11.発見
前回のあらすじ
敵の隊長が仕向けた原生生物により劣勢に回る。バランタインは彼との決闘に勝てば軍を撤退させるという条件の下、決闘を受ける。
_________________________________
俺は「魔女の力」を使う。体の中に何度か経験したむずむずが駆け回る。
「ほほう!やはりそなたは素晴らしい。」
相手の男が感激の声を上げる。周りで見物する兵も驚いたように見える。
「そういえばあなたの名前を伺っていませんでしたね。」
決闘の礼節などは一切知らないが、名前を聞くくらいは無礼には当たらないだろう。俺も先ほど名乗ったしな。
「ラスコーリニコフだ。いざ。」
男は剣を構えた。淡い光が彼を包む。しかしその光は生き物のように彼の身体を移動している。光は彼の足元へ広がる。
来る__
彼はいきなり切りつけてきた。直線的に突きを放ってきた。俺は剣で受け流そうとする。少し剣先を逸らすことが出来れば当たることはない。先制攻撃をいなされても彼は、動じず右足を軸に回転しながら切りつける。光は右足と剣を持つ右手に集まっていた。
俺はとっさに屈み剣を避けた。しかしフルスイングの剣が空を切っても彼の体幹はぶれない。彼は屈んだ俺の顔に蹴りをする。俺の身体能力では回避できない。手を顔の前でクロスさせガードをする。その際俺の中でうごめくむずむずを腕に集中させた。
大男の蹴りをガードの上から受ける。俺は後ろに飛ばされると思った。しかし、ダメージを受けたのは相手だった。俺を蹴った足は折れていた。男は足を抑え呻き声を上げる。しかし大きく息を吸い、こちらに注力した。
「なんて幼子だ。祝福をここまで扱うことも出来るとは。」
「降参してもいいのですよ。」
俺は少し煽るように言う。恐怖はもちろんあるがブラフをする余裕はある。
「何を言う。力あるものはその責任を果たさねばならん。」
俺は何を言っているのか分からなかった。
「さあ来い。」
先ほどの防御で魔女の力の感覚が身についた。俺は足にそれらを集める。
「おお、祝福が集まるのを感じるぞ。本当に、本当に素晴らしい。」
俺は先ほどラスコーリニコフがしたように、剣を相手に向け真っすぐ突っ込んでいった。俺のこの短い腕と剣を振ったところでリーチで完全に負けている。なら懐に飛び込んだ方が安全だと考えたからだ。
俺の突きは自分の想像以上の速度だった。ラスコーリニコフはそれをいなそうとするが、すでに俺は敵の懐に入っている。心臓を狙ったが少し交わされ相手の左肩に刺さった。不快な感触が手を伝う。俺はすぐに相手の身体を蹴って剣を抜き距離を取った。敵の左手はだらんとぶら下がっていた。
俺はもう一度この攻撃を行った。次に命中したのは右の腿だ。脛を負傷している右足を狙うことで彼から俊敏な動きを奪った。男は光を怪我した左肩と右足に集中させ何とか立っていた。
なるほど、魔女の力は筋力の補助に使えるのか。しかし彼が使う祝福はほとんどそのために割り当てられており、攻撃に充てるだけの残量は残されていないようだ。
俺は勝ちを悟った。しかし今まで全く意識していなかった感情が芽生えた。彼は肩を抑えながら諭すように言う。
「それがお前の責任だ。」
そうだ。彼は俺に何を見出したのか分からないが、ある種の尊敬を込めて、俺が勝てば軍を撤退させるという条件の下で決闘を申し込んだ。これは俺に決闘を受けさせるという動機付けでもあるが、同時に俺は条件を果たさなければならない。これは契約だ。
俺はこいつを殺さなければならない。こいつを生命を奪い、サラと母を劣勢から救わねばならない。やるしかない__やるしかないんだ。
「さあ、やれ。約束だ。」
手が震える。こいつの攻撃をかわしている時の方が気が楽だとは思わなかった。殺す。殺すんだ。だが、どうしても動けない。
「すまない。」
彼の背後に何者かが立ち、後ろから体を貫いた。ラスコーリニコフは血を吐きその場に倒れこんだ。
手を汚したのは父だった。
「非礼を詫びる。すまなかった。」
父は彼に頭を下げた。そして俺に冷たい声で言う。
「できない約束はするな。」
父は残った森の民と戦闘を続ける。倒れている男はかすれた声で話す。
「これから...先、お...お前は今日の...ような...決断を...迫られる。次は...手遅れに...なるかもしれない。力には....責任が......伴う。」
「はい。肝に銘じます。」
俺は敵の話に真剣に傾けていた。まだ震えは収まっていない。
「だが。」
彼はまだ続けようとする。声はもうほとんど聞こえない。
「いい....父さんじゃないか.....。」
彼は息絶えた。
俺は彼に会釈し、その場を去る。村の方を見る。牛は頭を切り落とされていた。恐らく父がやったのだ。
俺は母とサラがいるところへと言った。
「バランタイン様、お怪我はありませんか?」
サラが心配そうに俺の肩を持つ。
「大丈夫だよ。サラは。」
「私も大した傷はありません。」
身体は擦り傷だらけだが、俺は安心した。
「終局ね。」
母はそう呟き、リーダーを失った森の民の方を向く。統制を失った彼らは父に獣のように襲い掛かる父は、するりとかわしているが数が多く、決して安全とは言えない。
「コルネオーネ!退いていいわよ。」
母が父に指示を出す。父は素直に従った。
父は母からハイドを渡されていたので、撤退の際には森の民と距離が開いた。森の民はラスコーリニコフの宣言など忘れたようにこちらに向かってきている。
迫りくる森の民の迫力に俺はたじろぐ。
「母上!また迎え撃たなければ!」
俺はそう叫ぶ。だが彼女は首を横に振った。そして大きく手笛を吹いた。
すると西の方_つまり俺たちの後方から多くの馬が走ってくる音が聞こえる。後ろを向くと、先ほど撤退した村の男たちが弓を持ち、こちらに走ってきている。それを率いているのはハイドに乗ったキャスだ。
「お待たせしました!」
キャスはそう叫び、村の男たちにジェスチャーを送る。村の男たちは二手に分かれる。そして森の民の残存兵力を囲い込むようにした。村の男たちは逃げ場のない森の民たちに大量の矢を浴びせた。屈強な森の民だが四方八方から矢の雨を受けては成すすべがない。数人の森の民は周りの弓騎兵に襲い掛かろうとするが、機動力の差は歴然である。その森の民はいい的になるだけだ。
その光景は地獄絵図だった。村の男たちの顔には憎悪も映っていたし、侵略者を叩きのめせることに恍惚とした表情を浮かべるものもいた。俺は目を向けられなかった。
「自分の村は自分たちで守ったと思わせないとね。」
母は納得したように言う。彼女の戦略は、予想外もあったが概ね完璧といっていいだろう。
「決闘に負けたんだから、逃げればよかったのに。」
俺はそう呟く。それを見た父が俺の頭を撫でながら言う。
「そうかもしれないな。」
「あの、ありがとうございました。」
俺は父に先ほどの礼を言った。
「気にするな。お前はまだ騎士じゃない。」
父の言葉には含みがあった。だが言わんとしていることは分かる。いずれ向き合うときがくる。
森の民を退け、村を守った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます