第4話 冒険者ギルド
僕たち4人はパーティーを組むことにしたその日のうちに、街までやってきた。
「人も建物もいっぱいだ」
多くの人が道を行きかい、多数の建物が並ぶ光景に僕は圧倒される。
「エミルくんはレスティアの街に来るのは初めてなのでしたっけ」
「うん。ずっと村暮らしだったから」
イーリスに聞かれて、僕は頭を縦に振る。
この街のことは知っていたけど、来るのは今日が初めてだった。
「驚いちゃうよね。私も初めて来たときびっくりだったよ」
リフィが前のめりでこちらを覗きこむ。
「はぐれないよう手、つなぐ?」
「大丈夫。さすがにはぐれたりはしないよ」
僕が申し出を断ると、セレナは少し下を向いた。
「それじゃあ冒険者ギルドへ向かいましょうか。人が多いですし、ゆっくり進みましょうね」
僕たちは街のなかを歩いていた。
宿屋に武器屋、雑貨屋、食事ができるところも。
通りかかったお店がどんなものか、みんなが教えてくれた。
ここの通りじゃないけど、魔道具屋なんていうのもあるらしい。
いくつものお店を通り過ぎると、ひときわ大きな建物の前へ着いた。
「もしかしてここが?」
「ええ。ここが冒険者ギルドですよ」
期待に胸をふくらませる僕に、イーリスが教えてくれた。
ここが冒険者ギルドか、村になかったから見るのも初めてだ。
僕の冒険者生活は、ここから始まるんだ。
はやる気持ちで建物へ入ると、なかは大勢の人でにぎわっていた。
わっ、あのカウンターが受付になってるのかな。
あっちの壁に貼ってあるのは依頼書だろうか。
向こうのテーブルでは食事もできるみたい。
みんなに付いて行きながらも、物珍しさから辺りを見回してしまう。
「なんだあ、ずいぶんキョロキョロしてるガキがいるが迷子か?」
「ガッハッハ、子供はこんなとこいないでとっとと家へ帰った方がいいぞ」
冒険者らしきおじさんたちが、遠巻きに僕のことを話している。
迷子じゃないんだけど、心配してくれてるのかな。
「本日はどのようなご用でしょうか?」
受付に着くと、職員の女性が声をかけてきた。
「冒険者の登録と、それに魔石の売却をしたいな」
「はい。それでは私、ミリアムが対応いたしますね」
僕が用件を伝えると、ミリアムは笑顔で話を進め始める。
「まずは買い取りからさせていただきます。どのモンスターの魔石でしょうか?」
魔石というのはモンスターを倒したときに手に入る赤い石だ。
魔道具を作る材料になるため、買い取ってもらえる。
「これ、デュラハンの魔石を1つお願い」
「わかりました。それではこちらのデュラハンの魔石を……デュラハン!? あああ、あのデュラハンを倒したんですか!?」
魔石を渡したら、ミリアムは突然驚き、大声をあげた。
その声を聞いた周囲の人たちが、こちらに注目する。
「エミルの魔法でね、一撃だったんだよ!」
「私たちの危ないところを、助けてくれたんです」
リフィとイーリスが話し、セレナもそれにうなずく。
3人とも自分のことのように誇らしげな様子で、少し照れちゃうな。
「マジかよ。デュラハンといやAランクモンスターだろ」
「デュラハンを倒せる冒険者なんてわずかだよな? しかもそれを一撃だって!?」
「ミリアムちゃんの前にいるあの4人組か、よく見りゃ4人ともとびきり可愛いじゃねえか!」
「ただの子供じゃなかったか。話が本当ならこの場の誰よりも強いな、ガッハッハ」
遠巻きに見ていた周囲の人たちがざわついている。
「確認しました。たしかにAランクモンスターの魔石です、間違いありません! エミルさんって強いのですね! それではこちらの魔石は買い取らせていただきます」
ミリアムが代金である金貨を数枚出した。
「こんなにいっぱいもらえるんだ」
僕は驚いた。これだけあれば最低でも3日は寝食に困らない。
「いえ、Aランクモンスターの強さを考えたら安すぎるくらいですよ。あくまでこれは魔石の価値に対するものなので、これだけになってしまうのです。すみません」
申し訳なさそうに謝るミリアム。
なんだかこっちまで申し訳なくなってしまう。
「僕にはこれでも多いくらいだから。それより冒険者の登録もお願いしたいな」
「失礼しました。それではこちらの用紙に必要事項を記入して頂きたいのですが、文字は書けますか?」
「読み書きはじいちゃんに教わったから」
僕は紙に名前と出身地を書くと、ミリアムに手渡す。
ミリアムはそれを確認すると近くの職員に渡して、こちらへ戻ってきた。
「それでは冒険者について説明させてもらいますね。冒険者とは、ギルドに寄せられた依頼の解決をなりわいとする人たちで、各々に冒険者ランクが定められます」
そのあともミリアムによる説明は続いた。
依頼には受けられる冒険者ランクが決まっていること。
複数人で受ける場合は、最も低い人のランクが基準となること。
ランク外の人が手伝うのは自由だが、受けた人たち以外は実績扱いされないことなど。
「冒険者のランクについては、EランクからSランクまでの6つあります。その人の実力と、依頼の達成などによる実績の両方が充分である場合にランクアップできるのです。デュラハンを倒したエミルさんは実力でいえばAランクでも大丈夫でしょうけど、実績がないためEランクからとなってしまいます。申し訳ありません」
「そういう決まりなら仕方ないよ。もともとそんなに高いランクに僕がなれるとは思ってなかったし」
「そんなことないですよ。エミルさんならAランク、いえSランクにもなれる気がするんです。知っていますか? この街にAランク冒険者は数名ほどですし、Sランクにいたっては世界中で何百年もなれた人がいません。それだけ難しいのですけどエミルさんならきっとなれると思います。私、人を見る目はけっこうあるんですから」
ミリアムが人差し指を立てながら力説してくれた。
勇気づけるために言ってくれてるのかもしれないけど、それでも嬉しいな。
困っている人を助けることにもつながるし、より高いランクを目指してみたい。
「ありがとう。なれるようにがんばるよ」
「はい、期待してますね。そしてこちらがエミルさんの冒険者タグになります」
ミリアムは別の職員からなにかを受け取り、こちらへ手渡してくる。
僕の名前が入った冒険者タグだ。
これで僕も冒険者か。
受け取ったタグを見つめて、気持ちをかみしめる。
「あらあら。エミルくん、嬉しそうですね」
その様子を見て、ほほえむイーリス。
「うん、嬉しいんだ。困っている誰かを助けるのが冒険者だって、じいちゃんから聞いてあこがれてたから。僕もそういう人になれるといいな」
「エミルなら、なれるよ」
話を聞いてセレナが、優しい声でささやく。
「これでエミルも冒険者の仲間入りだね、おめでとうだよ!」
リフィはとびはねるような勢いで喜んでくれた。
こうして僕は今日、冒険者になった。
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