第11話 なんのために①
翌日、僕たち4人は冒険者ギルドを訪れていた。
「ワイバーン!? ワイバーンを倒したのですか!」
魔石を前にして、ギルド職員のミリアムが驚きながら大声をあげる。
この反応ももう3回目になるかな。
他の冒険者を対応してるときは、ここまで驚かないのに。
「相変わらずすごいですね! では本日はこの魔石を売却しにきたのでしょうか?」
「それもあるけど、なにか受けられる依頼がないかなと思って」
魔石を手にするミリアムに、僕は新しく依頼を受けるつもりで答える。
「依頼を受けにきたのですか。それが今ほとんど残っていなくて……」
魔石の売却を終えた僕たちは、依頼が貼りだされている壁を眺めていた。
「たしかにミリアムが言ってたように、依頼が少ないね」
僕はいくつかの依頼書を見たけど、Eランクでもできるものはみつからない。
やる気が出てたのでちょっと残念な気もするけど。
困ってる人が少ないということだし、いいことだよね。
「あっ、これ、この依頼なら受けれるよ!」
誰よりも真剣そうに探してたリフィが、壁に貼られたなかの1つを跳ねるように指差す。
僕はその依頼の内容に目を通した。
街から少し離れた森、僕たちが以前スライム退治に行ったところ。
その森にはムーリットという花が生えている。
いっけん普通の花だけど、一部の特殊な個体は夜中から夜明けまでの時間に花びらがうっすら光るという。
そしてムーリットのなかでも光る花が複数、薬の材料として必要とのことだ。
製薬ギルドからの依頼で急ぎの薬ではなく、期限は一週間ほど。
「へえ、こういう花があるんだ。受けてみたい気するな。光ってるか見分ける必要があるから夜中に探すことになるけど、みんなはどうだろ?」
なにか依頼を受けたいと思ってたし、僕としてはやってみたい気持ちだ。
「うん、いいと思う」
「私も! 受けれそうなの他にないし、それに光る花を見てみたいな!」
セレナがうなずき、リフィも両手を挙げて賛成する。
「そ、それを受けるのですか? 夜中なのですよね……?」
唯一、イーリスはそわそわしながら違った反応をみせた。
「イーリスどうしたの? なにかあるのなら、僕とリフィとセレナの3人でいくか、もしくはこの依頼を受けるの自体やめておこうか?」
その様子がちょっと心配で、僕は他の方法を提案する。
「……いえ、なんでもありません。がんばりましょうね」
イーリスは2つの握りこぶしを胸の前で作ると、笑顔をみせた。
最初の反応で心配になったけど、なんでもないと言ってるし気にしすぎだったかな。
僕はそう考えて、この依頼を受けることにした。
僕たちはその日のうちに街を出た。
日がしずむ前に森の近くまで移動し、簡易テントを張って夜更けまで野営する。
夜遅くにしか光らないムーリットの花を探すため、しっかり休み。
そして充分に夜が更けたので、テントから出た僕たちはこのあと、森のなかへと入る、そのつもりなのだけど……。
「えーっと、イーリス?」
「ふぁ、ふぁひ?」
僕の腕にしがみつくイーリスから、うわずった声が返ってくる。
ぎゅっとくっつかれているので、僕の肩あたりに柔らかいものがあたっていた。
周囲がまっくらでなかったら、赤くなった僕の顔がきっとみんなに見られていたことだろう。
「もしかして暗いところ苦手なの? 家では平気そうだったけど」
「すすすすみません。私、このような暗い森がダメなんです……」
僕が質問すると、イーリスは震えた声で答えた。
普段しっかりしてるイーリスに、こんな
苦手を克服しようとするのはいいことだと思うけど、くっつかれてるこの状況はなんとかしたい。
「リフィ。こうも暗いと僕も動けないし、明かりをお願い」
「まかせてー!」
元気な声とともに僕たちの周りに魔法の光が生まれ、明るくなった。
その光は各自の周囲を数メートルほど照らしてくれている。
「キラキラする。これが、ライト?」
セレナが歩くと、動きに合わせて周りの光も移動した。
「そうだよ、生活魔法のライト。便利でしょ」
えっへんと胸を張るリフィ。
「ああ、助かるよ。イーリスもこれで平気かな?」
明るくなったしこれでどうだろうと思い、僕はイーリスの方を向く。
「は、はい。おかげで落ち着きました。もう暗闇なんかに負けたりはいたしません」
イーリスにほほえみが戻っていることを確認できて安心する。
「それじゃあ、いこうか」
しがみつかれていた僕の肩も解放され、このまま森へと入ることにした。
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