第10話

 今日は朝から仕事が捗る。

 もちろん、“夜のお楽しみ”が待っているからだ。

 久々のデート、そして明日は休日。食事の後はもちろん……。

 そんなことを考えながらにやけている自分に気付いて、美紀はギッと下唇を噛んだ。


 午後からも淡々と仕事をこなし、午後四時を少し回った頃、大希がデスクにやって来た。嫌な予感。


「ごめん。また残業になった」


 大希が小声で言った。


「そう……仕方ないね。分かった」


 美紀の予感は的中して、またデートが流れてしまった。次こそは、と期待すればする程、落胆が激しい。


 ――期待し過ぎるのはやめよう。いい加減学習しないと。


 いつもこの瞬間から一気に気力が失せるのだ。朝に聞かされなかっただけましかもしれない。

 仕方のないことだとは分かっている。一生懸命仕事を頑張る大希の姿に惚れたのだから。

 そんな大希が夫になるなんて素晴らしいことなのだ、と美紀はいつも自分にそう言い聞かせる。


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