第27話
「美紀! もう一度だけ会いたい」
切羽詰まった様子の大希の声が、美紀の耳に飛び込んできた。
別れてからも時折大希から電話があり、他愛もない話をすることはあった。復縁するつもりは毛頭なかったが、改心した彼を邪険に扱うのも大人げないような気がして、それなりの応対をしていた。
俯く海斗の長い睫毛を見つめながら、美紀は深呼吸をひとつした。
「大希、もう電話されても困る。会うこともできない。ごめん」
それだけ言って電話を切った。
「もうかかってこないと思う。……かかってきても出ないよ」
顔を上げた海斗は、安堵の表情を浮かべ、ただ小さく頷いた。
頼れる兄貴は、まるで少年のようだった。
初めてみせた海斗のその表情を、美紀は黙って見つめていた。
話の続きが聞きたかった。
海斗は俯いたまま腕組みをしたかと思うと、今度は人差し指で鼻の下をこすり、唇をつまみ、そして額をポリポリと掻いた後、不自然にテーブルの上に手を伸ばした。
喉の奥がまた熱くなり、鼻の奥がツンとして、あの日の記憶が甦る。
美紀はその手に優しく触れた後、あの日の海斗と同じように、ぎゅっと力を込めた。
彼は、美紀の友人でも恋人でもない。
二人は、この店の常連客――
今日も窓際の『特等席』で向かい合ってモーニングセットを食べる。
【完】
もう一度会えたなら 凛子 @rinko551211
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