第22話 ウォーターマジシャン
前方には10体のウォーターマジシャンたちが、それぞれ間隔を空けながら存在していた。
そのすべてがこちらに両手を向けると、
「攻撃来ます。気をつけてください」
イーリスが注意をうながすのとほぼ同時に、魔法陣から無数の水の球が放たれた。
勢いよく飛んでくる水の球を、僕たちは飛びのいて回避する。
「ウインドストーム・ランス!」
そして僕は避けた先で魔法を唱え、風の槍を放った。
風の槍が1体のウォーターマジシャンを貫き、周囲に風が広がる。それにより僕の履いてるスカートは風でひらひらと、はためいていた。
やっぱりこの格好は慣れないな……いや今はそれより戦いに集中しなきゃ。
「こっちも、1体」
セレナは素早く相手に近づき、隠し持っていた2本の短剣で斬りつけて倒す。
「いくよー、ライトニングボルト!」
リフィの手から放たれた一筋の稲妻でさらに1体。
「私も負けてられませんね」
イーリスも距離をつめてショートソードを振るい1体。
合わせて4体を、
残り6体となったウォーターマジシャンは、こちらと距離をとりつつも1か所に集まる。
そしてヤツらの前に、1つの大きな魔法陣が浮かび上がった。
「うわわっ、ヤバそうだよ!?」
リフィがあわて、イーリスやセレナも緊張した様子で身構える。
「僕にまかせて」
そう言って僕はエアライドで軽く跳び、みんなの前に出た。
相手の魔法陣から放たれた大きな水の
「ウインドストーム!」
こっちは巨大な風の渦で対抗だ。
風と水が激突する。空気が震え、風は勢いよく水を押し返した。
「バ、バカナアアア!?」
巨大な風の渦はウォーターマジシャンたちをすべて飲み込み、軌道を上空へと変えて昇っていく。
あとには少しえぐれた地面と、倒した分の魔石が残っていた。
「どうなるかと思ったけど、エミルがいて助かったよ」
「ひとまとめに倒してしまうなんて、鮮やかでお見事でしたね」
「エミル、つよい」
戦いが終わり、3人とも駆け寄ってきた。
「みんなが倒してくれたから集まったところを狙えたし、みんなのおかげだよ」
僕ひとりだったらあそこまでスムーズにはいかず、戦いもどうなったかわからないと思う。
「そうかなー、えへへ。なんだか私最近ね、魔法の調子いいんだ」
「あら、リフィちゃんもですか。実は私も、動きがよくなった気がしてるんです」
「私も、そう」
これまで以上の力が発揮できたことを、みんなが口をそろえて喜んでいる。
「みんな動きがよかったもんね、きっと成長してるんだよ」
みんなに対して僕は答えた。そういえば僕自身もさっきの一発目は、これまでにない手ごたえがあったな。
そう、水の壁を壊そうと撃った魔法、いつもより強力だった気がする。
でもそのあとの戦いでは今までと変わらないくらいだから、まぐれかもしれないけど。
「進む道を探したいところだけど、その前にいったん着替えようか」
慣れてない格好だといざというとき動きづらいし、着替えを提案する。
変装を解くために僕たちは木のかげで着替えることにした。
それぞれ着替え終わり、改めてここから進む道を考える。
周囲には森、それとくすんだ白い岩肌の切り立つ壁。
ヤツらは、あとは奥までと言ってた。ならば森の奥へ進んで行けばいいのだろうか?
そもそも森の奥というのはどっちだ?
