第2話 僕はクランから追放される
翌日、VRゲーム機のVirtual Studio VR Ⅱを起動すると、ユウシさんからチャットの招待が届いた。
(昨日の反省会かな?)
僕は招待に応じた。VRゴーグルのカメラ越しに映っていた僕のリアル自室が一瞬で、ユウシさんのバーチャルルームに切り替わった。
肖像画や勲章が飾られたバーチャルルームの奥に机があり、ユウシさんのアバター、目つきの鋭い軍人が拳銃を整備していた。その斜め背後にクラメンのケンジさんが立っている。
無課金アバターの僕と違って、2人とも外国の軍人ぽくカスタマイズされていて格好いい。
「カズです。なんでしょう」
「カズ。手短に言う。お前をクランから追放することにした」
ユウシさんは、僕に見向きもせずに言った。
「……え?」
聞き間違い……じゃないよな?
「昨日の大会で負けたからですか?」
「いや。お前は十分やってくれたよ」
「だったら、どうして」
「優勝チームは噂どおり声優だった。その声優が大会の様子を配信してた。お前が狙撃でダウンを奪ったあとトドメをささずに放置して、蘇生にきたやつを狙撃しただろ。その場面の切り抜き動画がバズって、俺達を叩く流れになっている。声優レイプ事件なんていうタグまでできてXitterで炎上してる」
「炎上? なんでですか?」
「蘇生中のプレイヤーを狙撃するのはマナー違反だ」
「な、なんですか、それ……。そんなマナー聞いたことないです」
「バズってる動画がそう主張しているんだから、それが事実になるんだよ。うちが悪質プレイをするクランだって噂も立っている。クランの他メンバーまで叩かれる前に、お前を追放処分にする。これは決定だ」
「そんな……」
「弾丸配りや偵察をしてくれるから使ってやっていたが、炎上の原因になるなら除名するしかない。もともと、プレイ時間が他メンバーと被らず、やりにくかったしな」
「ぼ、僕はユウシさん達をプロにさせたくて……」
「俺は頼んでいないだろ。キルレ1以下のお前の力なんて借りなくても、俺は自分の力でプロになる。あばよ」
バーチャルルームは消え、画面は僕のリアル自室に切り替わった。
目の前に『あなたはクラン<JP_Gunmans>から追放されました』というメッセージが浮いている。
僕が首を軽く振ると、メッセージも一緒になって視界の中央に居座る。まるで、しっかり現実を受け止めろとでも言いたげだ。
ゆっくりと悔しさが込みあげてくる。
「弾丸配りや偵察だけが取り柄って酷くない? クラメンのみんながすぐに前線に出ていって撃ちまくるから、僕は後方支援にまわっていたんだよ? 僕だって前線で撃ちあいたいよ。みんなが残弾を気にせずに撃ちまくれてまくれていたのは、僕が弾薬をウーパーしたからでしょ?」
……でも、僕がキルレート0.4の雑魚なのは事実だ。これは10回死ぬまでに敵を4人しか倒せていない数値だ。
父さんのVirtual Studio VR Ⅱを借りてゲームしているから僕のプレイ時間帯がクラメンと重なりにくいことも事実だし、追放されても仕方がないのか……。
いや、もう、追放されたんだ。考えてもしょうがない。
切り替えて、これからはクランには所属せずに野良プレイヤーとしてやっていこう。
僕はBattle of Duty Ⅱを起動し、オンライン対戦を選ぶ。
「すかっとしたいから現金強奪戦にするか……」
BoDではゲームルールが複数存在するが、大雑把に2つに分類できる。
戦車やヘリなどの兵器が登場する戦争モードと、兵器が登場しない警察マフィア抗争モードだ。
僕は、警察マフィア抗争の現金強奪戦を選択した。
このルールでは、マフィア20人対警察20人の2チームに分かれる。
マフィアはチーム累計で200回死ぬまでに銀行から現金を盗んで逃走したら勝ち。
警察は何回死んでもいい。マフィアを200回逮捕したり射殺したりするか、30分経過するまで現金の強奪を阻止すれば勝ちだ。
後半のカーチェイスはスピード感があって爽快だ。
ロード中画面にプレイヤー一覧が表示され、僕がマフィアチームになったことが分かる。
「あ……。レイプ部屋か……」
プレイヤー数が警察20名、マフィア2名で、残り出撃可能数19、残り3分という典型的なレイプ部屋だ。
レイプというのは、あまりにも悲惨な負け状況を意味するゲーム用語だ。
ゲーム開始時はマフィアにも20人いたのだろうけど、相手チームが強すぎたからみんな途中退室したのだろう。
マフィア側はOgataSinというプレイヤーだけが途中退室せずに戦い続けている。
おがたしん……日本の男性プレイヤーっぽいな。
プレイヤー数2対20はクソ過ぎる状況だけど、見捨てるわけにはいかない!
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