第33話 初めての接敵。僕達は敵を攻撃する

 僕達は森の中の曲がりくねった道を走る……。


「はあはあ……」


「カズ、どうしたの?」


 アリサが僕と並走し、顔を覗きこんでくる。


「はあはあ……」


 きっつ……!

 リアル操作VR、きっつ!

 曲がりくねった狭い道だからスティックよりリアルダッシュの方がいいと思ったんだけど、無謀だった。普通にめちゃくちゃ疲れる。

 誰だよ。ゲーマーが戦場に行ったら無双できるって言ったやつ。そんなことないぞ!

 体力がないから戦場に着く前に死ぬだろって言ったやつの方が正しい!


 アリサが坂道を元気に走り、僕の前に出る。


「あれえ? もしかして疲れちゃったの? ほーら。アリサのお尻だよ。追いかけて。ほ~ら。お尻、ふりふり~」


「はあはあ……」


「どうしたの? アリサのお尻を見て、興奮してるの? へんた~い。ほ~らほら。追いついたら触ってもいいんだよ」


「はあはあ……」


 僕はスティック操作に切り替えて体力を回復させている。


 ……待って。アリサ、やけに小刻みに動いているけど、リアルで走ってる?!

 段差を回避するための小さなジャンプとか、真横への急なスライドとか、スティック操作とは思えない動きをしている。

 こいつ、走りながら僕を煽る余裕があるのか?!


「はあはあ……」


 僕達は接敵せずに拠点Bに到達。

 倒木が有るから、僕は倒れるようにして木の陰に伏せる。


 はあはあ……。

 拠点に一定時間滞在すると制圧成功となり、時間経過によってポイントが入る。

 マップには拠点が3つ有るから、多くの拠点を制圧した方が有利だ。

 今、AとCは中立状態。

 僕達がいるB拠点が、制圧開始中……。


「カズ、これからどうするの? どうする、どうする、どうするの~?」


「はあはあ……」


「もー。ずっとアリサの可愛いお尻見ていたからって、鼻息荒すぎだよぉ……」


「はあはあ……」


「カズ……。もしかして、妹のお尻に興奮するシスコン兄のキャラを演じているんじゃなくて本当に大丈夫じゃない感じ?」


「はあはあ……。だ、大丈夫……」


「普段から運動しよ?」


 ふざけていた声音が急に、すん……と真面目なトーンになった。


「う、うん……。アリサは凄いね……」


「アリサはダンスレッスンとかボイトレとかしてるよ」


「そ、そうか……。はあはあ……。そういや、VRのリズムゲートかもよくやってたね……。はあはあ……。初めてのマップだし慎重に行く? それともここの制圧は味方に任せて、AかBに行く?」


「休憩したいだろうし、ここに待機でいいよ」


「アライグマ助かる……。じゃあ、当初の予定どおり、先ずはここを確保」


 僕が息を整えていると、アリサが無言で僕を指さして、何か身振り手振りしている。配信用のチャンネルに切り替えて、何か喋っている?

 トレッドミル床コントローラーのレビューなら、リアルで走ってるからガチで疲れるって伝えてくれぇ……。


 FPSは少数で敵陣に突っこんで勝てるものではなく、味方と連携する必要がある。

 だから無理して他の拠点へ向かわず、僕達は敵の出方を見ることにした。……という建前で、僕の休憩だ。配信映えしなかったらごめん……!


 拠点Bの制圧が完了したと同時に、敵が視界に映る。やはり相手も配信の挨拶やらなんやらで、動きだしが遅かったのだろう。

 相手は僕達の待ち伏せに気づいていない。


「引き付けてから撃つ。僕は左。アリサは右頼む!」


「りょっけー!」


 距離約30メートル。

 僕は左側の兵士の胴体を狙ってアサルトライフルを撃つ。射撃自体はトレッドミル床コントローラーだろうと通常コントローラーだろうと変わらない。普段どおりに撃てばいい。


 パパパンッとひとつの音となった3発の弾丸は、おそらく2発が胴体に命中する。

 反動で銃身が跳ね上がり、運が良ければ3発目が頭部に命中してダメージ3倍で敵を殺せる。

 命中が胴体への2発だけだったとしても、相手のライフを4割くらい削っただろう。


 と、そんなことを一瞬の間に考えたわけではないが、僕は着弾を確認するよりも先に、同じ敵に再度、射撃。


 パパパンッ。

 相手は死亡し、画面左上にキルログが表示される。

 

 GameEvent10 M16A2 GameEvent103 HeadShot  

 GameEvent12 M16A2 GameEvent104


 アリサの方が早く、しかもヘッドショットで仕留めたようだ。

 この試合が始まる前のゲームでは射撃精度が低かったけど、自分の体格と同じキャラクターを操作し、銃型コントローラーを使用するようになったから、射撃精度が大幅に向上したようだ。


「ヘッショ、ナイスー」


「ナイス、サンキュー」


 多分アリサは、僕みたいに銃口の跳ね上がりを利用したヘッドショットではなく、最初から敵の頭部を狙って、3発だけできっちりと撃ち殺している。

 そこが僕と猛者との間にある超えられない壁なんだろうなあ……。


 ん?

 背後から男の声がする。

 ようやく味方が追いついてきたらしい。


「おい、今の見たかよ」


「み、見た……。いや、見えなかった」


「ど、どうしよう。カズ。あの人達にアリサのパンツ見られちゃった……」


「絶対、別の話だよ」


「あのふたり、数発しか撃っていないのに敵が死んだ……」


「敵に弾が当たるって、ヤバくね?」


「ほらね」

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