12. 脅迫
しばらくして、いつしか二人はお互いの肩にもたれ掛かって眠りかけていた。
すると、扉が開く音と、誰かが近づいて来る足音がした。紗那がすぐさま目を覚ます。
「おい。……これ、食べろ」
鉄の柵の前に立っていたのは、赤いバンダナを付けた少年だった。
「……朝飯だ」
反応のない二人に、リョウが確かめさせるかのように、食器を見せる。この部屋には窓一つないので、時間の感覚が解らない。思っていたより長い時間、眠っていたようだ。
リョウは鉄の扉を開けると、二食分の朝食を床に置いた。この牢獄に、机はない。
「……ん、う~ん。もう朝ぁ~?」
その音に流李が身体を起こす。自分の現状を把握するのに少し時間がかかった。
「あ、赤いバンダナの……リョウ、ちゃん?」
流李がリョウを見ながら首を傾げる。そして、自分の名前と紗那の名前を紹介した。
「お、俺は男だ!!」
全く緊張の感じられない流李の雰囲気に流されまいと、むっとなってリョウが言う。
「でも、桃ちゃんが女の子だって、言ってたよ?」
「桃ちゃんって、あいつの事だな。ふん、本人の俺が男だって言ってるんだ! 男に決まってるだろう」
リョウが両腕を組んで流李から目を剃らした。その瞳を、瑠璃色の瞳が覗き込む。
「桃ちゃんねぇ、そうゆうのって一番敏感なんだ。あなたが男の子なら、戦ってた筈だもの」
鬱陶しそうに顔をしかめるリョウの頭上から図太い声がした。
「おい、お前らに聞きたい事がある」
リョウが振り向くと、そこには巨体の青髭が仁王立ちで立っていた。日の下で見ても決して見目に良いものではないが、薄暗い部屋の中でこうして現れると不気味さが増す。
しかし、身長の低いリョウには、首が痛くなる程上を見上げなくては、その表情を見て取る事が出来なかった。
「丁度良かった。私も、あんたに言いたい事あるのよね」
そう言う紗那の目は据わっていた。その表情と口調に、青髭が不気味な笑みを浮かべる。
「ほう、何だ? 聞いてやろうじゃねぇか」
しかし、片方の髭を切られた顔は不気味で、笑ってみせても相手の笑いを誘うだけだという事を、本人は気付いていないようだ。
「何、あの金魚の舌みたいな入り口。趣味悪いって、あんたの子分達も認めてるようだったけど? ……まぁ、その長さの違う両髭を見て、何も言ってくれない根性なしの子分達なら、仕方ないかしら」
その何の感情もこもっていない口調に、青髭はほんの少し、恐怖を抱いた。
「あら、かわいいじゃない♪」
思いも寄らない流李の助け船に、青髭は意気揚々と乗った。
「そうだろう、そうだろう。お前にはこのセンスが解るようだな」
そして、すっかり気を良くした青髭は、紗那を見下すように言い捨てた。
「このセンスが解らんようじゃな、お前さんも、そこまでよ」
何がそこまでなのか問いただしたかったが、またややこしい事になるのは嫌なので紗那は口を閉じた。
「お頭、こいつらに聞きたい事って、何ですか?」
こうゆう時、フォローを入れるのは、いつもリョウの役目だった。頼りない頭を持つと、手下は苦労する。
青髭は、己の使命を思い出し、二人の人質を見据えた。
「昨日の昼間に会った奴と、お前さんたちの関係は何だ?」
最もな質問だ。いくら仲間を人質に取ったからと言っても、親しくない間柄ならば、それは意味を持たない。
「私達三人とも、小さい頃からの親友なのよ♪」
それには流李が答えた。紗那は些かその答えに不満気な表情を浮かべていたが、流李から言わせれば、それは照れ隠しなのだそうだ。
「そうか。それじゃ、他に後何人仲間がいる?」
これにも流李が答えた。
「私達三人だけで旅をしてるのよ」
「
「あら、本当よ。私達三人とも、優秀なんですって」
まるで他人事のようなその言い回しに、青髭が怒りを露わにした。
「バカにするなっ! こっちは、ふざけてるんじゃねぇぞ!
「私達が何をしてようが、あんたらには関係ない」
これには、紗那が答えた。放っておくと、流李が洗いざらい喋ってしまいそうだったからだ。特に隠す必要はなかったが、よくも知らない相手に、しかも盗賊なんかに自分達の素性をペラペラと喋る事は出来ない。
しかし、その態度が青髭に不審の念を抱かせた。
「ふん、そんな偉そうな口が訊ける立場か?」
そう言うと、腰の帯にぶっきらぼうに刺してある鞘から短剣を抜くと、それを紗那の顔にぴたりと当てた。
刃物の感触が、頬に冷たい。
「わ、私達が住む、新しい惑星を捜してるのよ! 今まで住んでた惑星に、もう住めなくなったから……。ねぇ、これでいいでしょ? 紗那ちゃんを傷つけないで!」
頬に短剣を突きつけられても、表情一つ変えない紗那を見て、青髭がつまらなさそうに鼻息を付いた。
「惑星ねぇ……。そりゃあ、大層な使命を背負ったもんだ。こんな
青髭が嫌味たらしく、にやにやと笑う。明らかに疑っている。
「それじゃあ、次の質問だ」
そう言うと、青髭はまだ右手に握られた短剣を、今度は流李の頬にぴたりと当てた。
それにはさすがの紗那も表情を崩す。流李が叫ぶ前に、紗那が叫んでいた。
「何よ、早く言いなさい!」
その紗那の一変した態度に満足の笑みを浮かべた青髭は、その視線を紗那へと移した。
「へへ、こうでなくっちゃな。いいか、お前らの仲間のいる場所を教えろ」
寝起きの悪い桃乃の顔が紗那の頭に浮かぶ。おそらく、まだ眠っているだろう。
「桃乃の居場所なんか聞いて、どうするつもり?」
紗那の挑戦的な瞳に、青髭は心底嬉しがった。
「どうするったって、さあてね。どうするかな。まぁ、上手く利用させてもらうさ」
そして、紗那が口を開く前に、リョウが口を挟んだ。
「お頭、それなら、俺が知ってる。こいつらに聞くまででもない」
青髭が片方の眉を上げてリョウを見る。何かを伺うかのように。
「……そうか。それなら、リョウに案内してもらうとしよう」
そして、流李の頬から短剣が離された。
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