第36話 自拠点で味方に悪戯される
どうしよう。まだ奪回されていないから、拠点Bから再出撃できるけど……。
再出撃待ち中は、同じく再出撃待ちの仲間とボイスチャットができるから、相談しよう。
「アリサ、みんな死んだし、本拠地でリスポンしよう。安地でSinさんに操作方法の設定変更を教えて」
「分かった。ジェシー、いい?」
「ん。りょっけー」
「いいよね! JC! いい!」
僕はジェシカさんの言葉に被せるようにして全力で叫んだ。
今、アリサが『ジェシー』って言ったよね?!
愛称とはいえ、名前を言ったら駄目じゃないの?!
緒方シンという芸名でVTuberやっているんだよね?!
「あー。カズ。今から、配信されないプライベートチャンネルね」
「え?」
「アリサがオレのことをジェシーって呼ぶのは、まあ、すでに以前の配信でやらかしているし、本人も気をつけてくれているんだけど、すぐにやらかすから、まあ、ネタになってる」
「え。それ、大丈夫なんですか」
「大丈夫じゃないけど、まあ、デジタルタトゥー? 漏れた個人情報は取り返しがつかない? なんて言うのか分からないけど、オレが妹からジェシーって呼ばれているのはググれば出てきちゃうからさ」
「あー……」
「それよりも、カズが今『JC! 大好き!』って叫んだのは配信に入ってたから、数万人に聞かれたからな」
「……え?」
「ジェシーを誤魔化すために叫んでくれたんだと思うけど、お前、JC好き宣言したからな?」
「略称がJCになるような銃って、ないかな……」
「オレは知らんし、普通、JCって言ったら女子中学生を連想するな」
「そ、そんな……」
やらかした……。で、でも、僕は高校生だし、別に中学生が好きでもセーフのはず……。
「プライベートチャット終了。再出撃可能になったぞ」
「了解……」
僕、アリサ、ジェシカさんは米軍の本拠地から再出撃。
ジェシカさんは滑らかに回転しつつ、時折カクカクと加速して体の向きが急激に変わる。
やはり、操作設定がよくないのか?
ゴーグルを外して左隣のゲーム台を見てみると、ジェシカさんがアサルトライフル型のコントローラーを構えて下ろして、構えて下ろして……と何度も繰り返している。
「揺れてる……」
ジェシカさんの胸が、身体の動きにあわせて揺れている……。
窮屈なタイツで押さえつけられているからか、格闘ゲームの巨乳キャラほど下品な揺れはせず、じっくり見なければ分からない程の揺れだ。だけど、僕はじっくり見ているから、揺れているのが分かる……。
「あー。カズからも揺れてるの分かる? やっぱ揺れるよな」
しまった。
うっかり口に出してしまったから、タイミング悪く本人に聞かれてしまった。
ジェシカさんはライフル型アタッチメントとコントローラーを接続しなおすために、ちょうどゴーグルを外していた。
ど、どうしよう。ジェシカさんに軽蔑される……。
けど、僕の不安とは裏腹に、ジェシカさんは普段と変わらぬ調子で口を開く。
「画面が揺れてどうにもならん。真っ直ぐ前に移動するとき、銃口を画面中央に向けたままにしないといけなかったからなあ。VRじゃなくて普通のFPSっぽい挙動してた」
た、助かった!
僕が揺れてるって言ったのが、胸ではなく、ゲーム画面のことだと勘違いしてくれた。
僕は安堵しつつゴーグルを装着。
「あっ」
パコンという効果音とともに、画面が小さく揺れる。
自拠点なのに撃たれた。
ライフは減っていないから、味方からの誤射だろう。
着弾の音が軽いから、威力の低いハンドガンだな。
FPSのオンラインには『乗り物をよこせ』とか『同乗させろ』とか、何かしらの意図を伝えるために撃ってくる人はいる。
しかし、バギーが2台余っている。
乗り物が欲しくて撃ってきたわけではない?
じゃあ、なんで撃たれたんだ?
分からないけど、とりあえず僕は少し移動する。
けど、また、パコン。
パコン。パコン。
移動しているのに、もの凄く正確な射撃が頭に炸裂して、情けない音を鳴らす。
移動している兵士にハンドガンで連続ヘッドショットするなんて、かなりの上級者だぞ。
こんなことができるのは……。
「アリサ、当たってる」
「当ててるもん」
背後からアリサの不機嫌そうな声がした。
「カズ、ジェシーの方、見てた」
「み、見てないよ」
「見てたの見てたもん!」
いくらなんでも僕がジェシカさんの胸を見ていたことまではバレていないはず。
「な、なんでアリサが僕の方を見ていたんだよ!」
僕はくねくね曲がったりぴょんぴょん跳ねながら走ったが、背後の声は遠ざからないし、ヘッドショットの音も続いている。
その技量は敵を倒すために使ってくれよ。
「べ、別にカズがジェシー好きとか大声で言うから気になって見てたわけじゃないもん」
「それは誤解だよ! 配信で言ったらいけないことを言ったかと思ったから、誤魔化そうとしただけ!」
「え? でも、ジェシー好きって言った……」
「JC! 僕が好きって言ったのは、JC! 日本語で女子中学生って意味!」
「……! そ、そうなんだ……。つまり……。お兄ちゃん、私のこと好きすぎ~って……コト?! え~……。えへへ……。しょうがないなあ……。いひっ……! いひひひひひっ!」
ん?
少し距離が開いたから何を言っているのかは分からなかったけど、射撃はやんだ。
どうやら納得してくれたようだ。
「それはそうと、そのハンドガンを取りだすときだと思うけど、スカートがめくれたままだよ」
「カズのエッチ!」
アリサが慌ててスカートを直した。さっき、僕の上でおいなりさんして、パンツ見せつけてきたくせに……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます