第14話 ショートソードとビスケット


 翌日、僕たち4人は冒険者ギルドをおとずれていた。


「リリリリッチ!? リッチってあのリッチを倒したのですか!?」


 魔石を前にギルド職員のミリアムが、大声をあげる。


「高ランクのモンスターをまた倒したなんて、さすがエミルさんたちですね。それでは依頼の品の納品と、魔石の買い取りをさせていただきます」


 そう言って手続きを始めるミリアムに、お願いねと僕は頼んだ。


「そういえばこのまえお話をした冒険者の方、ヴァネッサさんというのですけどね。つい先ほど、受けていた依頼のいくつかをこなした報告にきまして。そのときの彼女、今までと違って生き生きしていましたよ」


 ミリアムが報酬と魔石分のお金を渡しながら、嬉しそうに教えてくれる。


「そうなんだ。それはよかった」


 それを聞いて僕も嬉しい気持ちになった。


 あのとき彼女が言ってたのとは異なり、依頼が放置されなかったことも。


 落ち込んでいたというヴァネッサが前を向けたことも。


 



 依頼の報告を終え、冒険者ギルドを出る。


「このあとはどうしましょうか?」


「僕はちょっと寄りたいところがあるから」


 予定を聞くイーリスに、行ってみたいところがあることを伝える。


「じゃあそこ行こう」


「うん、ついてく」


 リフィの元気な声に、セレナもうなずいた。


「ああいや、今日は僕だけ行かせてほしいんだ」


 みんなと一緒がいやなわけじゃないけど、じっくり選びたいものがあるからね。





 みんなと別れて、僕は1人で街の武器屋にいた。


「まいどあり。がんばれよボウズ」


「うん。おっちゃんありがとう」


 銀貨で代金を支払い、ショートソードを受け取る。


 依頼などで手に入った、これまでの僕の分のお金。


 けっこう貯まってたし、それで武器を買うことにしたんだ。


 じっくり選びたかったからみんなとは別行動。


 剣だけでもいろんな種類があって、見ていて興奮しちゃった。


 店の奥で試し切りもさせてもらえたし、おっちゃん良い人だったな。


 昔から木剣ばかり手にしてたから、初めての新しい武器に喜びでいっぱいだ。


 僕は鞘に入ったショートソードを両手で抱きしめながら、はずむような足取りでお店の外へ出る。


 そこで、女性の叫び声が聞こえた。


「きゃあ! 泥棒ー!」


 そちらを見ると、見知らぬ男の人がこっちの方に向かってあわてて走ってきていた。


 あの人が泥棒なのかな。見過ごせないよね。


 僕はとっさにその人の進路をふさぐように前へ出る。


「まずは止まって話を――」


「チッ、だったらこっちだ!」


 僕が言い終わるよりも早く、その人は方向を変えて細い道へ駆けていく。


 むぅ、逃げられちゃった。


 仕方ない、急いで追いかけよう。





「チクショウ! 行き止まりか!」


「ここまでだよ。ぬすんだものがあるなら返すんだ」


 細い路地裏に逃げたものの先が壁であわてふためく相手に、僕は声をかける。


「ああ? ガキが生意気言ってんじゃねえ! ったらもう俺のなんだよ!」


 叫びながら泥棒が剣を抜いて襲い掛かってきた。


「なっ!? それならこっちも」


 僕もショートソードを抜き、相手の剣を受け止める。


 ガキンッ! ガキンッ! と、剣がぶつかりあって音が響く。


 よし、僕でも防ぐことはできている。


 これでも模擬戦のおかげで、攻撃されるのは慣れているんだ。


 そのまま何度も防いでいると、次第に相手の顔がこわばっていく。


「あっいた、いたたたた、急に腹が、むしろ全身いてえ」 


 男は急にしゃがみこんだ。


 地面に片手をつき、苦しそうにしている。


 僕の攻撃は当たっていない。


 だから痛むのはここに来る前に傷をってたか、または病気だろうか?


「えっと、どうしたの?」


 僕は心配で、その人をのぞきこんだ。


「どうしたってそりゃあ、こういうことだ!」


 男が地面についた手を振るい、僕の目をめがけて砂を投げてきた。


「うわっ!?」


 空いた手を前に出すも防ぎきれず、目に砂が入ってしまう。


「ひゃははっ! だまされたな、くたばれ!」


 砂で目が開けない状況で、男の声を耳にした。


 とっさに生活魔法のウインドを放つ。


「うおおおお、ぐえっ!?」


 風が発生する手ごたえ、男の悲鳴、そして衝撃音。


 ようやく砂が取れて、目を開く。


 取り戻した視界には、吹き飛ばされて壁にぶつかり、ぐったりした男がいた。





 少ししてこの路地裏に、被害者と衛兵がやってきた。


 僕が事情を説明すると、衛兵の人たちは周囲を調べ始める。


「ああ、取り戻してくれてありがとうございます!」


「気絶している。キミがやったのか、驚いたな。あとは任せてくれ、協力感謝する」


 盗まれたお金が被害者に戻り、泥棒は衛兵たちに連れていかれる。


 持ち主にちゃんと戻ってよかった。


 僕はほっと胸をなでおろし、路地裏を出ていこうとして。


「やあ少年。泥棒を退治したんだって? いやーすごいじゃないか」


 不意に女性の声が聞こえる。


 黒髪で丸眼鏡をかけた見知らぬ女性が、笑いながら路地裏にやってきていた。


「ところで盗まれた私の箱が見つからないんだ。そっちに落ちてないかな?」


「箱? うーん、見覚えないし衛兵にでも聞いた方が……」


 女性に言われて、僕は後ろを振り向く。


 後ろの先は行き止まりで、さっき泥棒がぶつかった壁があるだけだが。


 その壁のすぐ下に、手のひらサイズの黒くて小さな四角いものが落ちていた。


 これがあの人の言ってた箱かな、見たところなんらかの金属でできてるみたい。


 でも、なんでこんなところに? さっきはなにも無かった気がするけど。


 衛兵の人たちもこの辺りは確認したのに。


 不思議だけど実際にここにあるのだから、持ち主に帰すべきだよね。


 僕は黒い箱を手に取る。見た目ほど重くはない。むしろ軽い。


 すると黒い箱は一瞬、金色に光って見えた。


 今この箱が光ったような? 光の加減でそう見えただけ?


「おお、あったのかい。光が反射して綺麗だろうその箱は、はっはっはっ」


 箱を見つめる僕に、女性が笑って答える。


 おっと、いけない。他人ひとの物をこのまま持ってるのは悪いよね。


「見つかってよかった。はい、どうぞ」


「いやあ、ありがとう! 少年が手にしてくれて助かったよ」


 彼女は箱を受け取り、喜んでいる。


 そんなに喜んでくれると、僕としても嬉しいな。


「少年。キミにぜひお礼がしたい。ビスケットのおいしいお店を知っているのだが、ごちそうするから一緒にどうかな?」


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