第10話 対戦したら怒らせてしまった
銀行強盗を制圧した僕達は、車両に乗って逃走を開始し、ステージは佳境に突入した。
特殊任務中の主人公は警察の取り調べを受けるわけにはいかないため逃走する。だが、強盗の一味だと勘違いされて、警察の追跡を受け、カーチェイスとなる。
警備員の僕が主人公と同じ車両に乗って逃走するのは、ストーリー的にどうなのかと思うが、まあ、僕のドライブテクニックに任せろ!
僕はバーチャルなハンドルを握り、車を全速で走らせる。
バックミラーにパトカーが映ったら、ハンドルを切って進路変更すればいい。
ズダダダッと助手席から発砲音が鳴り響く。アリシアが身を乗りだして後方のパトカーを撃っているのだ。
そして、画面にGamveOverと表示される。
「あっ。あーっ! ノット、キル! ノットキル! ヒーイズ、ポリス! ポリス!」
「What?」
「ユー、シュート、タイヤ! パンク! ノットキル! ウィーアージャスティス! ノットキル! タイヤ! パンパンッ!」
「タイヤ! パンパンッ!」
「イエス! イエス!」
やった、通じた。外国人と意思疎通できている。
僕の下手くそな英語に、可愛い声が応じてくれるのって、なんか楽しい。
僕達は再び銀行前からカーチェイスを始め、アリシアがパトカーのタイヤを撃って破裂させ、ついに追跡を振り切った。
ステージ1最高難易度クリア!
「Thank you」
「イ、イエス!」
少女からの謝意を聞いてニヤけている僕キメエ、なんて思っていたら、アリシアから対戦の招待メッセージが届いた。
「ん? 協力プレイじゃなくて、対戦プレイの申し込み? 上等じゃん」
アリシアが作製したゲーム待ち受け部屋は、4部屋ある1階建ての廃病院で戦うモードだ。
(初期武器はランダム決定で、ハンデ設定なし? さっきの最高難易度をクリアできたのが、誰のおかげか分かっていないのか。いいのかなー。僕は大人気ないよ?)
ゲームが始まった。
廃病院の室内には手術台や倒れた棚が散乱しているし、ドアは外れて倒れており、いたる所に瓦礫が落ちている。
障害物が多くて歩きにくいし、室内の暗さも相まって隠れる場所が多い。
油断すれば一瞬で殺されてしまうだろう。
けど……。
警戒した様子もなく、デフォルト衣装の軍人キャラが走ってきた。アリシアだ。手に長い銃を持っている。どうやら、狭い戦場ではハズレの狙撃銃が初期武器になったようだ。
(床に落ちているガラスの破片を踏んだら、位置がバレるだけだって!)
僕はアリシアの側面からアサルトライフルを発砲。
「とりあえずワンキル」
アリシアが反撃を試みようとしている間に、倒した。
だけど、少し気になる。
アリシアはドアから突入した直後に振り返ろうとしていたから、僕の位置を読んでいた?
壁には穴や窓が多いから、僕の姿をどこかで目にしたのだろうか。
(ごっめーん。連続キルしちゃった)
復活したアリシアが同じドアから突入してきたが、すでに僕は反対側の死角に隠れている。
正確に頭を狙って倒した。
「Fuck!」
……ファック?
現実世界の背後から、Sinさんが言うような、下品な言葉が聞こえた気がするけど、気のせいだよな?
アリシアがくしゃみでもしたのだろう。
リアル世界のアリシアに気をとられていたら、VRゴーグルから走る音が聞こえてきた。
またしても、アリシアが同じドアから突入してくる。
別に僕が同じ部屋に篭もって待ち伏せしているわけではない。
あまりにもアリシアの突入が早い。
しかも、部屋に突入してくるなり、背中を見せてきた。
多分、僕の考えを読んで裏をかいたつもりで、部屋の左隅を狙ったんだろう。
けど、僕はさっきと同じ場所にいる。
ごめん。ほんと、ごめん。
キャンパー(同じ位置にこもり続ける悪質プレイヤーのこと)しているわけじゃないんだ……。アリシアが早いんだよ。
「なんつーか、ごめん」
背中が隙だらけだから、ナイフで斬った。しかし、やはりアリシアの反応は早い。背中を狙ったんだけど、振り向かれたから、喉元にナイフを突き刺すことになってしまった。
「Nooooooooooooooooooooo!」
絶叫が聞こえたから僕は思わずゴーグルを外し、振り返る。
立て看板の側面から、アリシアが顔を半分だけ出した。向こうもゴーグルを外している。
初めて見る素顔は人形みたいで可愛いけど、オコだ。
白いはずの肌は紅潮し、蒼い瞳では怒りの炎が揺らめいている。
僕と視線が合うとアリシアは僅かにフリーズしてから顔を逸らし「Fuckin Shit」と呟き、看板の陰に消えた。
(やっべ。見知らぬ外国人少女を怒らせてしまった。少し手加減しよう。あと、ナイフキルはヘイトを買うからやめておこう。それに危ないし)
さっき、僕は実際に右手でふとももに触れてからコントローラーのグリップボタンを押してゲームキャラにナイフを装備させ、現実世界で腕を振った。
道路の端っこにいたし、たまたま歩行者がいなかったから良かったものの、もしリアルで目の前に人がいたら殴っていた……。あ、いや、まあ、街中でVRゴーグルを装着している怪しい奴に近づく人はいないだろうけど、ナイフや手榴弾のように腕を振る攻撃は封印だ。
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