……おとなしくもう少し様子を見とくべきだったかもしれない。
「あそこ、なにかある」
頭を抱えて悩んでいると、セレナが岩肌の方へ指を向ける。
「たしかに不自然な感じがしますね」
「感触も違うね、ここになにかあるのかな。でも堅いしどうすればいいんだろ?」
イーリスは岩肌をじっくり見て、リフィもふれたり叩いたりしている。
「僕が壊してみるよ」
これが無関係とは思えないし、ひとまず壊してみよう。
みんなには僕の後ろに下がってもらい、魔法を発動する。
「ウインドストーム・ランス!」
風の槍が岩肌に突き刺さる。周囲に広がる風とともに、壁は音を立てて崩れ去った。
岩肌が崩れ去ると大きな穴があり、それが奥へと続いている。
「洞くつみたいですね」
後ろにいたイーリスが顔を出して、穴をのぞいた。
「この奥にいるかもしれないね、さっそく行ってみようよ」
「来る、隠れて」
今にも飛び出して行こうとするリフィを、セレナが止める。
その言葉を聞いて僕たちは急いで木の後ろまで下がり、穴の様子をうかがった。
少しして洞窟の出入り口にいくつかの影が動く。
現れたのはどれも同じ見た目、全身が岩でできた二足歩行のモンスターだ。
遠くからではあるけどけっこう大きいのがわかる、2メートルはありそう。
そのまま隠れつつ静かに見守っていると、集まったモンスターたちは洞くつから出ずに奥へと戻っていった。
「あれはBランクモンスターのゴーレムです。動きは単調ですが、破壊力や耐久力に優れてますし、遠くの音を察知する能力が高く、異質な音を聞くと先ほどのように集まってきます」
「もし戦ったら他のゴーレムも寄ってきたりするってこと?」
「ええ。おびき寄せられたゴーレムのせいで戦いが激しくなり、そのせいでさらにゴーレムがやってくるという状況も考えられます。強さ以上にやっかいですし、もし上位種のミスリルゴーレムまでいたらより危険ですね」
僕とイーリスが小声で話していると。
「音なら私、消音魔法使えるから。周りに聞こえるの、かなり小さくできるよ」
リフィが片手を挙げながら提案してきた。
音を聞こえにくくできるのか、それなら見つからずに奥まで進めるかもしれない。
「あの、連れ去った相手がいると思われる場所もわかりましたし、ここでいったん戻るのも手ではありますけど、どうしましょうか?」
イーリスがおそるおそるといった様子で聞いてくる。
「えー、せっかくみつけたんだからこのまま行きたいな。私たちだって強くなってるし、なによりエミルがいるんだから問題ないよ」
リフィは進みたいようで、真剣な表情で洞くつをみつめていた。
「エミルに、従うよ」
セレナは僕にまかせるとのこと。
僕は改めて考えてみる。
相手の数はわからず、さっきのゴーレムにしてもあれで全部とは限らない。
僕たちが受けた依頼の内容は調査だし、場所を突き止めたなら成果としては充分だ。
いったん報告に戻れば、時間はかかるけど応援を呼ぶこともできる。
このまま洞くつへ入ってもし帰れなかったら、なんの手がかりも残せずじまいになってしまう。
ここから村までの帰り道に関しては、つれてこられた方へ歩けばたどりつけるか。
僕としてもみんなには無理してほしくないけど。
「いま助けないと手遅れになるかもしれない。だから進みたいんだ」
それでも僕としては進みたかった。
さっきウォーターマジシャンたちを倒したから、ソイツらが帰ってこないことをあとあと不審に思われ、ここから別の場所に移られたら最悪だ。
できれば相手にそうとわからぬうちに行っておきたい。
村で話を聞いたときの、悲しそうな人たちの姿が思い浮かんで胸が痛む。
あの人たちのためにも、解決したいな。
「わかりました。そうと決めたのでしたら、私もご一緒しますよ」
イーリスは決意をこめるように強くうなずく。
「よーし、私たちで必ず助け出そうね!」
リフィも気合がみなぎってる様子。
「うん、行こう」
セレナは洞くつを静かに見つめ。
「みんながいてくれて嬉しいよ。頼りにしてるね」
こうして僕たちは、洞くつに挑むことにした。
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