第44話 プロスポーツ選手にドヤる
僕はVRゴーグルを装着しなおし、観戦モードでゲームの様子を見ることにした。
殲滅戦で死亡したプレイヤーはマップを幽霊のように徘徊し、敵味方関係なくボイスチャットで会話が可能なため、相手チームと思われる話し声が聞こえてきた。
「さっき、スナイパーにヘッドショットで殺されたぞ。どこから撃たれたのか、まったく分からん」
「佐々木さんもですか。私は出会い頭に撃ち殺されましたよ。ミサイルを撃つ暇なかったです」
敵プレイヤーはアリサの技量に驚いているようだ。
分かる。上手い突砂って、もう、遭遇した時点で死亡確定というか、遭遇したことに気づかないまま撃ち殺されてしまう。
敵プレイヤーは突砂を知らないみたいだし、つよつよすぎるアリサにチート疑惑がかかる前に、説明しておこう。
「えっと。アリサ……じゃなくて、そのプレイヤーは突砂なんですよ」
「とつすな?」
「突撃スナイパーの略です。スナイパーライフルで、近距離戦闘をするんです」
「マジかよ。スナイパーライフルって、ゴゴル311みたいに遠くから撃つ武器じゃないの? 近距離で当てられるの?」
「当てられるように練習しているんです。ライフルを常に顔の高さに構えて、銃口の向きを意識し続けて、敵を見つけたらスコープを覗きながら狙いを微調整して撃つんです」
「俺さっき出会い頭に撃ち殺されたぞ。俺が射撃ボタンを押すよりも早く、ヘッドショットされたんだけど。そんなの無理じゃないの?」
「それは出会い頭だけど、出会い頭じゃないというか……。アリサは最初から狙っていたんです。室内に敵がいなかったら、ドアから来るって予想がつくし、事前に敵プレイヤーの頭が来そうな位置に銃口を向けておくんです」
「そ、そういうことか。こっちが目があったと思った時点で、すでに見られて狙われていたのか……。凄えな……」
もしかしたら、大会前に僕と一緒に廃病院を走り回った経験も活きているかもしれない。
「カメラ選択でGameEvent10を選ぶと、アリサが見ている画面が表示されます。敵が潜んでいそうな位置に銃口を向けつつ、視線自体は別の場所を見てたり、相手を視認していなくても、鉢合わせになったら撃ち負けるようなシチュエーションで撃ってるかも。わりと理解不能な動きしてますよ……」
「マジか。見てみる」
僕はBoDⅢで死んだら他プレイヤーの視点を見て勉強しているんだけど、マジでアリサの動きは、頭で理解できても、到底真似できるとは思えない変人の領域だ。
アリサはとにかく反応が早い。これを言うと社会人のベテランプレイヤーに『高校生のお前がいうな』って突っこまれるんだけど、マジで若いって羨ましい……。
「あ。これです、これ。銃口が視線よりやや上を向いているの、分かります? ヘッドショットしやすいようにしているんです。身長が低いから、常に銃口を視線より上にしてます。それと、この、銃口プルプルにも意味があるんです。視線を素早く動かしていると、自分の腕とゲーム画面の腕が微妙にズレることがあるから、確実に当てたいときは銃口と視線を重ねる必要があるんです。こうやって、頻繁に銃口に目線をあわせてプルプル振って、ズレを修正しているんです。あ、画面に敵が映っていないけど手榴弾を投げました。これはあそこに敵が待ち伏せていたら殺されるから投げたんです。ヒットマークが出ないから無人ということで、隣の部屋に行けます。いい感じに動いているけど、音を鳴らしまくっているから位置がバレバレだし、足下をまったく見てないから、クレイモアが設置してあったら死んでますね。背後も見ていないから、アスリートチームの人はガンダして背後からナイフで刺せば倒せると思います。キルしまくるのにデスしまくるアリサらしい動きです」
「マジかよ……。アリサって子が凄いのは分かったけど、こんなことを冷静に語れる君も、相当凄いんだろうな」
「あ、いえ、僕はキルレート1未満の、ただのクソ雑魚プレイヤーです……」
「そ、そうか……」
あ……。しまった。
プロのスポーツ選手を相手に、偉そうにゲームの蘊蓄を語ってしまった。
恥ずかしい……!
