第9話 外国人少女アリシアと協力プレイをする
(昨日、Sinさんが、待ち合わせ場所に来れば一目で分かるって言ってた。Sinさんなのか?! こんなところにいるってことは、人を待っているからだし、引っ越すから大量の荷物なんだ! 外国人の小学生? それならミリタリー系シューターを遊んでいるのも納得だけど、声と外見が、ぜんぜんあってないじゃん!)
僕はラーメン屋の看板を迂回して少女にゆっくり近づく。
一歩ごとに心臓がバクバクしてきて、呼吸が苦しくなってきた。
なんて声をかけよう。
いつからか「どうも」とか「うっす」とか「こんばんゎ」とか適当な挨拶でゲームを始めることが多くなっていたから、改めてリアルで話しかけようとすると、なんて言えばいいのか分からないぞ。
(いやいやいや、待てよ、まだSinさんと決まったわけじゃない。もし人違いだったら大変だ。小さい子に声をかける変質者だ)
僕は腰を落とし、看板を挟んで、少女の反対側に隠れる。
(先ずはこれで情報収集だ……)
僕は手提げ鞄からVirtual Studio VR Ⅲを出す。休日の日中は母さんの目があるから、父さんはVRゲームを使えないため、借りやすい。
Virtual Studio VR Ⅲは僕のスマホとペアリングしてあるから、屋外でもオンライン通信が可能だ。
(Sinさんに『待ち合わせ場所に着いた』って連絡しよう。あれ?)
僕はメッセージ送信のためにフレンド一覧を表示するが、OgataSinはオフラインだった。
ということは、この子はSinさんじゃない。
そうだよな。たまに仕事しているみたいだし、お酒を呑んだこともあるみたいだし、Sinさんは成人女性だ。
(念のために確認しておくか。この子が位置情報をオンにしているなら、近距離のオンラインプレイヤー一覧に……。あった。AlisiaSantiago。アリシア……サンチアゴって読むのかな? うん。別人確定だ)
まあ、当たり前だ。Sinさんかもって思う方がどうかしてる。
こんな小さい子がハスキーボイスで『テメエのケツの穴に弾丸ぶちこむぞ!』とか『ファック、マイ、アスホーッ!』なんて下品なことを言うはずがない……。
Sinさんめ。僕、英語の先生に『ファック、マイ、アスホー』の意味を聞きに行って恥をかいたんだぞ……。
(せっかく起動したんだし、アリシアは協力待ちうけしているみたいだから、少し遊ぶか)
僕はアリシアが遊んでいるゲームに途中参加した瞬間、口に含んでもいない牛乳を噴きそうになった。
「これは酷い!」
アリシアはコンピューター操作の敵にフルボッコにされていた。
キャンペーンモード冒頭で、主人公が銀行強盗を制圧するところなんだけど、もう、爆発しすぎて銀行が戦場跡地と化している。あ、いや、跡地というか現在進行形で戦場だ。
一瞬、初めてSinさんと出会った日のことを思いだした。
2年前のSinさんも、銀行でレイプされていたっけ。
(開始直後の強盗犯に負けているのか……。げ。最高難易度じゃん。アリシアの移動はよろよろしているし、射撃精度も悪い……。うん?)
銃撃音が小刻みに、パパパンッ、パパパンッと響いてきた。
アリシアは射撃ボタンを押し続けないですぐに離すことにより、反動で銃口が跳ね上がらないようにしている。
VRゲームだと、プレイヤーの腕の位置は変わらないのにゲーム画面内では銃口が動いてしまうため、微妙なズレが生まれて的を狙いにくくなる。だから、非VRゲームよりも頻繁に照準を調整する必要があるし、小刻みに撃つテクニックが重要だ。
(初心者が指切ってる? あ。狙いが甘いとはいえ、撃つタイミングは申し分ない。BoDは不慣れだけど、他のFPSはやったことあるって感じかな?)
いや、あまり人のことは言えないか。
僕も『Battle of Duty Ⅲ』はやりこんだけど、『Battle of DutyⅤ』は昨日始めたばかりの素人。
しかし、最高難易度キャンペーンを途中までプレイしたし、このステージはクリア済みだから、今回はアリシアをサポートしよう。
アリシアは観光客を装った特殊任務中の海兵隊員。銀行で偶然、強盗と出会った……というストーリーだ。
キャンペーン途中参加の僕はどうなるんだ?
あ、銀行の警備員になるっぽい。
僕はアリシアを狙っている強盗を優先して倒すことにした。
意外なことに、初めて同じ戦場に立ったにしては連携が上手くいく。
僕が銀行内のシャッターを下ろしたタイミングにあわせてアリシアは移動するし、僕が強盗を倒した直後に、リロードしている。
目の前の敵しか見ていないかと思ったんだけど、ちゃんと僕の動きを見ている。
(セオリー知っているっぽい。やっぱ、BoDは初心者だけど、他のFPSの経験者か?)
あっ。ヤバい。
アリシアが背後から狙われているけど、気づいていない。
「チェック、シックス!」
ボイスチャットオフ設定だったから、僕は思わず看板の反対側に向かって声を投げてしまった。
方角を時計盤に見立てて6時方向、つまり後ろを見ろと警告したのだ。
「OK. Target down」
やった。少女と会話成立!
僕の英語が通じた!
……と喜んでみたものの、やはりというか、当然というか、アリシアの声はSinさんとは似ても似つかない、幼く可愛い声だった。別人確定だ。
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