第21話 作戦開始
宿屋の一室で僕たちは失踪者探しの準備を進めていた。
「イーリス。その槍はどうするの?」
槍を布で包んでいるイーリスの姿が目に入り、聞いてみる。
「持ち運ぶと目立ちますし、ここで預かってもらおうかと思います」
布で包んでいたのは置いてくためだったか。
たしかに槍は隠し持てそうにない、布で包んだ状態ですら長くて目立ってしまう。
冒険者じゃないように見せたいのなら、持ち歩かない方が良さそうだ。
「そっか。あっ、じゃあ、代わりにこれを使ってよ」
僕は自分が履いてるスカートのなかに手を入れる。
そして隠し持っていたショートソードを鞘ごと取り出して、イーリスに差し出した。
「これはエミルくんのじゃないですか」
「僕には魔法があるから、イーリスに使ってほしいんだ」
「いいのですか。それじゃあこれをエミルくんだと思って、大事に使わせてもらいますね」
イーリスがショートソードを受け取り、隠し持つために衣服のなかへと入れる。
これでよし。他のみんなも準備できてるみたいだし、改めてこれからのことを話していこう。
「まずは人がいなくなったという場所を順々に回ってみようか。話にあった霧を待ちつつ、他の手がかりも探してみよう。いなくなった人たちの行き先がわかるといいな」
必ず見つけたい、そう思いながらみんなを見る。
「それじゃあ行くよ。作戦開始だ」
「おー、です」
「おー!」
「おー」
宿を出た僕たちはそのまま村の外へ行き、失踪があった場所を回っている。
最初と次の場所ではなにも見つからず、今は3ヶ所目の草原に来ていた。
「ここでも霧が起きないな。そう簡単にはいかないか」
晴天のもとで僕は辺りを見まわすも、霧が発生しそうな様子はない。
「手掛かりも見つからないね」
「ずっと探し続けですと疲れちゃいますし、少し休憩しましょうか?」
しょんぼりするリフィを見て、イーリスが心配そうに提案する。
たしかに僕も含めてみんな多かれ少なかれ、疲れているように思える。
「そうだね、じゃあ――」
「おおぜい、近づいてくる」
少し休もうかと言おうとしたとき、セレナがなにかに気付いた。
その言葉を聞くやいなや、周りに霧が発生し始める。
「わっ、壁があるよ。出れなくなってる!」
リフィの言葉に僕も手を伸ばしてみると、手の先になにかがふれる。
それ以上進めない、堅くて透明な壁がそこにはあった。
「ビジョガヨニンモトハ、コウウンダ」
いくつもの影が近づき、霧のなかでも見えるくらいの距離までやってきた。
全部で10体だろうか。青色のローブに、足がなく浮いた姿がそこにある。
僕たちはおびえた様子を見せつつ、みんなで身を寄せて小声で話す。
「あれはウォーターマジシャン。水を操るCランクモンスターです」
「水を操るって、じゃあもしかしてこの霧も?」
「霧もそうだし、よく見ると壁も水みたい。これだけ大がかりな魔法は難しいはずだけど、きっと複数で協力することによってこれらを発生させてるんだよ」
イーリスの説明に僕は聞き返し、リフィが答えた。
霧で見えにくいが、半球型の水の壁が僕たちの周囲を覆っている。
失踪にはモンスターが関わっていたのか。それに言葉も話すなんて。
美女が4人と言ってたし、僕もちゃんと女性と思われてるみたい。
男とバレないか内心ではドキドキだったけど、フリフリの衣服を着た
「ツイテコイ」
ウォーターマジシャンはそう告げて進みだした。
「どう、するの?」
「いなくなった人たちの居場所がまだ分からないし、少し様子を見よう」
小さな声で発せられたセレナの問いかけにそう答え、僕たちはついていくことにする。
もし危なくなればいつでも魔法が撃てるよう、心構えをして歩きだした。
僕たちは霧のなかを歩きつづけていた。
移動に合わせて、周囲の霧や水の壁も一緒に動いている。前を進むウォーターマジシャンたちが操っているらしい。
いなくなった人たちがこの先で見つけられるといいけど……。このまま進むにしても、ちょっと探っておこう。
「あのお、足が痛くて……。あとどのくらい歩けばいいの?」
男とバレないように、僕は裏声で聞いた。
「モウスグダ」
どうやらもうすぐのようだ。そろそろ場所がわかるとしたら、この霧と壁から脱出することも考えなければ。
「この先でワタシたちはどうなっちゃうの? 教えてほしいなあ」
「…………」
続けて2つめの質問をしてみたけど、返事はなかった。
「ツイタゾ。アトハオクマデアルクダケダ」
相変わらず霧で周囲の状況はわからないけど、どうやら目的地に着いたとのこと。
奥まで歩くと言ってるし、ここの奥に連れ去られた人がいるかもしれない。
視界と行動が制限され続けるのも考えものだし、ここから出るべきかな。
「そろそろやろうか。みんな、準備はいい?」
僕の問いかけに、みんながうなずいた。
まずはこの水の壁を破らなければ。
僕は両手を上に向け、息をすいこみ、魔法を発動させる。
「ウインドストーム!」
両手の先から大きな風の渦が発生し、放たれる。
巨大な風の渦は水の壁の天井を突き破り、周囲の霧も吹き飛ばして空を
今までで一番大きな風の渦だ。おかげで水の壁はくずれ、霧も晴れた。
周囲を見ると、ここは森のなかで、すぐ近くに岩肌がある。それとウォーターマジシャンたちの姿も。
「ナ、ナニィ!?」
ローブに隠れて表情こそわからないが、驚いているようだ。霧のなかと違って、その姿がよく見える。
コイツらが村の人たちを連れ去ったのか。
「なんで人を連れ去るのか知らないけどさ、オマエらのたくらみごと全部吹き飛ばしてやる!」
思い通りにさせるものか。さらわれた人たちを見つけだすんだ。
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