11月25日

 ところで、今日11月25日、家には祖父母と私だけなのだが、平日なのでこれは割と当たり前の風景だ。

 ただし、当たり前でないのは、多分明後日くらいまで、両親と大学生の兄は帰ってこないだろうなっていうことだ。


 母方の祖父が心不全で亡くなったという連絡が来て、3人で朝早く出発したからだ。

 母の実家は飛行機を使う距離なので、そちらの親戚は私にはあまりおなじみではない。

 私にとっての「お祖父ちゃん」は、カップ麺と鉄道模型が好きな、お祖母ちゃんより発言権が弱い、あの愛すべき人だ。


 母は、実の父親との関係は微妙だったみたいで、「あの飲んだくれが…」とボソリと言って、特に悲しそうでもない。

 それでも全く無視するわけにもいかず、父と兄が付き添って、とりあえず帰ることになった。

 私には「3日ぐらいで帰るから、ちゃんと早寝早起きして学校行くのよ」とだけ言った。


+++


 さて、私は学校に行ったでしょうか? 行かなかったでしょうか?


 はい――心おきなくサボりました。


「何だかその気になれなくて」とだけ言ったら、なぜか納得された。

 人のいい祖父母は、「もう1人のお祖父ちゃんの死にショックを受けた」と思ってくれたらしい。


「具合は大丈夫なんだね?」

「うん、何ともない」

「ちゃんと勉強はするんだよ」

「わかってるよ」

「「はい」って言いなさい」

「はいはい」

「一回でいいの!」


 まあ、別にもめるでもない、小さな小さな言い争いがあった程度で、私は堂々とサボった。


 いつものことなんだけど、学校を何となくサボった日は、大体午後3時か4時の間ぐらいに、少し後悔する。

 部活に入っていない子たちの帰宅時間、ってところかな。


 やっぱり学校に行ってアユちゃんとおしゃべりしたかった、とか、今国語でやってる単元の小説、結構好きなんだよな、とか。

 もう大分気温が下がってきたので、帰りにあったかいレモンティーを飲みながら帰ったりすることもある。

 あれは学校帰りに飲むと、なぜか無性においしいのだ。


 特に具合が悪いわけでもなく、何となく休んじゃったので、多分明日は学校に行くだろう。

「昨日はどうしたの?」って聞かれたら、何て答えよう?


「お祖父ちゃんが死んじゃった」だと、絶対勘違いされる。

 仲よしのアユちゃんもミズホちゃんもいい子だけど早とちりだし、説明も面倒くさい。

「ちょっと気持ち悪くて」でいいんだけど、なぜだか今日は、それもピンと来ない。


+++


「11月25日 今日は何の日」


 スマホで検索したら、記念日サイトが見つかった。


 OLの日? スリナム(よく知らない国)の独立記念日?


 へえ、『テニスの王子様』の千石せんごく清純きよすみ君の誕生日?

 私が生まれるずっと前の漫画だけど、ミュージカルとかにもなって大人気だし、クラスでも話してる子いるやつだ。

 よく知らないキャラクターだけど、調べたら、チャラそうだけど結構かっこいい。

 「ラッキー千石」って二つ名、何かいいな。


 そんな中に、「憂国忌」というのがあった。

 小説家の三島由紀夫が割腹自殺を図った日らしい。


 作品は読んだことはないけど、三島由紀夫なら知っている。


 ん? おじいちゃんはひょっとして、この人と命日同じってこと…?


+++


 その後、適当にスリーマッチパズルゲームをやっていたら、寝落ちして、6時頃おばあちゃんに「ご飯だよ」って声をかけられた。


 胸のあたりに落っことしたスマホは、ゲーム画面が出ている。

 あと、検索したブラウザも残ってた。


「あ、「三島由紀夫の命日だから休んだ」にしよう」と思った。


 女子中学生のやることに、いちいち理由を見出そうとしないでほしい。

 どうせ「えー、誰それ?」って話だし、知っていても「ファンなの?」って聞かれて、「別に」って私が答えたら、「変なの」って返されて、その会話はそこで終わる、そういうもんなんだ。


 そもそも「休んだ理由」を聞かれるかどうかも分からない。

 お祖母ちゃんは学校に「ちょっとお腹の調子が悪いようで…」とか電話していたし、そこで決着してるかもだ。

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