第9話 新魔法①


 冒険者ギルドをあとにした僕たち4人は、街はずれのひらけた場所へきていた。


「それで、お話ってなあに?」


 前を歩くリフィがくるんと振り返り、笑いながら聞いてくる。


「お願いしたいことがあるんだ。昨日だけど湖で、えっと、水浴び……したよね?」


 僕はそのときのことを思い出し、ドキドキしながら視線をそらす。


「水浴び楽しかったね、またしたいな!」


「あら、いいですね。今度またみんなで行きましょうか」


「うん、楽しみ」


 もう一度水浴びしたいというリフィに、イーリスとセレナも同調する。


「ええっ!? ま、またの話は置いといて、あのとき身体を乾かすのに使ってた生活魔法、ウインドを教えて欲しいんだ」


「いいけど、でもなんでだろ? 必要ならまた私が乾かしてあげるよ」


「僕は自分で乾かすから! ってそうじゃなく、ウインドを攻撃に使えないかなと思って」


「生活魔法のウインドを? エミル、ウインドストームあるしあれじゃダメなの?」


「あれだと加減できないから。さっきギルドでみんなに危険がおよびそうだったけど、あそこでウインドストームをもし使っても守りたいはずのみんなを巻きこみかねないし、周囲や相手も無事じゃすまないから。加減できる魔法を覚えておきたいんだ」


 首をかしげるリフィに、僕は理由を説明した。


「私たちに詰め寄ってくる女性の方がいましたものね。あのときもエミルくん、守ってくれてかっこよかったです」


 うっとりとした表情のイーリスに、セレナもこくこくうなずいている。


「けれども生活魔法って、攻撃に使えるものなのでしょうか?」


「普通はまず無理だよ、ウインドはちょっとの風がおこるだけだし。でも初級魔法であんなすごい風おこせるエミルなら、もしかしたら攻撃にもできるんじゃないかな」


 イーリスの疑問にリフィが答える。


 僕としてはそこまで考えてのことではなかったけど、できるかもしれないなら良かった。


「でもエミルはウインドならすでに使えるかも。新しい魔法覚えるにはね、覚えたい魔法を自分に使われるか、すぐそばで使ってもらうかしたら早いんだよ。適性の問題もあったりするけどウインドストーム使えるならそれは大丈夫そうだし。エミルは前に身体乾かすときウインド受けてるから、きっと使える準備できてるよ!」


「そ、そうなのかな。えっと、じゃあやってみるよ」


 リフィの説明に少し戸惑いながらも、魔法を試すことにした。


 おこるのは微風びふうのはずだけど、最初は軽めにしておこう。


 誰もいない方へ両手を向け、ウインドが発動するように少し魔力をこめる。


「これは……できてないのかな? やってみたけどよくわからないや。生活魔法って魔法名は口にしないでいいんだよね?」


 魔法を使ってもなにも変わらぬ光景に、発動できてないのかと少し不安になった。


「言わずに、できるの?」


「そうだよー。生活魔法は出力抑えて扱いやすくなってるから、発動したいと思えば使えるの!」


 なんで? というように聞くセレナに、リフィが答える。


 リフィは魔法に詳しくて頼りになるな。


「小さな風をおこす魔法なのですよね。発動できていないのではなく、発動はしているけど見ためだとわからないということはないのでしょうか?」


「そうかもしれないね。うーん、じゃあつぎは魔法を制御して動かしたらどうだろ。この前やってたウインドストームみたいにね、放ったあと動かすの。生活魔法は出力が低い分、あれより操作しやすいはずだよ」


 イーリスの言葉を受けて、リフィが提案する。


 たしかに発動したあと動かしてみれば、なにかわかるかもしれない。


「動かすんだね。わかった、やってみるよ」


 さっきのではわからなかったし、今度は少し強めを意識しウインドを放ってみる。


 ちょっとだけ手ごたえがあった気もするけど、見た感じだとやはりわからない。


 ならば発生したかもしれない風を制御するイメージで、動かしてみよう。


 生み出せてるかもしれない風を、こっちへ戻ってくるように制御する。


 すると風がこちらに向かって吹き抜ける。ウインドで風はちゃんと出ていた。


 ただし戻ってきたのは、微風というには少し強めな風だった。


「きゅっ!?」


「おおーっ!」


「……わっ」


 戻ってきた風により、周囲にいたみんなの髪がふわりとゆれる。


 それだけならまだしも、さらに衣服やスカートまで風によってめくれてしまった。


「あっ……ご、ごめん!」


 見ちゃいけないと思い、僕はあわてて顔をそむける。


「もう、こういうことは他の人にやってはダメですよ」


「ウインドより強い風だったし、それにちゃんと動かせてたね、すごい!」


「エミルなら、いいよ」


「わざとじゃないからね!」


 みんなは明るい声で言ってるけど、僕は顔を熱くして必死に否定した。





 あれから少し時間が経ったが、僕たちはまだ街はずれのこの場所にいる。


 さっき覚えたウインドの練習をしておきたかったからだ。


 みんなには先に帰っててと伝えたけど、3人とも一緒に残ってくれている。


「先ほどからいろいろ試しているみたいですけど、調子はどうでしょうか?」


 ウインドを誰もいない方向へ試していると、イーリスが聞いてきた。


「順調だよ。何度かやってみてわかったことがあるんだ。まずさっきリフィが言ってたように、生活魔法は攻撃魔法よりもだいぶ制御しやすいね」


 僕は新たにウインドを発動させ、生み出された風を放たず手元にとどめておく。


「こうやって手元に残して、そこからさらに小さくしたりもできるよ」


 放たず手元にとどめていた風を小さく収束させ、そのまま空中へ放つ。


「生活魔法だからさすがに威力は期待できないけど、加減が必要なときに使えそうだし、それにできることが増えて嬉しいんだ」


 うなずいてほほえみながら聞くイーリスに、僕も笑って答える。


「なにか、くる」


 不意に空を見上げて警戒をうながすセレナ。


 その視線の先を見ると、こちらへ飛んでくるものがあった。



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