第8話 初依頼を終えて
スライムを倒した翌日。僕たち4人は依頼の報告をするため冒険者ギルドにやってきていた。
「ビビビ、ビッグスライムを倒したんですか!?」
職員のミリアムが、驚いて大声を出す。
「デュラハンに続いてビッグスライムもなんて新人とは思えない功績ですね……ああっ! そういえばあなたが来たら教えるようにギルドマスターから言われてたのでした! 急いで伝えてきますから少々お待ちください!」
勢いよく話し続けたミリアムは、用事を思い出してあわてながら奥の部屋へ。
「にぎやかな人だね」
普段は元気なリフィがあっけにとられ、なんと言うべきか迷った僕は、笑ってごまかした。
「へえ~、あなたたちかい、デュラハンをやったという4人組は」
後ろから声をかけられ振り向くと、1人の見知らぬ女性が立っていた。
その女性はかなり大人っぽく、僕らよりも年上に見える。
木製のコップを片手に持っている、今までなにか飲んでいたみたい。
「うん。僕たちがそうだよ」
口元に笑みを浮かべるその女性に、僕は答えた。
「いやねえ、とても可愛い4人組の冒険者で、なかでもその男の子はあのデュラハンを一撃で倒した、と噂になってたものだからさ。あなたがそうなのね、もっと近くで顔を見せてちょうだいよ」
顔が見たいのかな?
僕は言われたとおりその女性に近づいていく。
「ふーん、そっかそっか。こんなツラしてたんだ」
「っ……!?」
彼女は表情を一変させると、僕の胸ぐらをギュッとつかんできた。
「ボウヤがデュラハンを一撃だって? 嘘つくんじゃないわよ!」
怒りをあらわにしたこわい顔が僕の目の前にあった。
そんなに近くで
嘘をついた覚えはないし、この人はいったいなにを怒っているのだろう?
「いきなりなんてことをするんですか!」
「嘘じゃないよ、ほんとに一撃だったんだから!」
「その手を、放せ」
イーリス、リフィ、セレナの3人が僕を心配して声をあげる。
「僕は……大丈夫だから……」
3人とも今にも飛びかかりそうな雰囲気なので、右手を伸ばしてそれを制止した。
「デュラハンはAランクモンスターよ!? しかも一撃ですって!? 普通に考えたらわかるでしょ、そんなことできる人がいったいどこにいるというの!」
「なんで怒ってるのか知らないけど誤解だよ、まずは落ち着こう」
「まあ簡単に嘘を認めるとは思ってないわ」
僕の説得に応じてくれたのか、ようやく胸ぐらから手を放される。
つかまれてる途中、怒りたくなる気持ちも少しあったけど。
でも3人が僕の代わりに怒ってくれたから、おかげで気持ちを抑えられた。
ただその様子が、もしかしたら相手にも伝わっていたのかもしれない。
「ふぅんあなたたち、ずいぶん気持ちを
その女性が今度は、3人の方へ近づきながら手を伸ばそうとした。
僕はとっさに両手を広げ、みんなを守るように間に割って入る。
「僕のことはいいけど、仲間には手を出さないで」
「……!」
その女性は僕と目が合うと、驚いたように動きを止めた。
「ちょっとー、どうしたんですかー!」
奥の部屋から戻ってきたミリアムが事態に気づき、急いでこちらへかけてくる。
「ふん、今日のところは帰るわ。でもこれで済んだとは思わないことね」
そう言い残して、彼女は去っていった。
「あの、なにかあったのですか!?」
「なんでもないよ。大丈夫」
やってきたミリアムに、僕は答えた。
みんなにケガなどないし、おおごとにはしなくていいかな。
「それならいいのですけど。彼女、以前は優秀な冒険者だったのです。それが少し前に運悪くデュラハンと
ミリアムが悲しそうに教えてくれた。
あの人にそんなことがあったんだ。
さっきみんなに手を出そうとしたことを、それで納得したわけじゃないけど。
大切な仲間を失うのはつらいだろうから、かわいそうな気がするな。
「おう、エミルっていうのはおまえか? とんでもなく強い新人なんだって」
ミリアムより少し遅れて奥の部屋から歩いてきた大きな男性が、僕にたずねる。
「えっと、そんなに強いかはわからないけど、エミルは僕だよ」
「噂には聞いてたがこんなちっこいのか。ああ、俺はバルフェル、この街のギルドマスターをやってる者だ。異例の新人がいるってんで直接たしかめておきたかったんだが、むむ……」
バルフェルはこちらをじっくりと見てきた。
「なるほど、いい目をしてるな。さっき報告を受けたがビッグスライムも倒したんだって。解決してくれた分はきちんと報酬に上乗せしとくし、俺からも今後に期待させてもらうぜ」
さっきみたいに疑われるんじゃないかと思ったけど、そうならなくてホッとする。
「そんじゃ俺はこれで……ああそうそう。デュラハンやビッグスライムのような高ランクモンスターの目撃が最近増えててな。なにか良くないことでも起きてるのかもしれん。まっ、おまえなら問題ないかもしれないが、覚えといてくれ」
バルフェルは一方的に話し終えると、すぐさま奥の部屋へと戻っていった。
「ギルマスはあれで忙しい方なので、すみません。実際に高ランクモンスターの目撃や被害が増えていますし、無理はしないでくださいね。もしあなたたちにもなにかあったら私、悲しくなってしまいますから」
こちらをじっと見て真剣に話すミリアムに、僕は「わかったよ」とうなずいた。
僕たちの冒険と同じように、なんらかの脅威も、まだ始まったばかりなのかもしれない。
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