第38話 第2ラウンド開始。僕とアリサの連携で、サクッと拠点制圧

 第2ラウンドは同じ森のマップで、拠点を入れ替えての再戦だ。

 僕達が北側のソ連軍陣地から出撃し、スポーツ選手チームが南側の米軍陣地から出撃する。


「アリサ! 速攻でマップ中央の拠点Bまで行くよ!」


「りょっけー! 私の足を引っ張らないでよ」


 僕達ふたりはローディング中の打ち合わせどおり、先攻する。


 今回の作戦は、こう。

 僕とアリサが先攻してBを確保。味方が追いついたら、味方にBの防衛を任せて、僕とアリサがAかCを制圧し、2拠点を支配下に収めて勝利する。

 味方の指揮はジェシカさんだから、上手く配信しつつ、拠点を獲ってくれるだろう。


 僕はバギーに乗り、アリサを後部に乗せて走りだす。


 森の坂道は凹凸が激しく、バギーは激しく揺れる。


「ねえ、カズってガールフレンドいるの?」


 ゲーム中になんでこんなこと聞いてくれるんだ?

 ……もしかして、配信用の死亡フラグネタか?


「ああ。この戦いが終わったら、故郷に帰って結婚を申し込むつもりさ。一緒にパン屋をやるんだ……」


 ガコッ!

 ポーンッ!


 バギーが木の畝か何かを踏んで跳ねたとき、アリサがスポーンッと吹っ飛んでいった。


「アリサ?!」


 僕はバギーを急停止。バックして、アリサの倒れている位置に向かう。


「大丈夫? なんでいきなり吹っ飛んだの」


「カ、カズ、おつきあいしている人、いるの?!」


 アリサがよろよろと立ちあがる。さすが最新作のグラ。髪がボサボサで、衣装は土に汚れていてリアルだ。


「そんなことより、ダメージ大丈夫?」


「教えて!」


「あー。ゲームばかりしている半ひきこもりなんだから、いるわけないでしょ……」


「だよねー。カズってエロいもん!」


 事故ったけど意外と上機嫌だ。

 アリサが後部シートに乗ったから走りだす。


「カズってショボい顔してるし、ずーっとゲームばっかりしてるし、ガールフレンドなんているわけないよね! きっと、これからもずっと、カズのこと好きになる人なんていないよ! いひひひっ!」


「はいはい。どうせ、モテませんよ」


 アリサだって僕とずっと一緒にゲームしているんだし、ボーイフレンドなんていないでしょ……と軽口を返そうと思ったけど、やめた。


 冴えない容姿の僕と違って、アリサは多分、学校ではモテモテだろう。


 それよりも、残り数十メートルでマップ中央の拠点Bだ。

 敵も急行していたら鉢合わせになるかもしれない。警戒は怠れない。


「わ、私も、別に、そういうの、いないから……。えへへー」


「え?」


 アリサが何か言ったみたいだけど小声だったから、バギーの走行音に紛れてしまい、はっきりとは聞き取れなかった。


 僕達は隠密行動のためにバギーを乗り捨て、最後の距離を徒歩で詰める。


 見える範囲に敵はいないし、拠点の制圧ゲージも動いている。つまり、味方の方が多い。ゲージのたまる速度から察するに、ここにいるのは僕達ふたりだけ。周囲に敵はいない……。


 狭い森の中を走るにはバギーは操作が難しいから、おそらく敵は徒歩で移動している。


「このまま制圧できればいいけど……」


 僕とアリサは同じ倒木の陰に身を隠す。

 顔だけ出して敵側陣地へと続く林道を監視。


 すると、アリサが何かに気づいたらしい。


「敵の潜水艦を発見」


「駄目だ」


 アリサの言葉に、やや被せ気味に、強い口調で返す。


 本当は潜水艦ではなく、敵の兵士を発見したという意味。

 何かを発見したら、潜水艦発見と報告するやりとりは、FPSの伝統らしい。

 元ネタは知らないけど、年配のプレイヤーがボイスチャットでよく使っているので、僕は気づいたら真似するようになっていた。アリサも似たようなものだろう。

 敵の潜水艦を発見って言葉、なんか、語感がいいんだよな……。


 あるとき僕が『僕達が産まれる前のネタが今まで伝わっているのって、なんか感動ですね』みたいなことを言ったら『俺はそのときから現役なんだが』とか『産まれる前? それはさすがに噓だよ』とか言われたっけ……。


 鋭い銃声が1発、僕の意識を思い出からゲーム世界に呼び戻した。

 アリサが敵を狙撃して倒したようだ。

 夜マップなのに、走っていた敵をヘッドショットするなんて、相変わらず凄い。


「Target down……」


「グッジョブ、メーン」


 僕だったら走っている敵には、調子のいい日でも、ヘッドショット率は3割程度かな。VRだからか、スナイパーライフルってめちゃくちゃ狙いがブレるんだよ。ガチで床に伏せて狙わないといけない気がする。


 接近中の敵をアリサが次々とヘッドショットしていく。

 ひとり目が倒れたあと、他の敵は隠れることなく加速したのに、当ててやがる……。

 いくら相手が道のド真ん中を走って隙だらけとはいえ、半端ねえ……。


 曲がりくねった林道だから直線距離は短いけど、敵はアリサの姿に気づくことなく撃ち殺されているだろう。

 それ程までに、アリサの仕事が速くてスムーズ。


 アリサが撃ち漏らした敵を仕留めるのが僕の役割なんだけど、はっきり言って仕事がない。


「4人倒した。もうこっちには来ないかも?」


「うん。相変わらず、お見事な腕前で」


「じゃ、予定どおり奥の道からAに向かう?」


「うん。そうしよっか」


「じゃ、カズ、行くよ。アリサのお尻から目を離すなよ!」


「うん」


「や~ん。お尻に視線、感じる~っ。カズのエッチ~」


 ……いや、別にお尻はそんなにがっつり見ないけど。


 アリサの後頭部を見ながらついていくと、頭のウサミミリボンがピコピコ揺れていた。

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