第三章 赤いバンダナ
11. 監禁
盗人の少年と、それに浚われた流李は、狭い路地を走っていた。
「ねぇ、どこに行くの?」
荒い息の下から流李が尋ねる。
「黙って付いて来い」
流李の手を引っ張って前を走る少年からは、静かな呼吸しか聞こえてこない。かれこれ走り続けて、数十分は経っている。
走り初めは何度か後を振り返り、紗那が追いかけて来ているかどうかを確認していたが、今では流李にそんな余裕はなかった。
二階の窓から飛び降りた時といい、盗人とは皆こんなに身軽なものなのだろうか。と、流李は酸欠状態の頭で感心した。
そして、ただ走っているだけではなく、実に上手に道を選んで走っている事に気付く。
これでは、紗那も見失ってしまったであろう。
しかし、流李はそんな状況下で不安も恐怖も感じていなかった。三人の中では一番、繊細そうに見えるが、なかなか肝が据わっている。
少年は、街を出て、一つの洞窟へと向かっているようだった。この惑星は岩ばかりで、あちこちに似たような洞窟がある。これならば簡単には見つからない。盗賊にとって見れば、絶好の隠れ場所だ。
少年は、迷う事なくその中の一つの洞窟へと向った。その入り口に立つと、中の方から仄かな明かりと、木霊する笑い声が聞こえてくる。
「見張りは、何をしてるんだ」
少年が辺りを見回しながら、舌を鳴らす。そこには誰もいなかった。
そして、少年に手を引かれるまま洞窟の中へ入った流李は、顔を歪めた。
「わ、お酒くさぁ~い」
しかし、少年は慣れているらしく、平気な顔で奥へと入って行く。
入り口からの通路は狭かったが、しばらく行くと、だんだん広くなっていく。そして辿り着いた場所は、青髭団の宴会場と化していた。
そこは、広い空洞となっており、中心で燃えさかる炎が壁に男達の陰を作っていた。体格のいい男達が酒に酔い、騒ぎ立てる中、一際目立つ巨体の青髭の元へ、少年は流李を連れて行った。
「お頭、昼間の奴の仲間を連れてきた。……ほら、あの橙色頭の」
青髭と呼ばれながらも、その頬は酒によって赤く染まっている。しかし、意識はあるらしく、少年の後に立っている流李を鋭い目で睨んだ。
「仲間だと? ……それは確かか?」
少年はそれに答える代わりに、流李を見た。
「え、私? えっと~、橙色頭って、桃ちゃんの事よね」
躊躇いがちに頷く流李を見て、青髭は空洞いっぱいに響く笑い声を上げた。
それには、他の盗賊達も驚いて青髭の方に視線をやる。空洞内は、青髭の笑い声だけが木霊していた。
「よくやった、リョウ! さあ、お前さんの知ってる事を全部吐きな」
青髭の顔が近づくと、その酒臭さに流李が後ずさりする。流李は極端に、臭いに弱い。
そんな流李の心中を知ってか知らずか、青髭は、両腕を組み、身体を大きく仰け反らした。
「ふん、この顔は生まれつきだ!」
流李が、青髭の言葉を意図しかねて首を傾げる。その時、この空洞へと入り口辺りから、誰かが声を張り上げた。
「お頭! 侵入者ですぜっ!!」
静寂を打ち破って空洞へと入って来たのは、一人の見張りだった。見ると一人の少女の腕を掴んでいる。
「紗那ちゃん!」
流李の声に答える代わりに、紗那はその不機嫌そうな表情を流李から背けた。
「誰だ、そいつは」
青髭の問に、見張りは光線中を青髭の方に投げて寄こした。足下に落ちたそれを、青髭が拾って観察する。
「この洞窟の入り口から、中の様子を伺っているようでしたので、後から捕らえました」
自慢げに話す見張りをリョウが睨む。
「お前、見張りもしないでどこにいたんだ」
見張りは、一瞬慌てると、小便に、と小さく呟いた。
見張りがサボっていたにしろ、そうでないにしろ、そのお陰でこうして侵入者を捕らえる事が出来たのは、間違いない。リョウはそれ以上の追求はしなかった。
「ええい! こいつらの使い道は後で決める。船の牢の中にでも、閉じこめておけ!」
男共が、あちこちで二人の人質をどうするか、と勝手に話し始めた事が、青髭の癪に障ったらしい。何とも自己中な男だ。
周りを囲む男共を手で払いのけ、青髭は再び酒を飲み始めた。
それを見た男共も、それに混じる。
リョウは、踵を返すと、見張りに目で合図し、流李の腕を引っ張って洞窟を出た。その後を、紗那を捕らえたままの見張りが小走りに付いて行く。
洞窟から出て、少し歩いた所に、でかい金魚がいた。気分が悪くなる程、真っ青な色をしている。どうやら、岩陰に隠していたようだ。
金魚の口が開き、ベルトコンベアーのような舌が伸びてくる。それは、地面に当たると動きを止めた。
「やだ、かわいぃ~♪」
その場に不釣り合いな喜声に、三人が流李を振り向く。青髭団員でさえ、この趣味の悪さを解っているようだ。
そして、その金魚の舌に乗ると、再びそれは口の中へと消えていった。
☆★☆★
がしゃんっ!
金属製の重い音が鳴り響く。
「……古っ……」
牢獄に閉じこめられた紗那が呟く。今時、金属製の牢獄など誰も使っていない。
「う、うるさい! ……金の節約だっ!」
おそらく金がないのだろう。確かに、船内には、あまり高度な技術の物は見られない。ここに来るまでも、高価そうな物は見かけなかった。それどころか、男ばかりの船内は、男臭さが漂っている。
二人が閉じこめられた部屋は、船内の底の辺りにあるのだろう。何度か下へ続く階段を下った。
明かりはなかったが、うっすらと他にもここと同じような牢獄がいくつか列を成しているのが見える。扉は一つしかなく、あまり使われていないのか、埃っぽかった。
「いいか、ここで大人しくしてろ」
そう言って、リョウと見張りが去ると、静寂だけが二人を襲う。その静けさに耐えられなくなった流李が、明るく紗那に声をかけた。
「牢獄に入れられたのなんか、初めて! こんな体験が出来るの、たぶん私達だけよ」
しかし、紗那は冷たい無機質の壁に背を預けて座ったままで、反応がない。
「宇宙学園のみんなに自慢出来るわ!」
紗那の表情はいつもと変わらかったが、明らかに不機嫌な様子が見て取れた。
「あ、紗那ちゃん。よく私達の後を付けてこれたわね! 途中で見失ったかと思ってたわ」
紗那は、口一つ動かさない。
「だ、大丈夫よぉ~。きっと、桃ちゃんが助けに来てくれるわっ!」
流李の必死の慰めの言葉も虚しく、紗那はため息を吐いた。
「あんなのに捕まるなんて……、一生の不覚だわ」
流李は、紗那が現状への不安を抱いているわけではなかった事に、多少の安心感を抱いた。
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