。ただエアライドというと、空をゆっくり浮くあの魔法のことかな。あれでよけるのかい?」


「そうだけど僕が使うとそうじゃないというか、えっと、実際に使ってみせるね」


 僕はエアライドを使用し、後方に軽く跳ぶ。


「えっ!?」


「こんな感じだよ」


 一瞬でアレリアと距離を離した僕は、大きな声で伝えた。


「今のがエアライドだって!? 信じられない! こんなのボクにもできないし、見たことも聞いたこともないよ!」


 アレリアは遠くで目を見開いて驚いてるように見える。


 もう1度使って戻ろうかと思ったとき、彼女は笑い出した。


「ふふ、ははは。すごいなキミは。じゃあそのエアライドを使って続きといこう」


「それはちょっと危なくない?」


「大丈夫、ケガさせないよう気をつけるし、いざとなれば回復魔法もあるから。もしくはボクを心配してるのかな、それなら必要ないよ。キミの練習にもなると思うし、なによりエアライドの初めて見る使い方だからね、ぜひ体験して味わいたいんだ」


 たしかにアレリアの実力を考えれば、僕が気にすることではなかったか。


「わかったよ。じゃあ、いくからね」


 僕は決心し、おたがいに剣を構える。


 エアライドを発動すると、アレリアとの間合いが縮まり、そのまま木剣を振り下ろした。


 一瞬で距離をつめての攻撃だったが、その一撃は土の剣に受け止められて防がれる。


 ただ剣をそえるような今までの防ぎ方ではなく、急いでぶつけた感じで。


「くっ、やはり速いね。少し焦ったよ」


 アレリアからも土の剣を振るわれる。


 エアライドを再使用するには1秒ほど待たなければならない。


 その間、僕も木剣を使って防ぐ。


 使えるようになるとエアライドで下がり、一呼吸置いてまた使用し前へ跳んだ。


「なるほど、見たところ圧倒的な魔力によって可能にした動きか。ボクがしてもこの半分の速度も出せないはずだし実戦的にはほど遠いだろうな。特別なエアライドを使っているのではなく、キミ自身が特別だからできることとは、驚くほかないよ」


 それから剣がいくも重なり合い。


 何回目のエアライドか、僕は跳びながら斬りこむ。


 アレリアも土の剣を振るい。


 木剣と土の剣が勢いよくぶつかり合う。


 衝撃でおたがいの剣は折れ、破片が飛び散った。


「うわっ! っとと」


 予想外のことに、僕は跳びこんだ勢いもありバランスを崩しそうになり。


「おっと、大丈夫かい?」


 倒れる身体を、アレリアに抱きしめられた。


 胸にうずまった僕の顔が熱くなるも、彼女は気にしてない様子でそのままつづける。


「キミの力の一端いったんを見たがすごいじゃないか、想像以上だったよ」


「大丈夫だから、えっと、ありがとう……」


 僕はアレリアから身体を離し、恥ずかしさから視線をそらす。


「じゃあつぎは魔法を見せてほしいな。ボクと比べ合おうじゃないか」





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