第25話 ゴーレム


「ウインドストーム・ランス!」


 少女を抱きかかえたまま、片方の手で魔法を使う。


 発生した風の渦は片手の先で収束し、風の槍となってゴーレムを貫いた。


 周囲に風が広がると、ゴーレムは崩れさり魔石になる。


「たくさん、来る」


 みんなもタンスから出てきて、セレナが眉をひそめながら部屋の開いてる扉の方を向いた。


 どうやらもうじきゴーレムがやって来るとのこと。


 この距離だと消音魔法の範囲外だったか、または範囲内でもあれだけの音だ、いくらか聞こえてしまったんだろう。


「あ、あの、奥で妹がつかまってるの。村のみんなも」


 抱きかかえた少女が必死にうったえる。さっき倒れたときのものか、よく見ると彼女はひざをケガしているみたいだ。


「わかった。キミの妹も村の人も、助けてくるから安心して」 


 僕は助けると約束し。


「イーリス、この子に回復をお願い」


「わかりました。もう大丈夫ですからね」


 抱えていた少女をイーリスに渡して、お願いした。


「助けに行きたいけどゴーレム来てるんだよね、戦うのかな」


 リフィは戦う決意をみせるかのように、両手をぐっと握りしめる。


「僕がゴーレムを引きつけて進むから、みんなはここでこの子を守ってほしい」


 音のした方に集まってくるのなら、僕が外で戦えば部屋のなかは安全なはず。


「でもそれではエミルくんといえど、危ないのではないでしょうか?」


「ここまで来た道にすごい数のゴーレムいたけど、あれ全部来るかもしれないんだよ!」


 イーリスは少女を回復しながらも不安そうな声をあげ、リフィもここまでに見かけたゴーレムの数を考えて気にしている。


「この子がいる状況で乱戦になる方が危険だし、僕を信じてほしい」


 モンスターたちが迫ってきている、急がなければ。


「エミル、大丈夫?」


「ああ、必ず助け出してくるから」


 心配そうなセレナに答えて、僕は部屋の外へ向かう。


「それじゃあ、いってくるよ」


 そう言って部屋を出ると、静かに扉を閉めた。


 通路へ出ると、左右それぞれの道の先にゴーレムたちがいる。


 見える範囲で合わせて十数体、来た道からも進む道からもやってきていた。


 足並みは揃っておらずバラバラにだが、一歩ずつ着実に迫ってくる。


 数が多いな、近づかれる前にできるだけ減らしておかなきゃ。


「ウインドストーム・ランス!」


 魔法で生み出した風の槍はうなりをあげながら飛び、進む道のゴーレムを貫く。

 

「ウインドストーム・ランス!」


 次もすかさず放つ。それを繰り返した。


 1本の風の槍につき1体のゴーレムを貫き、周囲に風を広げながら倒していく。


 槍ではない通常のウインドストームならまとめて倒せるけれど、心配点があった。


 相手に当たってもそこで止まらず、壁まで貫通してしまうことだ。


 連れ去られた人の場所がわからないのに下手に貫通させるわけにもいかないし、壁を貫いて洞くつが持ちこたえられるかも不安ではある。


 1体ずつになるけど、ランスで確実に倒していこう。


「もう一発だ。ウインドストーム・ランス!」


 進む道にいるゴーレムたちを優先的に狙い、そっちの数を減らしていく。


 近くまで迫ったゴーレムが拳を振り下ろしてきたが、僕はエアライドで進む道へと跳ぶことでそれをかわし、さらに魔法を使った。


「いくらでも相手をしてやる。ウインドストーム・ランス!」


 ゴーレムたちの拳でいくつもの砂煙が立ちこめるなか、僕はエアライドで先を目指しながら、魔法を放ち続けた。


 あとからやってきたのも含めて、かなりの数ではあったが、大量にいたゴーレムは風の槍に貫かれ、次第に数を減らしていった。





 かなり戦い続けたし、ゴーレムたちはもうあとわずかだ。


 どのくらい倒しただろう、数十体かそれ以上か。魔石を拾って数えればわかるけど、そんな余裕はない。


 たくさん魔法を撃って動き続けてたから、ちょっと疲れたな。


 僕は手で汗をぬぐうと、残り少ないゴーレムを見てエアライドで跳んで進む。


 跳んだ先はこれまでより広い空間だった。


 壁にはたくさんの光石があり、洞くつの内部とは思えないほどとても明るく、奥には青い扉が見える。


 そして扉を守るかのように、モンスターが6体。


 1体はゴーレムに似ているが、それよりも大きい。それに岩ではなく青白い鉱石のようなもので身体ができていた。


 残る5体はローブを着て、足がなく浮いている。ウォーターマジシャンとほぼ同じだが、ローブの色が土色をしている。


「ミスリルゴーレムに茶色いウォーターマジシャンか!?」


 前には6体、後ろにも残っていたゴーレムがたしか数体ほどいるか。


 僕は身構える。それと同時に、前方の6体のモンスターもこちらに気付いて動き出した。

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