第24話 洞くつの部屋


 扉の先は、広い物置部屋のような空間だった。


 誰もいないその部屋の壁や地面はここまでの洞くつと同じ造りだが、地面の上にはタンス、棚、椅子、そしていくつもの膨らんだ袋が置かれている。


「行き止まり? ここじゃないのかな」


 リフィは開いた扉から顔を半分出して部屋をのぞく。


 たしかに連れ去られた人たちはここにはいないみたいだ。


 ただこんな部屋は洞くつ内で初めて見るし、探せば手掛かりがあるかもしれない。


「なにかあるかもしれないし、少し調べてみよう」


 僕がそう言い、みんなで部屋のなかへ。


 なにかあれば気づけるように扉は半開きにして、おのおので部屋を調べ始めた。


 僕は壁際の地面に置かれている大きな袋に目をつける。


 僕が身体を丸めればギリギリ入れるくらい大きい袋だ。


 そしてその袋はすでになにか入っているらしく、膨らんでいる。


 いったいなにが入っているのだろうと、袋を開けてみた。


 なかにあったのは、大量の赤くて小さな石。


 1つを手に持ってよく見てみる。魔石かと思ったけど、石のなかに魔石特有の輝きがない。


 似ているだけで、違うものなのかな。


「なにか、来る」


 セレナの言葉に緊張が走る。


 モンスターがこちらに向かって来ているのだろうか。


 戦闘になると他のゴーレムまでつぎつぎと来てしまう。それは避けたい、なんとか隠れてやり過ごせないだろうか。


 石をすぐさま全部出してこの袋に隠れるのは……いや、さすがにきびしいか。なによりみんなで隠れられない。


「こちらに隠れましょう」


 声がした方を見ると、なかがからのタンスの扉をイーリスが開けていた。


 かなり大きなタンスなので、4人くらいは入れそうだ。


 セレナやリフィが駆け寄り、イーリスとともに3人はタンスに入り込む。


「エミルくんも早くこちらへ」


 手にした小石を袋に戻していた僕は、うなずいて飛びこむとタンスの扉を閉めた。


 ……閉めたのだけどタンスのなかは予想以上に狭く、みんなと密着してしまう。


 僕の後ろにイーリス、左右にはリフィとセレナが、それぞれこっちを向いている。


 みんなの大きな胸も、形が変わるくらい身体にふれていた。


 狭く薄暗い空間で身体の密着感がいやに気になり、微かに揺れる息づかいまで耳に響くかのようだった。


 どうしよう。位置的にタンスの扉の前にいる僕がなんとかしなきゃ。


「あ、あの、やっぱり僕は別のところに――」


「しっ、だまって」


 話していた僕は頭をセレナに両手で包まれ、そのまま胸元に引き寄せられた。


 僕の口がセレナの胸でふさがれ、頭が真っ白になる。


 あわてて両手を振りほどき頭を離すも、密着している状況に変わりはない。


 タンスの外を確認したいけど、扉は閉ざされており確認できなかった。


 みんなからは緊張した空気を感じる。


 たしかにモンスターがいるかもしれないし、外へ出るのはやめておこう。


 一度戦いになれば近くのゴーレムが寄ってきて、面倒なことになる。だからここで動いて見つかるわけにはいかないよね。


 しかしみんなの胸が僕の身体や頭に当たってて、恥ずかしさで顔が熱くなってしまう。


 じっと耐えようと息を飲むが、柔らかな感触が意識にまでまとわりついて落ち着かなかった。


 やっぱり恥ずかしいけど、でも見つかるわけには……。


 そう考えてじっとしていたら、かすかに音が聞こえた。


「ぐすっ……ひっぐ……」


 なにか音が聞こえる。外からだろうか?


「……助けて」


 かき消えるような声を聞き、僕はタンスを内側から勢いよく開けた。


 見えたのは泣きながら倒れている小さな女の子。


 それとその子へ向けて拳を振り上げたゴーレム。


 一瞬の出来事だった。


 振り下ろされたゴーレムの拳が凄まじい衝撃音とともに地面を砕き、砂煙を立てたのも。


 エアライドで跳んだ僕が、少女を抱きかかえて助け出したのも。


「気づくのが遅くなってごめん。怖い思いをさせたね」


 僕は目の前のゴーレムを警戒しながら、少女に話しかけた。


 抱きかかえている少女は、ただただじっとこちらを見つめてる。


 いきなりのことに驚いてるのかもしれないけど、その瞳はもう泣いてなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る