第7話 みんなで水浴び


 僕たちは身体の汚れを落とすため、森の奥の湖へとやってきた。


「湖だー、おっきいね!」


 綺麗な水がどこまでも広がるような湖を前にして、リフィがはしゃいでいる。


 神秘的な湖の光景には僕も圧倒されてしまいそうだ。


「それじゃあここで、身体を洗っていきましょうか」


 イーリスの言葉にリフィが「はーい」と元気よく返事して、セレナもうなずく。


 そして3人は着ている服をその場で脱ぎ始めた。


「わっ、わっ……」


 僕の目の前でみんなの衣服が1枚ずつ取り去られていき、肌が見え始める。


 その様子にドキドキしながらも、見てはいけない気がしてあわてて顔をそむけた。


 どうしよう、ここにいるのはおそらくまずいよね。


「え、えっと、僕は向こうでモンスターが来ないか警戒しとくよ」


 みんなを見ないようにしながら、この場を離れようとしたものの。


「周囲に気配けはい、ないよ」


 だから大丈夫という感じで、セレナにとめられてしまう。


「エミルもスライムでベトベトだし、ここでしっかり洗っとこ」


「水浴び、しよ?」


 リフィとセレナの声がして、腕をつかまれる。


 僕はいきなりのことに正面を見てしまった。


 こっちの腕をつかんでいるリフィとセレナも。


 それを見て「あらあら」とほほえんでいるイーリスも。


 3人とももうすべての服を脱ぎ終え、包み隠さぬ姿になっていた。


「ぁ……ぅ……」


 みんなの裸を見てしまい、顔が熱くなりながら、あわててまた顔の向きを変える。


 力の抜けた僕の腕は2人にひっぱられ、立ったままひきずられていく。


「ちゃんと服を脱がなきゃダメだよ」


「手伝って、あげる」


 そして湖のすぐ近くにつくと、2人は僕の服を脱がし始めた。


「ま、待って、脱ぐ、脱ぐからせめて自分で!」


 脱がされるなか、僕の声が湖にむなしく響き渡る。


 それでも大事なところを見られるのだけは、なんとか死守したのだった。





 僕はみんなに背を向けて、湖にかっている。


 僕もみんなも裸だから、見ないようにと思ってそうしていた。


「ふふっ、水が気持ちいいですね」


「あはは、それそれー」


「やったね、おかえし」


 後ろではみんなが湖をたんのうしている。


 聞こえてくる声からして、イーリスは身体を洗い、リフィとセレナは水をかけあって楽しんでいるみたい。


 下を向くと、赤くなった自分の顔が水面に映っていた。


 まだドキドキがおさまらない。


 昔はこんなことなかったのに僕の身体、変になっちゃったのかな……。


 ひとまずみんなの方は見ないで、意識しないようにしておこう。


 うつむきながら、そんなことを考えていると。


「エミルも水遊びしようよ!」


 前から声がして、反射的に顔をあげる。


 そこにはいつのまにか前へ回り込んだリフィが、裸を隠しもせずに立っていた。


 小さな身体に似つかわしくない大きな胸が、目の前にさらけだされている。


「あっ……ぼ、僕のことはほっといて!」


 見ちゃいけないと思い、目をつむりながら急いで後ろへ下がる。


 それが良くなかった。


 ふにゅっ。と下がるとき後ろへ伸ばした右手に、柔らかな感触が伝わってくる。


「ひゃんっ!」


 聞いたことのないようなイーリスの声。


 なにごとかと見てみると、彼女の大きな胸をじかにさわってしまっていた。


「ごっ、ごごごめんっ!」


「んっ……いえ、いいんですよ」


 あわてて胸から手を放す僕に、イーリスはいつものように優しくほほえむ。


 でもほほえみながらもその顔は、少し赤くなっているようにも見えた。


 もしかしたらイーリスに恥ずかしい思いをさせて、悲しませたんじゃないか……。


 さっきからドキドキはとまらないけど、それよりも悲しませたかもしれないことがつらくて、心も身体もうつむいてしまう。


 むにゅん。今度は背中に大きな柔らかさが感じられた。


「エミル、大丈夫?」


 後ろから聞こえてきたのはセレナの声。


 どうやら僕はセレナに抱きしめられているようだ。


 おたがい裸の状態で、僕の背中に柔らかいものがグイグイ直接押し当てられる。


「な、なにしてるの……?」


「さみしいのかなと、思って」


「さみしくないから! 今は特にやらないで!」


 いつもと変わらぬ様子で答えるセレナに、僕は大声でうったえた。




 

「それじゃあ、いくよー」


 リフィの元気な声がする。


 湖からあがった3人は、服を着る前に身体を乾かそうとしていた。


 きっとみんなまだ裸だから、僕は湖に入ったままそっちを見ないようにする。


「なんだかくすぐったいですね」


「すずしい」


 イーリスとセレナの言葉からして、生活魔法の1つで、微風びふうを発生させるウインドがリフィによって使われているようだ。


 生活魔法は魔法名を口にせず発動できるため推測ではあるけど、間違いなさそう。


「はーい、じゃああとはエミルだね」


「えっ? いや僕は乾かさなくていいよ」


 リフィの呼ぶ声を断るも。


「ちゃんと乾かさないと、風邪を引いちゃいますよ?」


「そうだよ、乾かそうよー」


 イーリスとリフィから、乾かした方がいいと言われてしまった。


 たしかに体調の管理も冒険者として大事だし、乾かすべきかもしれない。


「えっと、じゃあお願い……って、うわあああっ!?」


 僕は湖に入ったままみんなの方を見ると、3人ともまだ裸だった。


 しかもその身体を誰もまったく隠そうともしていない。


「み、見えちゃうしその……服、服着て……」


「誰も、いないよ?」


「僕がいるの!」


 誰に見られるのか分かってなさそうなセレナに、僕は大声で答えた。





「ちゃんと着たよ。エミルも早く身体を乾かそう」


 リフィの声がする。どうやらみんなが服を着終わったようだ。


 これで安心して僕も身体を乾かせると思ったところで、新たなことに気がつく。


 あれ、もしこのまま湖からあがったら、僕の裸が見られてしまうのでは……。


 3人の裸を見ちゃいけないとばかり考えてて、こっちのことは失念していた。


 どうしよう。


 身体を乾かすために必要なんだし、覚悟を決めるしかないのかな。


 みんな堂々としてたんだから、僕も恥ずかしがってちゃいけないよね。


 そう思いながら僕は湖からあがる。


 ただし気持ちとは裏腹に、両手を使って身体の上も下も隠しながらだけど。


 や、やっぱり恥ずかしい……。


 僕は顔を熱くしながらも、そのまま歩いてみんなの前まで来た。


「ようやくきたね、ってそれじゃちゃんと乾かせないよ。ほら、手をどけて」


「わっ、や、やめて……」


 抵抗むなしく、隠していた両手をリフィにどけられてしまう。


「あらあら」


「男の子ってこうなってるんだ」


「かわいい」


 みんなの視線が集まる。


「ぅぅ……見ないでぇ……」


 僕は心臓の鼓動が早まりながら、涙をこらえることしかできなかった。





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