第23話 洞くつ潜入
僕たちは洞くつから少し離れた場所で、入るための準備をしていた。
「それじゃあリフィちゃん、お願いしますね」
「はーい、まかせてー!」
イーリスに対してリフィが返事をし、消音魔法のサイレントが使われる。
生活魔法なので発動時に魔法名を口にしていなかったが、透明な
「これが、サイレント?」
「そうだよ。範囲は私を中心に周囲1メートルくらいかな。このなかの音は外からは聞こえにくくなるの」
不思議そうなセレナに、リフィが説明する。
「いまは普通に聞こえるし、おたがいがなかにいる場合はそのままなんだね」
「そうそう、効果があるのは範囲のなかから外への音だけだよ。それとあくまで聞こえにくくするのであって、まったく聞こえなくなるわけじゃないから」
「ということは外へも多少は聞こえるの?」
質問に答えてくれたリフィに、さらに聞いてみた。
「一度試してみよっか。ちょっと離れてみて」
言われた通り、僕はリフィから少し距離をとる。
「…………」
リフィの口が普段喋るときのように動いているが、なにも聞こえない。
いや違うな、耳をこらすと言葉までは聞き取れないが、かすかな音はする。
やがてリフィは口の動きを止め、身体を少し後ろに傾けた。そして。
「わああああああああっ」
大きく口を開けたリフィから、いつも話すくらいの大きさの声が聞こえる。
だけどこれは魔法によって小さく聞こえたもので、実際にはとても大きな声が出ていたであろうことははっきりとわかった。
イーリスの苦笑いと、セレナの渋い顔。
リフィのそばで大声をそのまま聞いた2人の反応が、それを物語っていたから。
さらにリフィの口が動いているが、なにを言ってるのかわからないため、僕は聞こえるところまで近づく。
「――でね、足音や話し声くらいなら平気だけど、さっきみたいな大きい音ならあんな感じで聞こえちゃうから注意してね!」
「あ、ああ、わかったよ。これなら移動は安心だね。ただ戦うときの音だと聞こえそうだし、できるだけ戦闘は避けていきたいな」
一度戦闘が始まれば、周囲のゴーレムがどこまで集まってくるかわからない。
そうならないよう、目標は戦闘をせずに奥までたどりつくこと。
「じゃあリフィの消音魔法で気づかれにくくなってるし、セレナに気配を察知してもらいながら進み、できるだけ戦闘を避けていこう。もしケガをしたらイーリスの回復魔法で。みんな、よろしくね」
「はい。おまかせください」
「りょーかいだよ!」
「わかった」
こうして僕たちは洞くつに
連れ去られた人たちを探すため、洞くつを進んでいる。
洞くつ内部は大きくていくつもに道が分かれており、複雑な造りをしていた。
「そういえばイーリス、森じゃないとはいえ暗いけど、大丈夫?」
「はい。壁に
暗い森が苦手なイーリスが心配になるも、イーリスは笑顔をみせる。
洞くつ内の乾いた壁に
おかげでライトの魔法を使ってもらわなくても、明るさに問題はない。
サイレントの魔法範囲から出ないよう身を寄せつつ、僕たちは素早く進んでいく。
「つぎは、こっち」
周囲にはゴーレムがたくさんうろついているが、セレナの気配察知によって鉢合わせず通り抜けられる道を選んでいた。
話し声や足音ならともかく、戦闘の激しい音は消音魔法でも周囲に響いてしまう。
そして音がするとゴーレムが集まってくるから、できるだけ戦闘は避けたかった。
「隠れて」
セレナの声とともに、僕たちは近くにあった岩かげに身をひそませる。
「あそこにもゴーレムがいますね」
岩陰からのぞくと、イーリスが言うようにこの先の通路にゴーレムがいた。
「このまま進むと見つかっちゃうよ。いったん戻って別の道を探す?」
それを確認したリフィも困った様子だ。
消音魔法で音が聞かれなくても、姿を直接見られたらさすがに気づかれてしまう。
「いや、ゴーレムにどいてもらおう」
僕は生活魔法のウインドを発動する。
狙いは前にいるゴーレムではない。後ろだ、僕たちが通ってきた道の方へ向けて風を放つ。
放たれた風が遠くの壁にぶつかると、パラパラとわずかに音を立てる。
小さな音だが前にいたゴーレムは気づいたらしく、音がした方へ移動を始めた。
僕たちは岩かげに隠れて、ゴーレムが通るのをやり過ごす。
「よし、今のうちに行こう」
感心するみんなとともに、さらに洞くつの奥へと進んでいく。
洞くつに入ってから、かなりの距離を移動した。
多くのゴーレムを見かけたが、ここまで1度も戦闘にならずにすんでいる。
戦って進むより、かなりの時間短縮になったはず。
早く奥にたどりつくためにも、このまま戦わずに進みたい。
そう考えながら歩いていると。
「あれ? こっち、なにか扉があるよ」
リフィが扉を発見した。
進んでいる道から少しそれたところに、赤い鉄製の扉がある。
この洞くつ内で扉を見るのはこれが初めてだ。
僕たちは扉に近づいてみた。
開けた先にモンスターがいる可能性もあるか?
「セレナ。扉の先の気配はどう?」
「だめ、わからない」
セレナに聞いてみるも、首を横に振られる。
そういえば扉のような障害物があると感知しにくいんだっけ。
ここを無視してさっきの道を進むこともできるけど、どうしよう。
「どうしましょうか。扉の先にいなくなった人がいる可能性もありますし、なかを確認してみますか?」
イーリスは考え込むように頬に手を当てる。
たしかにこの扉の先が、そうかもしれない。
仮に扉の先はさらに道が続いてたとしても、見てから進む先を考えればいいかな。
「そうだね、確認しておこう」
僕は同意し、みんなもうなずく。
この扉の先に、いったいなにがあるのか。
僕は緊張しながら、ゆっくりと扉を開いた。
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