10. 侵入者

 恒星の光を反射して光る衛生の光が、カ―テンの僅かな隙間から、眠っている三人の部屋の床に金の筋を作る。


  カタ、カタ……


 窓が小さな音を立てる。


 その奇妙な音に気付き、目を覚ましたのは、人一倍神経質な紗那だった。


(……なに? 泥棒?)


 部屋の中は、桃乃の大きなイビキと、隣で寝ている流李の微かな寝息以外、静まりかえっている。


 紗那はベッドの横にある机の上に手を伸ばし、光線銃を掴むと、音を立てないように窓の側へと近づいた。


  キィ……


 窓が開かれる。紗那はカ―テンの陰に身を隠し、息を潜めた。


 すっと開かれた窓から入って来た人影は、用心深く部屋の様子を見回し、部屋の隅に置かれた荷物の方へと歩を進めた。


 物音一つ立てない足取りが、手慣れた盗人だと言う事を教えてくれる。


 紗那の身体に緊張が走る。流李はともかく、一度寝るとなかなか起きない桃乃は当てに出来ない。そして、両手で光線銃を深く握り締めた。


  ゴソゴソ……


 人影が荷物の中身をあさると同時に、その瞬間を見計らっていた紗那がその人影に銃口を向ける。


「動かないで。動いたら撃つわよ」

「?!」


 低く、落ち着いた声に、人影が驚いて後を振り向く。


「そのまま両手を上に挙げて」


 人影が、紗那の様子を伺うようにゆっくりと両手を上にあげる。


 さっき目を覚ましたばかりの紗那には、その人影の顔をはっきりと見る事は出来ないが、その人影には紗那の持つ光線銃が見えているようだ。


「そう、そのまま動かないで」


 紗那は、銃を構えたままゆっくりとその人影に近づいた。次第に、人影の輪郭が見えてくる。


 その時だった。


「う、ん……。紗那、ちゃん?」


 紗那の声に気付いて目を覚ましたのだろう。流李が眠い目を擦りながら上半身を起こした。


「!」


 盗人は、その一瞬の隙を逃さなかった。紗那が流李の方に気を取られている空きに、素早く紗那の持つ銃口から逃れ、流李のベッドの脇へと走る。


「流李!」


「へ? きゃっ!」


 紗那の呼び掛けに答える間もなく、盗人が腰から短剣を抜き、流李に突きつける。


「動くな! 武器を捨てろ」


 耳元で叫ぶ盗人の声に、流李の眠気が一気に吹き飛ぶ。


 盗人から目を離さずに、紗那がゆっくりと銃を足下に置いた。


「きゃー! もしかして、もしかしなくても泥棒さん?」


 部屋の緊張感を破る程の流李の甲高い声に盗人もたじろぐ。


「しゃ、喋るな! 大人しくしてろ!」


 盗人の怒声に、流李が我に返って叫ぶ。


「どうしましょ! 紗那ちゃん、色紙持ってくるの忘れてたわぁ」


 一瞬の間が空く。


「サインがもらえない~」


 そう言って、涙まで流し始めた人質に盗人が躍起になって突っかかる。


「な、何なんだよ、お前。人質になってるんだぞ、解ってるのか?」


「人質……」


 盗人の言葉に流李が泣きやむ。


「きゃ~! 紗那ちゃん助けて~!」


 暗闇の中で流李が悲痛の声を上げる。


 しかし、その表情には、明らかに現状を楽しんでいる笑みが浮かんでいた。


 その時、開かれた窓から風が吹き込み、外の光が部屋の中を薄く照らした。


 紗那と流李の目に、盗人の頭に巻かれた赤いバンダナが目に入る。


「あら? あなた、昼間、桃ちゃんに抱きついてきた子?」

「?」


 人質からの身に覚えのない質問に、少年は、眉をひそめた。昼間、流李は桃乃の傍にいたが、少年の目には桃乃しか見えていなかったのだ。


「青髭って人と一緒にいた……」


「っ! ……来いっ!」


 流李の話に合点がいった少年が、流李の言葉を途中で遮る。そして、手に持った短剣を突きつけながら、流李の腕を引っ張って窓際へと移動した。


「待ちなさい! あなたの目的は、私達の荷物でしょ? その子は関係ない筈よ」


 窓際に立った少年が、紗那の方を振り向く。


「そうでも、ないみたいなんでね」


 そう言うと、少年は身を翻して流李と共に窓から外へ飛び降りた。


「きゃっ」


 飛び降りる寸前、流李が小さく叫ぶ。


 すかさず紗那が足下に置いた光線銃を手に取り、窓際へと駆け寄った。見ると、下の方で尻餅を付いてる流李を少年が立たせている。二階から落ちたくらいなら大丈夫だろう。


 素早く少年に狙いを定めて紗那が光線銃の引き金を引く。


「うっ……」


 赤い光が少年の左肩を襲う。痛みに思わず声が漏れた。


 当たったようだが致命傷ではないようだ。あまり時間稼ぎにはならないだろう。


 紗那は急いで部屋を飛び出した。


「ぐか―っ……」


 桃乃のイビキだけが、開け放たれた扉から空しく響いた。

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