第4話
こんもりと盛られたポテトサラダを一口食べ、「んーっ、おいしい」と美紀はまた言葉を漏らした。
「うまいだろ。ママお手製のポテサラ」
隣のテーブル席に座っていた真面目風サラリーマンの男性が、中指で眼鏡を押し上げながら言った。
これが
大きな独り言を聞かれて気恥ずかしい気持ちになり、美紀ははにかみ笑いを返した。そして腕時計に目を遣り、食べるスピードを早めた。電車の時刻が迫っていたのだ。
こんなことならもう三十分早く家を出ればよかった、と後悔しながら残りのコーヒーを一気に飲み干し、隣の席の男性と軽く会釈を交わしてレジに向かった。
「ごちそうさまでした。おいしかったです」
「よかったらまた寄ってね」
「はい。近いうちに必ず」
ママから釣りを受け取りながら、美紀は丁寧に挨拶をした。
「ありがとうございました! またお待ちしてます!」
カウンターから武さんの声。
美紀はもう一度頭を下げ、ドアベルを鳴らして店を出た。
“いってらっしゃい”の声掛けがなかったことを少し残念に思いながら、突然明るくなった視界に慣れない目を伏せ、足早に駅まで歩いていつもの電車に乗り込んだ。
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