第3話
レトロな雰囲気溢れる店内は外とは別世界のようで、ゆったりとした時間が流れている。
程なくしてBセットが運ばれてきた。
「わあ、おいしそう!」
美紀は思わず声をあげた。
ワンプレートにお洒落に盛り付けられたBセットは、メニューの写真よりもずっと色鮮やかで美紀の食欲を掻き立てた。
女性店員は「お嬢さんにはフルーツのサービス」と小声で言った後、「ゆっくりしていってね」と柔らかい笑顔を見せ、再びカウンターの中へ戻っていった。
モーニングメニューの写真にあったくし切りオレンジ以外に、一口サイズにカットされたキウイといちごが小さなガラスの器に盛られてプレートに収まっていて、女子なら皆こぞってスマホで撮影するような、映えるモーニングセットだった。
接客の文言だと分かってはいるが、女性店員の「ゆっくりしていってね」は、彼女の本心のように思えて、美紀の心は温かくなった。
「あ、
徐にカウンター席から立ち上がった中年の男性が、マスターに話している。
「ああ、前に言ってた温泉旅行だよねえ? 明日からなんだ。そりゃ楽しみだねえ。ゆっくりしておいでね」
マスター武さんが笑顔で応えている。
「ママにもちゃんとお土産買ってくるからね。あ、武さんと晩酌でつまめるものなんかがいいかな」
会計をしながら、先程の女性店員にも話している。
――なるほど。
やはりあの女性店員は、マスター武さんの奥さんのようだ。
ホットサンドを頬張りながら、美紀はそのやりとりを眺めていた。ほとんどが常連客のようで、客というよりは家族のようで、武さんとママは決まって「いってらっしゃい」と声を掛けていた。
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