13.家族会議

前回のあらすじ


俺の持つ魔女の力は”魔法”として秘密にしておくこととなった。

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城に帰り、俺に起きたこと。今後の予定などを話し合う場が設けられた。


 最近アマレットは俺のことを覚えてくれたようで、俺が手を握るとキャッキャと笑ってくれるようになった。双子とは思えない体格差となってしまったが、それ以上に精神年齢が離れているため、城の人間は割と受け入れているらしい。




まず話し合われたのは俺の力についてだ。

「なるほどねえ、彼らの『祝福』って力を、なぜかバランタインが使えると。」

母が一連の説明を聞き端的にまとめた。

「ええ、あとこれは予想に過ぎませんが、僕のこの成長も魔法によるものかと。」


 彼女らは俺が一日たつたびに大きくなっていくのに日々驚いていた。俺の意見だが母親は常に子供と過ごすため成長を実感しずらい。たまに会う親戚の方がその成長っぷりに驚くのは日々の成長を見ていないため、急に大きくなったと感じるからだ。俺の場合は一親等とて親戚の気分なのだろう。




「そうね。いくら私の子でもさすがに早いもの。キャスなんて何かの病気なんじゃないかって慌てふためくんですもの。」

「申し訳ございません。帝領でもこのようなお方はいらっしゃらなかったので。」

 帝領?どこだそこ。


「あのすみません、キャスおばさんの出身って?」

「私はウィーン出身です。帝領とは皇族の一族が支配する地域です。バランタイン様のように特殊な能力を持つものであったり、優秀な兵士を多く輩出しております。私はそこで近衛兵を行っておりました。」


皇帝の近衛兵?よくわからないが、もしかしたらとんでもないエリートなのでは?

「実はキャスはこの城で一番身分が高いのよ~。」

母が茶化すように言う。



「おやめください、奥様。所詮は過去のお話、今はラムファード家のただの使用人です。」

「何があったのか聞いても?」

「仕事に嫌気が差してしまいまして。その時に奥様が声を掛けてくださったんです。」


なるほど、何か含みはありそうだが、あまり掘り下げるべきではなさそうだ。だが彼女がなぜあそこまで動けるのかは理解できた。


 父が話を本筋に戻した。






「こいつの力は確かに興味深い。ただ今は一般の騎士と同じように体力、そして剣技を教えることも重要だ。」

 そうだ。魔法は確かに俺のような子供でも戦える力を与えてくれるが、それに頼ってはだめだ。目標としている騎士はそんな力など持っていなくても俺よりはるかに強いんだ。今日の訓練が思い出される。

「お勉強ももう出来ると思うわ。」


母がそれに続く。

「騎士は無知こそ高潔なんて言う人もいるけれど、そんなわけないからね。きっちり勉強しないとだめよ。」


母の言葉には信念のようなものがあった。まあ彼女の軌跡を考えると納得なのだが。それに知識の重要性は転生した俺も常よくわかっている。

「ええ、頑張ります。」

「ではこれから午後の時間はサラとお勉強ね。」




 今後の俺のスケジュールが決まった。午前中は父やキャスとトレーニング、午後は勉強だ。学生に戻ったようだ。














次に話し合われたのは今後の計画についてだ。

「父上、森の民の襲撃はまた来るんですか?」

俺は尋ねる。


「ああ、来年またこの時期に活発化するだろうな。」

父が答える。

「今回はかなり計画的な襲撃だったわね。」

母が口を挟む。

「ああ、俺だけでは人が死んでいたかもしれん。奴らはもうコソ泥ではなくなった。警備をより厳重にする必要がある。」




「何か考えがあるのですか。」

「ああ、ザクセン選帝侯に相談しようと思う。」

場が騒めいた。

「選帝侯の力を借りて、皇帝に小規模の戦闘員を配備してもらえるように打診するつもりだ。」

「でも、あのお方が政治的な動きをしてくれるとは思えません。」


異議を唱えたのはサラだった。彼女はザクセン選帝侯領に寄った際も何か思う所がありそうだった。

「そうだ、だが考えがある。」

父は俺とサラを見る。




「今しがたお前たちの今後を話し合った後で申し訳ないが、お前たち2人に行ってもらおうと思う。」

おお、ほんとに急だな。だがまあ、サラとは最近ほとんど一緒にいるし問題はないか?

「私は__嫌です_行きたくありません。」




俺はサラを二度見した。優秀なメイドである彼女の拒絶は初めて見た。

「サラ!」

キャスが声を張る。父はなにも言わず手で制した。

「お前の気持ちは分かる。だが、そろそろ向き合うべきだ。」

サラは拳を強く握っていた。




「私も行くわ。」

割って入ってきたのは母だった。母はサラの隣によって手を握った。

「キャス、アマレットをお願いしてもいいかしら。」

「私は構いませんが。よろしいのですか。」


「いいのよ。最近はこの子たちと一緒にいてあげられなかったし。それに政治は私の得意分野よ。」

「分かった、それで頼む。」

父が締めた。




「申し訳ございません。お手数をおかけします。」

キャスは母に謝罪していた。

「いいのよ。あんまりサラに厳しすぎちゃだめよ。」

母は諭すように言う。

「いいのです、奥様。私が未熟なだけでございますので。」

サラはキャスをフォローする。だが、サラの声はか細く、今にも消え入りそうだった。








 今日の話し合いはこれで終わった。俺とサラと母は2か月後ほどを目途にザクセンを訪問することとなった。サラはそのあとも一人でうつむいていた。俺はサラに寄って、話しかける。


「あの、サラがあっちで何があったのか分からない。でも、何かあっても俺がフォローするから。それにどうしても嫌だったらこっそり帰ってもいいし__」


上手な慰め方が見つからなかった。


「ありがとうございます。余計な気遣いをさせてしまい申し訳ございません。」


彼女は震える声で精いっぱいの返答をした。その目は赤くなっていた。サラは立ち上がり自室へと戻っていった。






 今日の彼女は背伸びをした少女にしか見えなかった。






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