第22話
会計を済ませて店から出ると、突然声を掛けられた。
「荷物、持ちましょうか?」
顔を上げると、そこには浮かない顔をした男性が立っていた。
「――か、海斗君!?」
余りに突然の出来事で、美紀の声は上擦り、一歩後ずさりした。
「美紀ちゃん、今仕事帰り?」
いつも目にしていた眼鏡にスーツの格好ではなく、ラフな普段着姿の海斗が尋ねる。
美紀は返事に戸惑った。
「えっと……」
考えあぐねていると、海斗が美紀の顔を覗きこんだ。その瞬間、ふわりと海斗の香りを感じた。正確には、海斗が使用している柔軟剤の爽やかな香りだ。
「美紀ちゃん、すげぇ痩せたんじゃない? もしかして体調悪かった?」
美紀は海斗の顔を一瞬見てから地面に視線を落とした。
「実は彼氏と別れちゃって。職も失って……何にもなくなっちゃっ……た」
美紀の頬を涙が伝った。
海斗が驚いているのか困っているのかは分からなかったが、俯く美紀の手からそっとレジ袋が引き抜かれた。
「家まで送るよ。徒歩だけど」
海斗はそれ以上何も言わず、ただ美紀と並んで歩いた。
起きてから何も食べていないせいか、少しふらつく感じがした。時々手の甲が海斗の持つレジ袋に当たり、パシャパシャと音をたてる。
美紀の頬は濡れたままだったが、辺りはもう真っ暗で人に気付かれることはないだろう。
孤独感と虚しさとやるせなさと、色々な感情が入り交じり、無性に温もりに触れたくなった美紀は、黙ったまま右手を差し出した。
海斗はレジ袋を右手に持ちかえると、美紀の手を握り、何も言わず歩き続けた。
さすが、大人の対応だ。
海斗の優しさに触れ、収まりかけた涙が再び溢れ出た。
「ありがとう。このマンションです」
美紀がレジ袋を受け取ろうと繋いだ手を緩めると、海斗は手を離し、次の瞬間には美紀の後頭部に手を回した。
「ぁ……」
鼻を掠めていた柔軟剤の香りを間近に感じ、力強い腕に包まれ身動きがとれなかった。
しばらくすると腕の力が緩められ、美紀が海斗の胸に埋めた顔をゆっくりと離すと、海斗の顔が近付いた。
今度は優しく抱き締められ、海斗の頬が耳にあたるのを感じた。
「次会う時は、美紀ちゃんの笑顔が見たいな」
そう言ってから美紀の頭を撫で、海斗はもと来た道を戻っていった。
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