第5話 共に過ごす
冒険者ギルドで用事を終えて、僕たちは建物の外へ出た。
「エミルくんとセレナちゃんは、これから過ごす場所はお決まりでしょうか?」
「このあと宿屋とか、どこか泊まれそうなとこを探すつもりだよ」
「私も」
イーリスの質問に僕が答え、セレナもうなずく。
「まあ。それでしたらよろしければ私のお
「えっ、イーリスの家に?」
思ってもみない提案に、僕は聞き返す。
「以前は家族で住んでいたのですけど、今はリフィちゃんと私の2人なので、空いてるお部屋もあるんですよ」
「私も住んでるの! エミルとセレナもきたら賑やかになりそうだね」
「家にだなんてそれは悪いよ」
僕はとまどってしまうが、イーリスとリフィは乗り気みたい。
「遠慮しないでください、私が来てほしいんです。命の恩人であるエミルくんと、そのお友達のセレナちゃんなら大歓迎ですよ。それに私たちは同じパーティーなのですから、ね?」
イーリスは軽く首をかしげながら、ほほえんでみせた。
しばらく歩き建物の数も減ってきたところに、その一軒家はあった。
大きくて綺麗で、温かみのある家。イーリスの家だ。
僕たちはここで一緒に暮らさせてもらうことになった。
「それではみんな、自分のお
広い庭を抜けて家の入り口にたどり着くと、イーリスは扉を開ける。
リフィが「ただいまー!」と元気よく、続いてセレナも「お世話に、なるね」と家のなかへ入っていく。
みんなが入っていくのを見ながら、僕はその場に立ちつくしていた。
そういえばただいまの言葉を聞いたのは、いつ以来だろう。
ずっと1人だったから、誰かと家に入るのもひさしぶりだ。
じいちゃんが生きてたころは、一緒に帰ったりもしたな。
「エミル、泣いてる?」
「ほんとだ。どうしたんだろ、どこか痛いの?」
振り向いたセレナが心配そうにし、リフィもあわてだす。
泣いてる? なんのことだろう?
僕は頬に手を当てると、たしかにぬれていた。
気づかぬうちに涙が出ていたようだ。
「ごめん。誰かと帰るのひさしぶりだったからかな、なんか涙でちゃった。あはは」
心配させちゃいけないよね。
そう思って涙をぬぐい、笑顔を作った。
「これからは、みんな一緒ですよ」
イーリスがほほえみ、リフィとセレナも優しそうな表情でこちらを見つめる。
僕はそれを見て、今度は自然と笑みがこぼれ。
そしてみんながいる家のなかへと入っていった。
僕たちは今、食卓をかこんでいる。
食卓には温かなシチューとパンが並び、ゆったりと食事を楽しんでいた。
「材料がこれくらいしか残っていなくて、ごめんなさいね」
料理を作ってくれたイーリスは、なぜか申し訳なさそう。
「こんなおいしい料理、ひさしぶりに食べたよ!」
「うん、おいしい」
僕は食べた本心を伝えると、セレナもうなずく。
リフィも「シチュー、シチュー♪」と、ごきげんな様子だ。
「喜んでもらえたのならよかったです。それじゃあパーティーを組んだことですし、改めて簡単な自己紹介でもしませんか?」
「依頼を受ける前におたがいのことを、もっと知っておきたいよね」
イーリスの言葉に、僕も賛同する。
「だね、私もみんなのこと聞きたいな」
「いいと、思う」
リフィとセレナも同じ思いみたい。
「それじゃあ僕から。僕はエミル。出身はテセロムの村だよ。得意なのは魔法……てことになるのかな、剣も練習してるんだけどね。冒険者だったじいちゃんのように、困ってる人を助けられる人になりたい。その想いで今日から冒険者を始めたんだ」
言い終えると、「つぎは、私が」とセレナが続いた。
「セレナ。狼の獣人。出身は、テセロム。得意なの、短剣と、障害物なければ、感知も」
普段は口数の少ないセレナが、頑張って話していた。
きっとセレナにもみんなと仲良くしたい気持ちがあるんだと思う。
「ランクは、D。冒険者するのは、将来のため」
そう言ってセレナは、なぜか僕の方をじっと見てくる。
将来のためだったんだ。初めて聞いたけど、なにかなりたいものでもあるのかな?
