第20話 クエメルン村


 依頼を受けた翌日。僕たちは乗合馬車を使い、さらに1日かけてクエメルン村にやってきた。


 この村では女性の失踪が続いており、行方を探すのが今回の依頼内容だ。


 村長に事情をうかがい、次に失踪者の家族をたずね、話を聞いて回った。


「となりの村からの帰り道でした。9歳と7歳の娘たちと道を歩いていると、急に霧が出てきたんです。霧で娘たちが見えなくなり、急いで近寄ろうとしても見えない壁にはばまれて……霧が晴れたときにはもう……ううっ……」


「どうかお願いします。娘たちを見つけだしてください」


 泣きくずれる母親と、その肩を抱きながら切実に頭を下げる父親。


 聞けた話の内容に違いはあるけど、他の家もほとんどこんな感じだった。


 残された人の様子を見てると、胸が痛む……。


「かならず見つけるから、待ってて」


 僕は自分でも気づかぬうちに拳をぎゅっと握りしめていた。


 見つけだしたい、なんとしても。絶対に。





 一通り話を聞いた僕たちは、家の外で今後に向けて考えていた。


「目撃した方たちによると、村の外でふいに霧が出て、見えない壁も発生し、晴れるころには人が消えていたとのことです。いなくなったのは10名で、20代以下の女性ばかりのようですね。なかには小さな女の子まで……」


「なにか、ありそうだね」


 祈るように両手を組み合わせるイーリスに、セレナが難しい顔をして答える。


「霧と壁が出て、一定の年齢までの女性ばかりいなくなる。もしかしたらだれかがさらっているのかもしれないな」


 失踪した人たちの性別や年齢に共通点があるのは、偶然とは思えない。


 意図があるとしたら、これを起こしているだれかがいるはずだ。


「なんとかして見つけたいけど、ただどうやって探せばいいか……」


 僕が空を見上げながら頭を悩ませていると。


「1つ思いついたんだけど、エミルはいやがるかも?」


 リフィがなにかを思いついたらしい。


 どんなことかわからないが解決につながるなら、いやがりなんてするもんか。


「悲しんでる人たちがいるんだ。僕にできることならなんでもするよ」


 いなくなった人たちやその家族を想えば、できることは全てするつもりだった。





「本当にこれを着る必要があるの!?」


 宿屋の借りた一室で、僕は叫んだ。


 身に着けたスカートのすそを、両手で必死に押さえながら。


 下だけでなく上も、僕は上下ともに女性が着るような衣服に身を包んでいる。


「女の子ばかり狙われるんだから、エミルが女の子になればいいんだよ」


 リフィの案というのは、4人でおとりになって見つけだそうというもの。


 そのためにみんなは冒険者とわからないように目立たない衣服を。


 僕は男とわからないように女性がよく着る衣服を。


 それぞれこの村のお店で購入し、今にいたる。


 僕は女性が着る物に詳しくなくて、みんなに衣服を選んでもらったのだけど……。


「みんなのと比べてこれ、僕のだけフリフリしてない?」


 みんなが着替えた衣服は、シンプルだがそれぞれかわいらしくよく似合っている。


 それに対して僕のは装飾が多く、フリフリやヒラヒラであふれていた。


「男の子とわからないように変装するのですから、そのくらいあった方がいいと思いますよ」


 イーリスの言葉にリフィとセレナもうなずく。


「で、でもいくらそれっぽい服を着ても、女の子には見えないんじゃ……」


 僕は身を縮こませながら、不安を口にした。


「それは問題ないですよ」


「どこからどう見ても女の子にしか見えないもんね」


「かわいい」


 みんなが即座に否定する。


 大丈夫なのかな、ただやっぱり恥ずかしいな。スカート履くの初めてで、スースーするのが慣れないし。


 変装できてるか確認のためだろうけど、さっきから3人ともじっと見てくるし。


 でもいなくなった人を見つけられる可能性があるなら、やるべき……だよね?


 そう思いながらもすぐには決心できず、履いているスカートをドキドキしながら握っていたら。


「あの、おとりですけど私がやりましょうか? エミルくんやリフィちゃんセレナちゃんは離れて様子を見守るというのはどうでしょう」


 イーリスは頬に手を当てながら、自分だけおとりになると提案した。


 たしかにイーリスは自身や仲間の身を守る技術が高いし、向いてるかもしれない。


 そうすれば僕は変装する必要もなく、この衣服を着なくてすむよね。


 だからそれでいい……なんて言うはずはない。


 僕は頭を振って意を決する。


「イーリス1人を危険にはできない。僕もおとりになるよ」


 離れて見ているのだと、霧や壁で助けに入れないかもしれない。


 いや、例え霧や壁がなくても、仲間に1人でやらせるもんか。


 一緒ならすぐ助けることもできるし、もし1人がするようなら、そのときは僕がする。


 スカートとか、この衣服については、まあ……あまり意識せずに、がまんしよう。


「おとりの案を言い出したのは私だもん、私もするよ」


「私も」


 リフィとセレナも、イーリス1人をおとりにはさせないつもりのようだ。


「あらあら。それじゃあ、みんなでしましょうね」


 ほほえむイーリスに、僕たちはうなずく。


 みんなで力を合わせて、いなくなった人たちを必ず見つけだすんだ。




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