第11話
「お疲れ様でしたぁ」
チャイムと同時にやってきた瑠璃子が、美紀に頭を下げる。
仕事終わりでもやはり瑠璃子は可愛い。メイクも髪型も一切乱れていない。完璧なのだ。
――あ、言われたっけ。
美紀はロッカーを開けながら、今朝海斗に言われた事を思い出していた。
今日は、買ったばかりのカシュクールワンピースに、いつもよりヒール高めのパンプスを合わせて、綺麗なお姉さん風に仕上げてみた。口には出さないが、三年の付き合いにもなれば大希の好みも分かってくる。「今日めちゃくちゃ可愛いじゃん」の台詞は、やはり大希の口から聞きたかった。
折角お洒落をしてきたことだし、今日はこのままどこか寄り道でもして帰ろうか。たまには一人でちょっと贅沢な夕食というのも悪くないだろう。
美紀はそんなことをふと思い立ち、スマホで検索した小洒落た小料理屋に行ってみることにした。
いつもと逆方面行きのホームに立ち、行き交う人をぼんやり眺めながら考える。
結婚しても今の仕事は続けるつもりでいる。そうなると、仕事を終えたら真っ直ぐ家に帰って夕食の準備をしなくてはならない。こんな風に一人でぶらっと寄り道なんてことは、まあなくなるだろう。今や日課のようになっている『まほろば』通いもなくなるのだろうか。
独身の今だから出来ていることで、それが贅沢なことだということくらいは美紀にも分かっていた。
近いうちに互いの実家に挨拶にいくことを予定していて、順調にいけば数ヵ月後には大希と一緒に住み始める予定だ。もちろんそれを心待ちにしているのだが、それを考えると逆に、一人で過ごす時間が尊く貴重なものに思えてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます