1.驚異的な成長

前回のあらすじ


至って普通の会社員が事故で死亡。異世界に転生。次は自分自身のために人生を生きると誓う。

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 俺の名前はバランタイン。前世はしがない会社員。それなりに苦労をしてきた。仕事で失敗し床に頭をつけたこともあれば、恋人の浮気現場を目撃したこともある。当時は苦しかったが、今となっては笑えるいい思い出だ。耳タコだが何事も経験がものをいう。



 そんな俺が今、最大の危機を迎えている。

「バランタイン様、どうか足をお広げ下さい。」


 生後一か月。普通の子供であればやっと目が見えだす頃だろう。しかし残念私はギフテットなのだ。立つことはまだかなわないが、他人の会話の内容は分かる。

 最初は俺のことを恐れていたおばさんメイドも慣れてきたようで、普通に接してくれるようになった。


 しかし、驚異的な成長速度をもってしても、この体はまだ赤ん坊の域を出ない。どうもこの体はなんだかむずむずする。うまく体を動かせないストレスから来るものではない。なんかこう__内部的なものだ。どうしても体に力が入ってしまうのだ。



 尻に温かい感触が伝う。そして鼻腔にはヨーグルトのような酸っぱいにおいがこびりつく。母乳のみを口にしているために臭いが不快でないのだけが救いである。


 しかし、すっきりした後に事態の深刻さに気付いた。普段俺のおしめの面倒を見てくれるのは母かおばさんメイドなのである。しかし今日は妹を連れて出払っている。父も仕事らしいので家には俺と少女のメイドしかいない。



 改めて言っておくが、俺はしがない会社員だ。公衆の面前で漏らしたこともない。母やおばさんメイドに世話をされるのは受け入れざるを得なかった。生物学及び社会的地位の観点から、この2人に世話をされるのはまあ納得がいく。




 しかし、この10歳くらいの少女にこれをさせるのはなんというか、倫理的にダメではないか?いや、主の一族とメイドという関係を踏まえれば許されるかもしれない、しかし自我のある大人が肛門を少女に拭かせる?


 いやいやいや、絶対にダメだ。なんとか俺にできることは___。

「や、やー」

 口から出たのは搾りかすのような拒絶の言葉であった。

「え、しゃべっ、、、た?」




 少女はじっと俺を見つめる。そこでもう一度声を出す。

「や、やあや。」

 子供の学習能力は高い。今度は割としっかり発音できた。


「もう言語を習得しているとは。でも、あの方のご子息でしたら、不思議ではないのかもしれませんね。」

 少女は自身を納得させるように言う。



「でも、私ではやはりだめなのでしょうか。」

 彼女は自身が拒絶されたことにショックを受けたようだ。それは使用人としてのプライドか、家におけるお姉ちゃんとしての振舞いから来るものなのかは分からない。しかし、すごくしょんぼりしている。ここに生まれてから、こんな彼女の顔は見たことがない。


「申し訳ありません、バランタイン様。」

 彼女は今にも泣きそうだ。普段は凛々しく頼りになる彼女の顔は、年相応になっている。俺はどうすればいい。新たな人生を得た。気楽に生きると決めた。自分のために生きると決めた。



 しかし、誰かの悲しい顔は見たくない。空気を読みすぎていた前世だった。自分の神経が磨り減るほどだった。だが、それは穏やかな空間が好きだったからということもある。俺の本心から来るものだ。俺の周りの人間には笑っていてほしい。


 そんな俺はこの状況で、何をするべきか?


 答えは決まっている。俺は閉じた足を開き、彼女の方へ向ける。俺の恥なんて知ったことか。俺はこの子に笑顔でいて欲しい。それだけだ。


 彼女は俺の尻を拭き、下着を変えてくれた。




 その間、おばさんメイドと母が帰ってきた。母が「もうすっかり立派なメイドね。」と言うと彼女は誇らしげに頷いた。

 そしてちょうど父も帰ってきた。父は「まるで本当の姉妹のようだな。」と言うと彼女は大きく、はい、と返事をした。




 その日の少女のメイドはずっとご機嫌だった。うん、これでよかったのだ。しかし父よ。弟は姉に尻など拭かせないのではないか?












 生後2か月。俺の成長は留まることを知らない。俺は自由に移動することが出来た。まだ立つことは叶わないが、四つん這いで階段を上ることもできる。自由に移動できるようになって、自分が住むこの家がいかに広いかを知ることが出来た。これは__家というより城だな。


 壁は石造りで、荘厳というのがふさわしい。しかし、アニメとかのイメージだと城を含めた都市がぐるっと壁に囲まれているイメージがあるが、ここでは城のみが壁に囲まれている。うーん、世界観はまだつかめていない。



 城内を冒険していると、母とおばさんメイドが俺のことを探す声がした。

「バランタイン様~、昼食の時間ですよ~。」

「さあて、かわいいうちの子はどこに隠れているのかなー?」

 俺の好奇心は飯で止められるものじゃないぞ。俺は樽に隠れる。




「まさか、どこかへ行ってしまったのでは__。大変!急いでご主人様にお伝えしなければ!!」

「大丈夫よ、あの子賢いし、危ないところに行ったりしないわよ。」

 おばさんの使用人が心配性モードに入ってしまったので、今日はこのくらいにしておこう。俺は2人に聞こえるように、うーと返事をした。母が先に気づいた。




「あら、ちゃんと返事が出来て偉いわね。」

「ええ、タイミングを見計らったように。」

 おばさんメイドが苦笑いする。母がそれに反論する。


「あら、私とあの人の子ですのよ。これくらいは当然です。さ、おっぱい飲みましょうね。」

 母は俺を樽から抱え上げり。そして服を捲し上げ、胸を見せる。俺は反射的にそれに食らいつく。性的な意図はなく、単に食欲からもたらされた行動だ。ハイハイは意外と体力を使う。


 しかし、今日の彼女の母乳はなぜかまずかった。




「さあ、いっぱい飲んでねー。__っ、痛い。」

 母が軽い悲鳴を上げる。その理由はすぐに分かった。

「大丈夫ですか奥様_。これは。」

 母も頷く。




 俺の口ではすでに歯が生え始めていた。




「歯が生えるのなんてもっと遅いらしいのだけどもねえ。まあいいわ、邪魔してごめんね。もっと飲みなさい。」

 母は改めて胸を差し出す。しかし俺はまたそれに口をつける気にはならなかった。

「あれ、おかしいわね。お腹すいてないのかしら。」

 母は困惑している。するとおばさんメイドがその疑問に答える。

「どうやら、乳離れが進んでいるのかもしれません。離乳食を作ってまいりますので少々お待ちください。」



 15分ほどでおばさんメイドは戻ってきた。野菜をペースト状にし、少し火を通したもの。おかゆのようなものを想像したが、そういえば食卓に米はなかったな。日本人からすると米を食べれないのは惜しいが、彼女が作る離乳食も美味かった。




 母はその光景を見て自分の胸を見る。母乳が早くも不要となったことにさみしさでも感じているのだろうか。

「奥様、大丈夫ですよ。これでアマレットお嬢様にたくさんお食事が与えられるようになりますから。」

 おばさんメイドはすかさずフォローを入れる。少女のメイドは聡明だが、彼女もまた他人をとてもよく見ている。


「そうね、アマレットにも早く大きくなってもらわなきゃ。」

 母の顔は明るくなった。

「まあ、バランタイン様ほど早く成長されてはこちらが困りますけどね。」

 おばさんメイドはまた苦笑いする。母もそうね、と笑う。穏やかな空気が空間を包む。しかし俺は失った青春を求め制服で某テーマパークへ行く社会人のような、喪失感を抱いていた。




 母乳、もっと飲みたかったなあ。


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