つぎに自己紹介を始めたのはリフィだった。
「はーい、私はリフィ、見ての通りエルフで、エルフの里からやってきたの。得意なのは魔法だよ。エミルみたいなすごい威力はさすがに無理だけど、代わりに生活魔法とかいろいろ使えちゃうんだから。イーリスとはね、ひと月くらい前に知り合ってすぐパーティー組んで、それで今はDランク。冒険者になった理由は、えーっと……」
元気に話していたリフィだったが、理由になると言葉が止まって考えだす。
「うーん、あっ、そうそう、私もあこがれがあって、それで、みたいなものかな」
エルフの里なんてあるんだ、初めて聞いたな。
理由についてやけに悩んでいたけど、言い方を迷いでもしたのだろうか?
「それでは最後に私もさせていただきますね。私はイーリスです。出身はこのレスティアの街でして、槍と回復魔法に少しばかり覚えがあります。先ほどリフィちゃんが言ってくれたように、ひと月ほど前から2人で冒険者を始めました。冒険者をするのは、私と一緒にいてくれるみんなを守りたいから、といったところでしょうか。いつでも癒やしますからなにかあれば、遠慮せず教えてくださいね」
イーリスの回復には、僕も会ってすぐお世話になった。
傷を癒やせる人がパーティーにいるのは心強い。
イーリスも自己紹介をし、これで全員がしたことになる。
それにしてもみんなDランクの冒険者か。
僕だけランクがEだから、早くみんなに追いつけるといいな。
「そういえばここで暮らすうえで、2つほどお願いしたいことがあるんです」
お願いしたいこと?
イーリスの話に僕は耳をかたむける。
「できればでいいのですけど。1つは、カギのかかったお部屋には、入らないようにしてほしいのです」
カギのかかっている部屋に入らない。
わざわざ言われるまでもなく、無理に入るつもりはなかった。
「うん。それはもちろんだよ。カギをかけてるのに入ったりしないから」
「私も、そうする」
僕が答えて、セレナも同意する。
「よかった、ありがとうございますね。それと、2つめのお願いなのですけど――」
夜も更けてきたころ、僕はこの家の一室をおとずれた。
「あら。エミルくん。来てくれたのですね」
部屋には大きなベッドがあり、その上にいるイーリスがこちらに声をかける。
「なんだか今日は疲れちゃった、ふわあ……」
「一緒に、寝よう?」
同じベッドの上でリフィがあくびをし、セレナは自身のとなりの空いてるところを軽くポンポンとたたく。
「向こうには他のベッドあったけど、本当にみんなで一緒に寝るの?」
僕はその光景を前にして、思ったことを口にした。
ベッドの大きさ的には4人でも大丈夫だけど、他にもベッドはあるのに。
イーリスの2つめのお願い。
『もしよろしければですけど、みんなで一緒に寝ませんか?』
というものだった。
住まわせてもらうのだし、お願いはできるだけ聞きたいと思っていたのだけど。
「無理強いはしませんし他のベッドで寝てもらうのももちろんいいですけど、みんなで眠るのはおいやでしたか?」
「い、いやってわけじゃないけど……」
みんなを前にすると、一緒に寝るのがなぜだか恥ずかしくなってしまう。
「明日は依頼に行くんだし、早く寝ようよぉ」
リフィがうとうと、眠そうにしている。
セレナはこちらを見ながら、まだベッドをポンポンしていた。
眠くて
このまま待たせるのも悪いし、どうするか早く決めなきゃ。
「おいやでなければまずは一度、試してみませんか? みんなで眠れば、きっとさみしくないですよ」
「う、うん。わかったよ」
優しく問いかけるイーリスに、僕は観念してうなずく。
下を向いたまま近づき、みんなのいるベッドへ入り込む。
そしておやすみの挨拶をそれぞれ交わした。
ドキドキして眠れるかなと心配だったけど。
じいちゃんが亡くなってからはずっと1人だったから。
誰かがそばにいてくれるのは、安心するな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます