第3話 追いかけてきた少女
声がした方へ振り向くと、そこには見知った女性がいた。
「セレナ、どうしてここに?」
セレナは僕が小さい頃から仲良くしてくれる、5つ年上の幼なじみの女性だ。
美しい銀色の短い髪。それと同じ色をした、狼の耳と尻尾が生えた獣人。
口数は少なく表情もあまり変わらないけど、優しいし村の誰より可愛くもある。
背は僕やリフィより高く、イーリスよりは低い。
昔から僕と親しくしてくれるのは嬉しいけど、1つだけ苦手なところがあった。
「エミル。無事でよかった」
近づいてきたセレナに、僕は抱きしめられる。
「ななな、なんでくっついてくるの!?」
体がぎゅっとふれ合って、セレナの大きな胸も僕にあたる。
イーリスやリフィまでではないものの、かなりの大きさだ。
「さみしいのかなと、思って」
セレナは僕がなんでそんなことを聞くのか、わかってなさそうな様子。
こんな感じで僕によく抱きついてくるから、それが苦手だった。
僕が小さいころなら嬉しかったけど、でも最近はそうじゃない。
抱きしめられると、ドキドキして恥ずかしくなってしまうんだ。
「心配してくれるのは嬉しいけど平気だから!」
僕はあわてながらあとずさりをし、セレナの腕をほどく。
セレナは表情は変わらず、少しうつむいた。
「あらあら。仲が良いのですね」
「いいなー。エミル、私も抱きついていい?」
その様子を見て、イーリスはほほえましそうにし、リフィは自分もとお願いする。
「えっ!? そ、それは別のときにでもね。おたがい知らないだろうしまずは紹介しておくよ」
これ以上ドキドキすると僕の身がもたない、断りつつ別の話へもっていく。
「彼女は僕と同じ村のセレナ。こちらはさっき知り合ったイーリスとリフィだよ」
僕が紹介すると、それぞれが初めましてと挨拶をかわした。
「でもセレナはどうしてここに? 今は街で冒険者をしてると思ってたけど、もしかして村に戻ってきてたの?」
「村を出たと聞いて、追いかけてきた」
僕の問いかけに、セレナはこくりとうなずき、そしてえぐれた地面を指差す。
「そうしたらこれ、見えたから、ここへ来たの」
これというのは僕が使った魔法のことだろう。
「おっきな風だったもんね。あれはね、エミルの魔法だよ!」
「エミルくんは魔法で、私たちを助けてくれたのです」
リフィは両手を上に広げて大きさを表現し、イーリスは状況を説明した。
「これを、エミルが? すごい」
2人の話を聞いたセレナは、えぐれた地面を改めて見つめる。
「じゃあそれで僕のことを見送りに来てくれたんだ」
「ううん。ついてく」
今度は首を横に振るセレナ。
……ついてく?
「エミルに、ついていくよ」
「ついてくるって、ええっ? 僕はレスティアの街で冒険者するつもりなんだよ?」
「私も、冒険者だから」
セレナは証明するかのように、自分の冒険者タグを取り出す。
てっきり見送りあたりかと思ってたから、驚いてしまった。
「ついてったら、いや?」
「いやだなんてことはないよ。ただ僕はイーリスやリフィとパーティーを組む話をしてたところだったから……」
すでに街で冒険者をしているセレナが一緒に来てくれるのは正直嬉しいけれど。
まだきちんと決まってないとはいえ、イーリスやリフィとパーティーについての話をしているところだったから、どうしたらいいか困っちゃうな。
「あら。それじゃあもしよろしければ、エミルくんだけでなくセレナちゃんも、私たちと一緒にパーティーを組むのはどうでしょう?」
悩んでいたら、イーリスが両手を合わせて提案してきた。
「そうだね。エミルが信頼する人ならきっと大丈夫だし、私もいいと思う」
リフィが片手を挙げながら笑顔で賛成し。
「エミルと一緒なら、私もいい」
セレナもそれに続いた。
「ふふ。あとはエミルくんさえよければ、パーティー結成ですね」
みんなが僕を見つめる。
イーリスやリフィと組みたいと思っていたところだったし。
セレナが来てくれるのも、嬉しかったから。
もともと断わる理由なんて無かった。
「僕もみんなと一緒に冒険者をしていけたらいいな。これからよろしくね」
笑顔でそう告げると、みんなも笑顔になって。
僕に新しい居場所ができたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます