#5「開発者の変装実験」B

 僕達はさっそく車で別当町に向かった。母さんがせっかくだから能野町じゃなくて、別の町で試したいとの事だ。

 そのスーツの顔や肌の色は確かに町で見かけるお婆さんとは遜色ないかもしれない。だけど体は老婆には程遠いから何だか変な感じがする...。


「さぁ、着いたよ!」


「あ、もう着いたんだ...」


 考え事をしているとあっという間に着くんだな...


「じゃあ車を出たら私は老婆になるから、拳也はそれをサポートする体でこの不自然な出っ張りを隠してちょうだいね!」


「...は?」


 そう言って母さんは車から出ると、右手で杖をつき、左手を腰を後ろにやり、体を小刻みに震えさせ、まさに足腰の弱い老婆そのものになりきった。


「お〜い。拳也や。腰が痛うてしょうがないから、アタシの腰を抑えてくれないかの〜」


「あ...うん」


 口調と声色まで変えて...声も震えさせてるし、母さんって結構演技派だったなんて初めて知ったよ。っていうかちょっとファスナーに手が届かないな。


(母さんもうちょっと腰落としてくれる?ちょっとファスナーに手が届かないから...)


(あ、そっか。ごめんごめん。)


「それじゃ〜拳也や。もうすぐお昼だから、お昼ご飯でも食べようかね〜。」


「そ、そうだね...。」


 もしかしてずっとこんな感じでいくんだろうか?

 こんな老人と孫みたいな状態で...でも変装だから、完璧に演じなきゃか。ていうか由人さんにもこんな感じの物を上げたんだろうか。という事は由人さんも老人になるって事なのだろうか?


(ねぇ、拳也)


(何?)


(おばあちゃんが食べるような物ってなんだと思う?)


(それは...まぁ別に歯があるから、大抵の物は食っていいんじゃないの?)


(それは逆に悩むわね。)


 そして考えた結果、僕達はうどんも食べることにし、うどん屋で昼食を取ることにした。二人でかけうどんを注文した。


(とりあえず今のところは違和感なく成り切れてるみたいね。)


(多分ね...。それにしても母さんがこんなに老婆に成り切れるとは思わなかったよ。)


(あら。そんなに上手だった。そう言われると嬉しくなるわね。)


 でも、演技はいいけどスタイルが老婆としては良すぎるから、違和感はあるかな...。


「おや、うどんが来たみたいだね。それじゃあいただこうかしら。」


「そうだね。」


「「いただきます。」」


 僕たちはうどんを食べた。母さんは老婆のようにゆっくりと麺を啜っていた。そして偶にワザと麺を途中で啜りきれないようにしていた。演技がガチ過ぎる...。

 当然時間がかかった物の、うどんを食べきって店から出た。


「さて、拳也や。次はどこに行きたい?」


「ちょっと公園に寄ろうか。」


「えっ?」


 ちょうど近くにあった公園に入り、ベンチに座った。


「どうかしたのかい?」


「とりあえず口調を戻してくれない?」


「えっ、ど、どうしたの?拳也?」


「母さん...無理してるよね?」


「えっ?」


 急に老婆に成りきるなんて、色々と負担が大きいだろう。

 腰だってそんなに曲げたら逆に腰が痛んじゃうかもしれないし、それに声だって無理に変えてるわけだから。


「僕はありのままの母さんと出かけたい。変装はできたかもしれないけど、母さんが負担になるような事はしたくない。」


「拳也...」


「いつか、堂々と表を出られるようになったら、その時は楽しいお出かけをしてほしい。」


「...うん!」


「今日はもう帰ろう。」


 その時、アリツフォンから警告音が鳴った。表示されたマップを見ると、二箇所にマークがあり、僕たちが今いる近くと能野町の辺りだ。

 すると、由人さんから通信が入る。


「拳也君!今どこ!」


「今、別当町にいます!」


「ちょうど良かった!そっちは任せていい?」


「分かりました!任せてください!」


 通信を切り、老婆に扮した母さんをおんぶした。


「さて、おばあちゃんは車に隠れてさせなきゃね!」


 母さんをおぶり、車に母さんを置いてくることにした。



 カテラスが出現した、現場に着くと全身が剣の形をしたカテラスが町の物を切って暴れていた。

 僕は建物の物陰に隠れて、武着装する事にした。やり方は母さんに聞いて、教習済みだ。

 アリツフォンにアリツチップを挿し込む。


[Martial Arts In]


 電子音声の後に待機音が鳴る。


「武着装!」


 掛け声を言って、CERTIFICATIONの文字をタップした。


[CERTIFICATION. In Charge of Martial Arts.]


 再び電子音声が聞こえた瞬間、僕の周りに光が纏い、格闘術の超戦士「アリツシャーマ」に武着装した。この名前も母さんが名付けたものだ。

 その姿は青色な事と額に手と足が交差したマークな事以外は、アリツウェッパーと同じだった。

 武着装を完成させて、カテラスの元に駆けつけた。


「物を切りながら、暴れるなんて迷惑極まりないな。」


「ん?お前が最近現れた超戦士か?手合わせしたいのに出てこないから、物を切りながら気を紛らしていたのだ。」


 本当に傍迷惑な奴だった。


「我はソードカテラス!我と剣で手合わせ願おう。」


「け、剣で?でも僕は格闘の...」


 あ、でもそういえば由人さんが共有をするって言ってたっけ。

 アリツフォンを取り出して、見てみるとSwordの文字が表示されていた。文字をタップし、アリツソードを取り出した。ここから取り出した物にはすべてアリツと付くようにしたらしい。

 そしてお互いに剣を構え、近寄り、お互いの剣が鍔迫り合った。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 お互い鍔迫り合うが、僕は競り負けてしまい、アリツソードが折れてしまった。


「勝負あったな!」


 僕はすぐにアリツフォンを取り出した。そしてHandの文字を見つけ、タップしてアリツハンドを発動した。

 ソードカテラスは僕に向かって突きを放つ。僕はその剣を掴んだ。そして、その剣に手刀を放ち刃を切った。


「なっ!?バカな!?」


 もう片方の剣も同じように切る。ついでに両足の剣も切り、両手足の剣を切られ、為す術が無くなったソードカテラスをチャンスだと思い、アリツフォンの下の指し込み口にアリツブレイクチップを挿しこんだ。


[Break Standby]


 待機音が流れ、Breakの文字をタップした。


[Martial Arts Break]


 タップすると僕の手が光か輝き、僕はソードカテラスに向かってジャンプし、上空から交差にチョップを放った。


「ダリャアーーーー!」


「うぐ!む、無念…」


 するとソードカテラスが人間に戻った。僕は人気のいないところで武着装を解除して、しばらくしてその人物は救急車に運ばれた。



 僕たちは開発室に戻った。


「そういえば、母さんファスナーが後ろにあるのによく着れたね。」


「まぁ、後ろにも手は届くから大丈...あっ...腕攣っちゃった...。」


「...次からは僕も着替えるの手伝うよ...。」

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