第28話 砂煙の攻防
右腕を押さえて苦しむその姿を見ながら、僕は静かに告げる。
「降参するんだ、シャダック」
シャダックは目をつむり顔を歪ませていたが、しばらくすると目を見開いた。
さっきまでと違いどこか落ち着いたような表情に変わっている、観念したのだろうか。
「下等生物……いや、エミルといったか。その強さ、認めよう。もうお前を下には見ない」
シャダックは押さえていた右腕を放す。魔法を受けたその腕は動かないのか、だらんと力なく垂れたままだった。
「だが最後に笑うのは私なのである!」
突然、素早く間合いを詰めて、左腕の拳で殴りかかってきた。
速い! 僕はエアライドで即座に左へ跳び、距離を取る。
「どうなっても知らないからな。ウインドストーム・ランス!」
跳んだ先で魔法を唱え、風の槍を放つ。
殴る左腕が
「私がそう何度も喰らうと思うかね?」
風の槍が当たるかという直前、シャダックは不敵な笑みを浮かべ、横へ跳びのく。
魔法がこのまま壁にぶつかり、洞くつがもし崩れたらいけない。
戦闘魔法は生活魔法より制御しづらい。軌道変更は1発につき1回が限界だし、深追いはしないでおこう。
そう考え、風の槍の軌道を変えて、地面に向かわせる。そして地面に突き刺さると、風が広がり砂煙が舞い上がった。
しまった、砂煙で相手の姿が見えない。
僕は1歩後ずさると、砂煙のなかにぼんやりと影が浮かび上がった。
その影が腕を振り上げ、姿を現す。出てきたシャダックが拳を振り下ろした。
僕はエアライドを使い、真後ろへ短く跳んで避ける。直後に地面を叩きつける衝撃音が鳴り響く。
ゴーレム以上のパワーがありそうだ、1発だろうとまともに受けるのは危険すぎる!
「ほう、これもかわすか。だが逃げてばかりでは勝てんぞ?」
砂煙がまた立ちこめるなか、シャダックの影がぼんやりと浮かんでいる。
ある程度近いと砂煙に影が浮かび、一定以上離れていれば影は見えなくなるのか。
それならばと、僕は再びエアライドを使い、距離をとる。
このくらい離れれば、相手から僕の姿は見えないはず。
「ウインドストーム・ランス!」
放たれた風の槍が、砂煙を切り裂きながら飛んでいく。
「あまりがっかりさせないでほしいな」
しかしシャダックはあっさりとかわし、僕は軌道をまた地面へ変えさせる。
「そしてお返しである。アブソリュートダークネス」
「くっ……ウインドストーム・ランス!」
続けて放たれたシャダックの黒い光線に、僕の魔法が間に合い、風の槍が光線を切り裂いていく。
「ふん、やはり撃ち合いでは不利であるな」
シャダックは放っていた光線を解除し、自身に風の槍が届く前に回避した。
僕は風の槍を地面に着弾させ、砂煙がまた舞い上がる。
これじゃあダメだ。姿が見えないくらい距離を取っても警戒されて避けられてしまう。
どうしたものか思いつかないけど、突破口を求めて苦しまぎれにウインドを発動する。
発生した突風により、舞っていた砂煙は四方に散ったが、シャダックはその場に踏みとどまり後ろの壁まで吹き飛ばされることはなかった。
「はあ、今の私をこの程度で吹き飛ばせるとでも思ったのかね?」
砂煙が晴れて、ため息まじりのその表情もよく見える。おかげで試してみたい方法を1つひらめいた。
「まさか。まだここからだよ」
僕はエアライドで前方へ跳び、相手との距離を半分ほど縮める。魔法の発動より殴る方が早いため、一気に接近するのは危なく、だからこの辺りがちょうど良い。
「ウインドストーム・ランス!」
放った風の槍をシャダックは避けようと身構えるが、しかし避けるより早く風の槍は軌道を変え、相手に届く手前で地面にぶつかる。
「まだだ、ウインドストーム・ランス!」
砂煙が舞い上がるなか、さらに風の槍を放つ。さっきまでと違うのは、やや右へ撃ち出したこと。
そのままではあさっての方向へ飛んでいってしまうが一度だけ軌道を変えられる、途中で変えて相手の足元辺りへ着弾させるつもりだ。
風の槍は舞っていた砂煙を吹き飛ばしながら進み、軌道を変えると今までとは違う角度から襲いかかる。
「おっと、角度をつけてきたな。だがそれがどうしたというのだ?」
シャダックはこれまでよりわずかに反応が遅れるも、後ろへ下がって難を逃れた。
「まだまだ! ウインドストーム・ランス!」
今度の風の槍は左へ放ち軌道を変え、新たに舞っていた砂煙を切り裂くように飛んでいく。
残っている砂煙に浮かぶ影が、風の槍を回避しようと動き始めながら声をあげた。
「ヤケになったか。はあ、驚くべき魔力だったが
今だ! 相手の動きと声からそう判断した僕は、エアライドを発動して勢いよく跳ぶ!
さっき放った風の槍が地面に当たり、砂煙が立ち始めたころシャダックがまた話し始めた。
「ん? 砂煙に影がなくなった……また距離を取ったか。こうして私を壁に追いやり、避けにくい状況で遠くから狙うつもりだろうが、むしろ背に壁があることで、前だけに集中できるというもの。これで私を倒せると思ったのなら浅はか、浅はかである! 結局は下等生物! その程度だったということ!」
後ろの壁まで退かせたタイミングで、僕はエアライドによって上へ跳んでいた。
戦う前にシャダックは言っていた。この姿で戦うのは初めてだ、と。
戦い慣れてないと、状況の把握がおろそかになるし、不意に背後になにかあればそっちに気を取られてしまうよね。
以前セレナとした追いかけっこが思い出される。
分かるよ。僕もあのとき、そうだったから。
だんだんとシャダックが迫ってくる、正確には僕が空中から落ちて近づいている。向こうはまだ気付いていない、この辺りでいいだろう。
シャダック、オマエは強い。だから全力で倒す。
「ウインドストーム――」
僕の声に反応して上を向いたシャダック、その表情が驚きに変わる。
「なっ!? ま、まて――」
「ランス!」
それは目の前に降って放たれた、ゼロ距離からの風の槍。
体を貫かれたシャダックは地面に倒れて。
ただ1人立つ僕の勝利を告げるかのように、風が吹き抜けた。
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