第16話 訪れた報い(レヴァン視点


◆レヴァンside



「レヴァン、グラッグ、ジュリア。お前たちを村から追放する」


「……はあ?」


 村の広場で告げられたその言葉に、俺は耳を疑った。


 告げたのは俺の養父ようふであり先代の村のおさを務めた男、ローウェン。


 いつも無口で無愛想な男だが長年の付き合いだ、悪ふざけでこんなこと言うやつじゃないのは知っている。


 そもそも周囲には村のやつらがほとんど集まりこっちをにらむようにしているし、冗談では済まない雰囲気だ。


「助けてくれよレヴァン!」


「私らに出てけだってさ、ひどくない?」


 まとめて追放を宣言されたグラッグとジュリアが、助けを求めてすり寄ってきやがった。


 こいつらはどうでもいいものの、俺が追い出されるのは困るな。


「なんで追放なんだ? 俺たちがお前らになにかしたか?」


「私たちにではない、エミルにだ」


 俺の問いかけに、ローウェンが答えた。


 あの落ちこぼれのことで、俺が追放だと?


「エミルを追放したことか? あれはやつが村の掟を破ったから対処したまでだぞ」


 俺の説明を聞き、ローウェンは口角を下げて息を吐く。


「レヴァン。お前は彼の家をファイアボールで燃やしたそうだな」


「なんでそれを――!?」


「グラッグ!」


 ローウェンの指摘に口を滑らせるグラッグに対し、俺は声をあげてさえぎった。


 無論それでごまかせるはずもなく、周囲がざわめきだす。


 グラッグはしまったという顔をし、ジュリアは頭を抱えていた。


 チッ! グラッグのバカが、余計な反応しやがって!


 しかしなんで俺がやったとバレたんだ。


 俺がファイアボールを使えることをこの村で知っているのは、グラッグとジュリアだけ。


 その魔法名ファイアボールまで言い当てたんだ、適当にカマかけたわけじゃねえはず。


「エミルの追放を聞いて不自然には思っていたが……残念だ」


 ローウェンは目を閉じ、頭を横に振った。


 ええい、なぜバレたかを考えるのはあとだ。今はこの状況をなんとかしなければ。


 俺があの落ちこぼれのように追放されるなんて、そんなことあってたまるかよ!


「お、俺は村の長だぞ? 村で一番強いんだぞ? 俺がいなくなっていいのか?」


 剣技を重んじるこの村では、最も強い者が長をする。


 俺は誰よりも強くなったから長なんだ、俺は村で一番えらいんだ!


「長は代わりの者が務めれば済むことだ。問題ある者が長を続ける方がまずい。そもそも一番強いなどと言っているが、お前は弱い」


「はっ? はあっ? 俺の実力は知ってるだろ? どこが弱いというんだ!」


「心だ。強さにおごり溺れているのが分からんのか? お前が追放した彼の方が、ひたむきでよほど強い心を持っていたぞ」


「だがよ」


 俺がローウェンに言い返そうとしたが、そこで邪魔が入った。


「あんないい子の家を燃やすなんてサイテー!」


「しかもでっちあげで追放とか、なに考えてんだ!」


「掟を破ったのはお前らじゃねえか!」


「アンタのこと尊敬してたのに、見損なったぞ!」


「恥を知れ!」


「許せない!」


「出てけ、今すぐ出ていけ!」


 集まっていたこの村のやつらが次々に、俺を罵倒し始めたのだ。


 どいつもこいつも俺より弱いくせに、責め立てる目で見やがって……!


「ま、まて――がっ!?」


 びせられる罵声をめようとするも、頭部ににぶい痛みが走った。


 石をぶつけられたとわかったのはそのすぐあとだ。


「誰だいま石を投げやがったのは!!」


 俺の一言で場は静まり返ったが、こっちに向けられた責め立てる目はどいつもこいつも変わらずそのままだ。


 こいつらめ! ふざけやがって! こんなとこ頼まれてもいてやるものか!


「ああそうかよ! 俺たちもエミルと同じように出ていきゃいいんだろ!」


「同じようにだと?」


 ローウェンの眉が、ピクリと動く。


「不当に追い出されたエミルと、自らの行いで追い出されるお前たち、それが同じなわけないんだろう愚か者が!!」


「――っ!!」


 身体を震わせながら怒りをあらわにするローウェンの迫力に、俺は言葉も出ないまま思わず1歩下がってしまった。


 くっ……ローウェンめ、養父とはいえ偉そうなこと言いやがって! 


 いつもそうだ! 俺のことを認めない! もう俺より弱いくせに! 俺はこんなに強くなったのに!


 だがこんなことをいま言っても情けなく見えるだけなのは分かっている。せめて、せめて平気そうに振る舞わなければ……!


「はっ、言ってろ。こんな村を追い出されても別に困らないんだよ」


 湧き上がる怒りを抑え、俺はこの場を、そして村を去ることにした。


 こうなってはもう無理だ、どうせ出ていくことになるだろう。それならとっとと出ていってやる。


 背を向けて、村を出るために歩き出す。


「世界は広い。この村を出て、心を鍛えてこい」


 ローウェンの冷静な声が聞こえ、俺は足を止めた。


 こいつ……! 俺の心が弱いと、まだ言いたいのか!


 俺はそのまま振り返らずに、止めた足をまた進め出す。


「待ってくれよー!」


「ちょ、ちょっと、私を置いてかないで」


 同じように追放されたグラッグとジュリアの声とかけ足の音が、後ろから聞こえてきた。





 村を出た辺りで、誰からとなく足が止まる。


「どうするの!? 帰ることができなくなるんだよ!? こんなの私生きてけないよ、ええーん!」


 ジュリアがやかましく泣いている。


 わめくな、どうにかできる方法があるなら俺が聞きてえよ……。


「なあ、ほんとに出てかなきゃいけないのか?」


 グラッグも未練がましいやつだ。あれではもう出ていくしかないだろ。


「だいたいあんたがレヴァンの親父さんの言葉に反応するからいけないんでしょうが!」


「だ、だがよ、あの人、なんでファイアボールのこと知ってたんだ?」


 怒るジュリアにけおされながら、グラッグが不思議そうに頭を悩ませていた。


「あん? 決まってんだろ。俺ら以外でそれを知ってたやつが告げ口したんだ」


 さっきは俺も不思議に思ったが、よくよく考えてみれば簡単なことだった。


「え、オレら以外で知ってるやつ? そんなやついるのかよ?」


「それって、もしかして」


「エミルだ。すべてはあの落ちこぼれのせい。それ以外考えられないだろ!」


 前のめりに聞いてくるグラッグとジュリアに対して、俺は答えた。


 俺のファイアボールを俺ら以外で知っているのはあいつだけ。


 つまりエミルが言った以外に考えられないというわけだ。


 クソッ! やってくれたな、あの落ちこぼれ野郎!


 しかも追い出すときのローウェンのあの言葉。


 俺よりあいつの方が強い心を持っているだと?


 認めねえ! 許さねえ! 俺の方が強いに決まってるだろ!


 エミルめ、次に会ったらタダでは済まさんぞ!


 俺は屈辱と怒りを胸に、レスティアの街を目指すことにした。



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