12.得手不得手
前回のあらすじ
森の民を撃退した。バランタインは少しずつ自分が持つ才能を自覚するようになる。
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「うーん、やはりお前があの隊長を倒せたとは思えないな。」
父は俺の身体を見て言う。
あの襲撃から1か月が過ぎていた。父はその間、ほとんど毎日寝ずに巡回をしていた。収穫期が落ち着いてきたので、今日はサラと俺を連れ、稽古をつけてくれることになった。俺も騎士になることを決意したわけだし、身近な目標を肌で感じておきたい。
俺の身体は急成長を遂げていた。体のサイズは3歳児くらいに成長。これは俺の予想だが魔女の力が成長に何か作用しているのではないかと思う。
「彼らが使う、魔女の力を僕も使えるらしいのです。」
「確かに彼らは見た目以上の身体能力を発揮する。子供でも猿のように森をすばやく移動できるのは魔女の力が理由だ。だが_」
「僕がそれを扱えるのはそんなに奇妙なことなのですか?」
「ああ。そうだな。森の民は帝国民とは異なり、自然を信仰しているそうだ。俺は宗教には疎いのだが__それが魔女の力の根源といわれている。」
そうか、だから彼らはこの力のことを祝福というのか。
「どれ、理由は分からんが、せっかくだ。俺が相手になる。全力でこい。」
父と俺は木の剣を構える。俺はラスコーリニコフにした攻撃を行うことにした。筋力と魔女の力を同時に地面に伝え、父に突っ込む。うまくいった。ラスコーリニコフのように相手の懐に入る__ことは出来なかった。
父は易々と俺を受け止めた。
「いい攻撃だ。確かにこれならある程度は戦えるな。だがまだ軽い。」
父は表情を緩め俺を弾いた。5メートルほど俺は後方に飛ばされた。
「次は俺の番だな。」
父が剣を構える。脇を絞め、剣を後ろに引いている。脇構えというやつだ。
俺は剣を斜めに持ち、防御の姿勢を取る。力では絶対に勝てない上に攻撃を受け流す技術もないので、後ろに自分が飛ぶことで攻撃をいなすことを考えた。
「いくぞ。」
目に魔女の力を集中させる。脇構えは剣を体の後ろに隠す構え方であるので、太刀筋は読みにくい。父が踏み来る、地面がえぐれる。どちらから来る_振りかぶって上からか?それとも切り上げてくるのか?
正解はどちらでもなかった。父は剣すら振ることなく、左足で正面から前蹴りを入れてきた。足は俺の顎の手前で止まっている。
「そこまで!」
審判役のサラが終了を告げる。結果は言うまでもなく完敗だ。
「読みに頼るな。相手を見て判断しろ。」
短く、そして鋭い指摘だった。
「だが、お前が魔女の力を使っているのは分かった。」
「見えたんですか?これが。」
俺は粒子の光を体にまとわせた。
「いや、見えん。」
「サラも?」
彼女も頷いた。
「しかしだ。いくら成長が速いとはいえ、その体であの速さで動けることはできない。俺も一応騎士として長い。相手の立ち居振る舞いや身体を見てある程度の強さの予想はつく。だがお前は、合わないんだ。身体と強さが。」
なるほど、俺はラスコーリニコフを真似して、筋力の補助として魔女の力を使っている。だから俺は筋力以上の身体能力を発揮することが出来る。対して父やサラはこの力が視覚的に認知できないため、身体以上の出力が出せていることに驚いているわけだ。
「すごいですねバランタイン様!」
サラは興奮して言う。父も続く。
「ああ、だが、その力は出来るだけ隠しておけ。」
サラは驚き尋ねる。
「なぜですか。使えるものは使うのがラムファード流なのでは?」
「ああ、もちろん。バランタインにはその力をうまく使いこなしてほしいと思う。だが隠すべき理由は2つある。まずその力は隠しておく方が強い。理由はさっき言った通り、こいつは外見上の身体能力以上の速度と力で戦える。手の内を明かさない方が有利になるだろう。もう一つは政治と宗教上の問題だ。森の民は帝国の敵対勢力の1つで宗教も異なる。その力を使えるとなると不都合が生じるのは想像がつく。特に皇帝に近ければ近くなるほど、より保守的になるからな。」
「ですが、この力は有効に活用すべきです。もしかしたら力なき者にも戦える術が与えられるかもしれません。奥様もそうおっしゃるはずです。」
サラも良い反論を出す。俺は妥協案を探した。
「では、とりあえず名称を変えるのはどうですか。」
父とサラがこちらを向く。悪くはない提案だったらしい。
「何か案はあるのか?」
父が尋ねる。
「そうですね。『魔法』でどうでしょう。魔・女の力を僕たち、領主一族が法・に則り扱う力ということで。」
色々こじつけたが、転生した身としてはこれが一番しっくりくる。
「おお、無難だな。アルティメットパワーとかじゃなくていいのか?」
父は本当にそれでいいのかと尋ねる。冗談で言っているのか?いや割と真面目な顔をしている。いや、ダサいだろ。
「魔法で大丈夫です。」
「そうか。」
父はすこし残念そうにしている。
「まあ、それはそうとして今後は俺かキャスが稽古をつける。いいな。」
「はい!」
俺とサラは返事をする。
「なんか一気に追いつかれちゃいましたね。」
サラがボソッとつぶやいた。少し俯いている。
「いや、何かあった時にすぐ動けるのはサラでしょ。俺なんて襲撃の時全然動けなかったよ。」
慰めるように言う。
「あんなこと、いずれバランタイン様もこなせますよ。」
父はこちらに寄って2人の頭を撫でながら言う。
「サラ、自分のしたことは誇れ。得手不得手は誰にでもある。」
「そうだよ。サラ。父さんなんてアルティメットパワーなんて言っちゃうんだから。」
「む、お前はカッコいいとは思わないのか?」
「ええ、全く。」
この会話を聞きサラは腹を抱えて笑った。先ほどの憂いは消えていた。
その表情を見て安心した。
「さあ、帰るぞ。」
父はジギルに乗り、俺とサラはハイドに乗った。
「今度狩りを教えて。」
「ええ。猪で良ければ。」
「いい名前だと思ったんだがなあ。」
魔法により鋭くなった耳に父の独り言が通った。
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