イベント中だし、今の、どこかで誰かの配信にのっちゃってる?!
だとしたら、マジで恥ず恥ず顔面ファイヤー……!
僕が相手プレイヤーとボイスチャットをしているうちにアリサが敵を連続キルし、僕達の勝利が決まった。
「アリサ絶好調じゃん……」
ゲーム終了後、変人スキルの少女がどんな自慢げな顔をしているのか見ようと、ゴーグルを外して横を向いたら、アリサはすでに僕の真横でふんぞり返っていた。
「ふっふーん。どっちの得点が上か、成績の教えあいしようよ。わたし、7人倒したよ。カズは何人?」
汗ばんだちっこいのがニヤニヤしている。
「……3ラウンド合計だと、30は倒したと思う」
「今のラウンドは? ねえ、今のラウンドは何人倒したの? プレイヤーの真の実力が試される屋内近接戦闘で、カズは何人倒したの?」
「さ、さあ……」
僕が身体ごと視線を逸らすと、アリサはオービット旋回を始めた。
オービット旋回とは、攻撃ヘリが機首を地上の目標に向けたまま周囲を旋回し、ひたすら連続攻撃するときに使う動きのこと。
僕が背中を向けると、アリサはすすすっと正面にやってきて、見上げてくる。
何度も何度も。
自分の方が成績が良かったからって……!
くっそ。僕は床コントローラーの上に立っているから、逃げられない。
「ほらほら。黙ってないで、何人倒したのか教えてよ」
「さ、さんにん……」
「汚ねえ口からクソを垂れる前と後に、サーをつけろ、な?」
ぐうっ。こういうところ、ガチでジェシカさんの妹だ~~っ。そういう言葉は学習したら駄目だと思うんだが。
「サー。3人であります。サー」
「そういえばさっき、銃じゃなくて、地雷で敵を倒しているクソみたいなクソログが出ていたんだけど、屋内戦闘で地雷を使うなんて、クソザコだよね。誰だろうね。エイムに自信がないFucking noobかな」
「サー。自分であります。サー」
「プフッ」
僕の返事がツボだったのか、アリサはぷいっと横を向いて、プフフッと噴いた。
「カ、カズの下手くそ~。カズは私がいないとなんにもできないんだから。どうしてもって言うなら、こ、これからも、ず、ずっと……。ずっと、一緒に遊んであげるから」
身体を動かして体温が上がっているらしく、アリサは耳や首筋が真っ赤だ。
とりあえず「サー、イエッ、サー」と応じておいた。
ジェシカさんは何をしているのだろうと思って探してみると、ゲームスペースに残ったまま何か喋っている。配信だろう。
なんか、ちょっと、もやっとする。
上手く言えないけど、僕のゲームフレンドなのに、知らない人向けに話している姿を見るのは……。なんか嫌かも……。
勝利したんだから、真っ先に僕に話しかけてほしかった。
いつもみたいに「オレ達が組めば勝って当たり前。最高の相棒だよな」と言ってほしかった。
しばらくジェシカさんを眺めていたら、
「カズのバカ!」
突撃馬鹿クソガキからローキックを食らった。
なぜだ。
「ねえ、アリサも配信中なんでしょ。ここにいていいの? 配信画面から消えちゃってない?」
「大丈夫だよ。アリサはジェシーのチャンネルのゲストみたいなものだし。ゲーム後は歌だから、アリサの出番はないよ」
なるほど。歌か。
よく分からんけど、テレビ番組で中継VTRを出している間に出演者が休憩するような感じ?
とりあえず、ゲームでも配信でもアリサが好き勝手やって、ジェシカさんがフォローするスタイルというのは、なんとなく分かってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます