第3話 後の最高の相棒OgataSinとの初協力プレイ

 ロードが終了し、僕は銀行の金庫から出撃する。


 金庫内に金髪のチンピラ男がいる。デフォルト衣装マフィアだ。OgataSinだろう。


「Sinさんお願いします!」


 オープンチャットだから挨拶してみた。

 しかし返事はない。夜の9時だし、しょうがない。


 先ずは警察の包囲網を突破して銀行から出る必要があるんだけど――。


「あっ。死んだ」


 金庫内で撃ち殺された。銀行内は完全に制圧されている。

 さすが2対20。出撃と同時に全方位から撃たれて死ぬ。

 OgataSinも撃ち殺されたようだ。


 僕達はすぐに再出撃する。


「Sinさん、右お願いします。僕、左見ます」


 オープンチャットだから敵味方関係なく付近の声は聞こえるけど、僕等以外はアメリカンキッズみたいだし、作戦を聞かれても大丈夫だよな?


「うわ。また死んだ」


 アメリカンキッズがキャアキャア叫んでいる。ハッピーになるお薬でもやってんのかってくらいテンション高いなあ。


「あれ。今ファックって言った。英語分かんないけどファックは聞き取れた。あ、また死んだ」


 だんだん、脳汁あふれてきた。

 あっ。再出撃と同時に、マフィアしか装備していないはずのRPGが撃ちこまれた。多分、先に死んだマフィアの死体から装備が奪われて、使われている。


 クランの勝敗が重要だったときなら、こんなにも死が続いていたらストレスでムカついていたはずだ。だけど、今の僕は死んでも誰にも迷惑がかからない。

 弾丸箱や救急箱を配れずに死んでも、文句を言う人もいない。


 OgataSinも退室しないんだから、きっとこの状況を楽しんでいる。


「なんとか一矢報いたいですよねー。でも、金庫の出入り口も地下トンネルも警察だらけ……」


 残り出撃可能数は、4。

 僕が参加してから、死んでばかりで警察をひとりも倒せてない。

 あと4回死んだら負けだ。


「あ、ああ……」


 結局、何もできないままひたすらボコられ続けて、僕達は敗北した。


 ルームメンバーそのまま、次のマップのロードが始まる。

 画面は警察のオフィスになり、本来なら20人いるはずの空間に僕とOgataSinが現れる。

彼も僕と同じく、デフォルト衣装のアメリカンポリスだ。


 僕は壁に移動する。壁にはマフィアの顔写真や押収物らしき銃器の写真、そして、さっきの成績表が掲示されている。死んだだけの僕は0ポイントで最下位だ。


 僕は成績表を見ながら、OgataSinに話しかける。


「そういえば前、面白いことあったんですよ。アメリカンキッズの高い声を女性だと思いこんだらしきプレイヤーが『オー、プリティーガール』とか『アイラブユー』とか言いだしたんですよ。そこだけ、英語めっちゃ聞きとれた」


 とっておきの小話だけどウケただろうか。

 OgataSinはマフィアの顔写真――さっきの敵の成績上位者――を、手錠でぶん殴っていた。殺されまくってキレてるっぽい。


 僕はVRゴーグルを額側にずらして部屋の壁掛け時計を見る。

 9時半。あと1時間くらい遊べそう。

 僕はゴーグルを装着し直す。


 視線がやけに低い。どうやら、床に転がっているっぽい。

 たぶん、OgataSinに手錠をかけられて制圧された。

 僕でストレス発散しないでよ……。


 何名か途中参加のプレイヤーが警察オフィスに入ってくるけど、人数差を察したのか、やべえプレイヤーがいると思ったのか、一瞬で退室していく。


「Sinさん部屋変えます? 誰もチーム移動しないから次も2対20だけど、残るなら僕もつきあいますよー」


 OgataSinは僕の手錠を撃って破壊すると、次に壁の写真に向かって何発も発砲した。

 えっと、つまり、次はマフィアを逮捕せずに、ぶっ殺すって意味?

 殺すと得点が低いし、マフィアに強い武器がドロップするようになるけど、まあ、いっか。フルボッコされたからムキになっているっぽいし、つきあおう。


「それじゃ、寝るまでの残り1時間くらいですけど、よろしくお願いします」


 こうして僕は、クランを追放された直後の謎テンションで、勝ち目のないレイプ部屋に居残り、死にまくった。

 いや、もう、現金は全部奪われるし、カーチェイスでは煽り運転されるわ、パトカー盗まれるし、ほんと、一方的な展開になった。でも、OgataSinはよほど負けず嫌いなのかぜんぜん退室しないから、つきあった。


 最後の最後に僕がひたすら弾薬箱をOgataSinに渡しまくって、僕の狙いに気づいたOgataSinが手榴弾を投げまくって、ちょっとだけ善戦した。

 僕達は130回死んだけど12人も倒した!

 82だった僕のゲーム内レベルは15まで下がった。OgataSinの初期レベルがいくつだったのか知らないけど、レベル12だった。


「Sinさんありがとうございました。そろそろ寝まーす」


 明日は普通に登校日だから、いつまでもゲームはできない。


 僕はBoDを終了した。


 あ。

 VRゴーグルを外そうとしたところで、いったん停止。

 寝る前に、OgataSinにフレンド申請を送っておこう。

 オンラインには死にたくなくて後方に下がるプレイヤーが多いから、OgataSinみたいに成績にこだわらない馬鹿プレイヤーは好きかも。

 僕はVirtual Studioのプレイ履歴からOgataSinを探し、フレンド登録を申請しておいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る