第42話 第3ラウンド前の休憩時間
拠点Bを味方が護ってくれたので、100対71で勝利した。
拠点を2つ制圧していた割には点差が小さいから、味方の死亡が多かったのだろう。
「よしっ」
現実世界で小さくガッツポーズをしたら、リアルな痛みがふくらはぎに走った。
「痛ッ!」
ローキックを食らったしい。
ゴーグルを外すと、襲撃者の正体は案の定、アリサだ。
アリサは顔真っ赤だ。
「カズ、何度も私を囮にした!」
「えっと……」
ボイスチャットでなら「囮、ざまあ」とからかえるのに、正面に立たれると声が出ない。
ゲームから現実世界に戻ってきた瞬間、急に僕の声帯はひきこもりになってしまった。
「カズのFucking 馬鹿! うんこ食って吹っ飛んじゃえ!」
アリサの息は弾み、頬と額がうっすらと朱に染まっている。
走り回っていたし、かなり体力を消耗したようだ。あと、全身タイツは暑そうだ……。
アリサがむーっと頬を膨らませて睨んでくる。
どうすればいいのか分からずに困っていたら、ジェシカさんが間に入ってくれた。
「はいはい。アリサ、落ちつけー」
ジェシカさんも身体を動かし続けていたはずなのに、アリサと違って息切れした様子はない。
「ジェシー! カズが酷いんだよ。何度も私を囮にして、自分だけ生き残った!」
「そいつは許せないな。よし、罰だ。あとで昼飯を奢らせようぜ」
抱きついたアリサの頭を撫でるジェシカさんは、まるで飼い犬を可愛がるトップブリーダーだ。
あっという間にアリサは上機嫌そうに笑いだす。
「カズが私をエスコートしたいの? もう、しょうがないなー」
「カズ、外に屋台あるだろ。アリサは日本の屋台初体験だから、楽しませてあげてよ。お姫様のご機嫌とり頼んだぜ」
「う、うん」
ジェシカさんが急に顔を近づけてきたのだからドギマギしてしまい、僕はバネ仕掛けの人形みたいに何度も頷いた。美人は全身タイツでも美人なんだなあ……。
うわっ!
抱きついてきた!
な、なんで?!
あ、違う。僕のハーネスを外してくれているんだ。ビビったあ。
「むーっ、カズがまたジェシーを見てエロい顔してる! カズのエロ、馬鹿!」
しょうがないでしょ。年上の美人に近距離に迫られたら、誰だってキョドるよ!
それから10分程の休憩となった。
ジェシカさん曰く、普段の配信なら1時間以上でもぶっ続けでゲームをするけど、企業がスポンサーについているイベントだから『休憩はちゃんといれる』方針らしい。
ゲーム自体は40分くらいしか経ってないけど、休憩はマジで助かる。目は疲れていないし3D酔いもしてないけど、けっこう走ったから体力を回復させたい。
僕はマネージャーさんに促されて、部屋の端にあるテーブル席でスポドリを飲みつつ、お菓子を食べた。ジェシカさんとアリサは、ふたりでカメラに向かって和やかに何か喋っている。あー。ガチの休憩は僕だけで、ふたりは配信っぽいな。
「休憩、残り1分でーす」
マネージャーさんが休憩終了間近を告げる。すると、アリサが僕の方に元気よく駆けよってくる。
「いちばん美味しいやつちょうだい!」
「え?」
テーブルにはお菓子が複数種類置いてある。僕の好きなやつをあげればいいか。
戦争になるかもしれないが、僕は、チョコレートコーティングされたタケノコのお菓子を取る。キノコよりタケノコだ!
「あーん!」
「え?!」
うっそだろ。アリサが口を開いている。僕が食べさせるの?!
僕は緊張しながらタケノコをひとつ、アリサの口に近づける。唇に触れないように慎重に……。
パクッ。アリサがタケノコを食べた。「あーん」と2つめを要求されたから食べさせる。キノコと食べ比べなどさせない。タケノコだ!
あ。なんか、小鳥を餌付けしているみたいで楽しいかも。
そして、3つめで、不可抗力なんだけど指がアリサの唇に触れてしまった。
お、怒らないかな……。だ、大丈夫そう。気にしていないみたいだ。
僕がドキドキしていると、ジェシカさんが近づいてきて、テーブルに有った紙コップと、スポドリのペットボトルを手に取る。
そして、止める間もなく、僕の紙コップにスポドリを注いでしまった。
「あ、それ、僕が使ったやつです」
だから、そのスポドリは僕が飲みます――と続けるつもりだったが。
「あ。ごめん。時間ないし許して」
ジェシカさんは気にせず飲んでしまった。数分の一の確立で間接キスになっちゃうのに……。
「最終ラウンド、勝つぞ!」
「は、はい」
ジェシカさんがゲーム台に戻っていき、アリサも戻っていく。
一瞬ぼうっとしていた僕は、ふたりから僅かに遅れてしまうが、自分用のゲーム台に戻った。
休憩時間のどきどきを脳から追いだせ。ここからはゲームに集中だ!
10分の休憩を挟んだ第3ラウンドは、別のマップを使った殲滅戦になった。
ステージは僕とアリサがバス停で遊んだ廃病院の拡張版だ。
診察台や医療機器が乱雑に転がる部屋や、狭い通路での近接戦闘がメインになる。
12人対戦用の中型マップなので、部屋や移動可能範囲が増えている。
復活なしで戦い、相手チームを全滅させた方が勝利するというルール。
室内での戦闘は、近距離からの一撃死を狙えるショットガンやRPGが有利だが、僕は一対多の状況や中距離戦や継戦能力を考慮し、サブマシンガンを選択した。
サブウェポンは……。対戦車地雷!
戦車が出てこない屋内マップだけど、地雷にも使い道がある。
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