第30話 暗闇に沈む(シャダック視点
◆シャダックside
私は目を開けた。だが視界にはなにも映らない。暗闇だ。なぜだか身体中がひどく痛む。
痛みを無視して動こうとするも、ガシャンという音がして手が動かせなかった。
口にも違和感がある。
「ほうはっへひうんは」
どうなっているんだと喋ろうとしたが、上手く言葉にならず。
そこで
目と口をふさがれて、身動きが取れなくされているこの現状に。
肌に触れる感触からして、目と口を
手の方は牢屋の手かせに繋がれてるとみて間違いあるまい。
なぜ私が今こうなっているかも、思い出したのである。
私はあのエミルというガキと戦い、負けたのであったな。
魔族であるこの私が、たかが下等生物である人間などに敗れるとは。
……ただ悔しいが、ヤツの魔力はバケモノと認めざるを得ない。
そもそもあんな威力の魔法をあれだけ何度も撃てるのがおかしいのだ。
あの威力の魔法なら、下等生物としてはまれにいる優秀な個体でも2~3発、我々魔族基準でも4発か5発も撃てば魔力切れが起こるはず。それさえ起きていたら、私が勝てたはずなのに。
おそらく道中は魔法を一切使わずに、魔力を温存してこの部屋まで来たのだろう。
だがそんな万全な状態だったとはいえ、私との戦いでヤツはあれを8発も撃ったというのか……!
おそろしい。魔力の質も量も。あれは異常だ。
魔族の頑丈さを含めてなお、私が生き残れたことが奇跡と思えるほどに。
とはいえせっかく生き残ったんだ、拾った命は有意義に使おう。
ここを抜け出せたら、まずはどこか遠くの地へ足を運ぶか。
そこでひっそりと、今度はバレないように下等生物をさらうのだ。
あんなバケモノがもう来ないよう、さらってくるのは少しずつにしよう。
あせらずゆっくりと、今度こそ我々の悲願を
今回敗北した屈辱は、いずれ晴らせばいい。そのためにもまずはこの状況をなんとかしなければ。
そう
こちらに近づいてくる足音のようだが、モンスターのものではないな、下等生物であろうか?
ならばどこかで隙をみつけて脱出し、そして再起を図るとしよう。
下等生物にエミルのようなバケモノが、他にいるはずがない。
ヤツでなければ好機などいくらでも見つけられるというものよ。
我々の悲願のために、私はこんな所で終わるわけにはいかないのである。
近くまで来た足音が止まり、私の手になにかが触れる。
牢の扉をいつ開けたかわからなかったが、最初から開いていたのであろうか?
視界がふさがれているせいで、相手の正体も分からない。
そしてこれはなんだ? 指先を動かし手に触れている物の形を確かめたら、硬くて四角いことがわかった。
「これでよし。効果時間に限りがあるし、早速質問させてもらおうか」
触れた四角いものが取り上げられ、女の声がする。
聞き覚えのない、知らない声だ。
「はんは?」
なんだと言おうとしたが、口はふさがれていたためうまくしゃべれなかった。
「おっと、キミは聞いてるだけでいいんだ。むしろ喋られると混じるから、そうお願いしたい」
ふん。コイツのことはよくわからんが、身動きできない状態では仕方ない。
まずは少し様子を見るか。
「それでいい。まずキミはこの洞くつで、なにをしていたのだろうか?」
私が黙っていると、女が聞いてきた。
なにをしていたかだと?
決まっておろう。我々魔族の悲願である魔王様の復活。
その足がかりとして下等生物から魔力を絞りだし、それを使った高ランクモンスターの意図的な作成である。
とはいえこれは仮に口がふさがれていなくても、教えはしないがね。
「なるほど。では次の質問といこうか」
「よしよし。こんなところでいいかな。付き合ってくれて感謝するよ」
女がそう語る。ようやく終わったようだ。
まったく、一方的に質問ばかりしてきてなんだというのか。
質問されている間、私はずっと黙って聞いていた。
まあもし喋ろうとしても、しっかりとは喋れないわけではあるが。
聞きたいことがあるのなら早くこの口をふさぐ布を取ってくれたらいいものを。
話せさえすれば私の類いまれなる頭脳によってコイツをうまく誘導し、拘束を解き脱出できるのに。
「最後に、キミを解放してあげよう」
ん? この女、今なんと言った? 解放と言ったか? 言ったよな。
おおっ、話が分かるではないか!
さあ早くこの忌々しい拘束を解いて私を解放するのだ!
「苦しまないようにするから、安心してほしいよ。それではさようなら」
女がそう続けて言う。
苦しまないようにとは……私の拘束を外すのはそんなに……難しい……だろうか。
……んん? 意識がぼんやりする……ような。
この女……なにを……した……?
……ダメだ……意識が……。
……いったい……こいつは何者で……私はどうなる……。
…………なにも……分からな……。
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