きょう、ママンのパパが死んだ

夏野ロージー

常習


 現在中学2年生の私は、よく学校をサボる。


 仲のいい友達もいるし、好きな教科もあるけれど、全体的に嫌なやつが多く、やりたくないことばかりやらされるからだ。


 ただ、立て続けに何日も休むと、いざ「行くかあ」となったとき、学校に行くために必要な体力や気力を、ベッドとか、ソファとか、トイレとかお風呂とか、いろんなところに分散して落としちゃうみたいなので、できるだけ余力があるうちに行くようにしているから、おサボりはせいぜい3日が限度だ。


 うちは両親共稼ぎで、父方の祖父母と同居している。

「今日休む」と言うと、まずは「具合が悪いのかい?」とお祖母ちゃんが顔を曇らせる。


「なんかすっきりしなくて」

「病院に…」

「寝てれば大丈夫。あと、心配するからお母さんには言わないで」

「でも、念のために…」

「言っても迷惑なだけだと思うよ」


 昔は両親と兄と4人暮らしだったが、当時私が熱を出して、保育園から職場に連絡がいくと「ゾッとした」と言っていたから、未だにそこを盾に取って、サボりの口裏合わせに利用している。

 そりゃいろいろあるんだろうけど、子供が熱出したのに「ゾッとした」ってひどくない?


 体調とか、母にだまっておくこととか、適当に説明や言い訳をしておけば、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんは「そういうもんかねえ」と納得いかない顔をしながら、形だけ理解を示す。


 もっと小さい頃は、面倒くさい言葉でいうとケトン血性嘔吐症、いわゆる自家中毒症ってやつでしょっちゅう体調を崩して、冗談みたいにぶっとい血管注射を打ってもらった記憶があって、お祖母ちゃんたちにしてみると、「そのときのあんたの姿が不憫で不憫で」っていまだに言うから、そういうのも関係あるのかな。


 注射液が入ってくると、ふわっといい気持ちになって落ち着くから、私は別に嫌じゃなかったんだけどね。

 でも、金も権力もない中学生が、自分の思い通りに快適に過ごすためには、言質を取って屁理屈で対抗したり、同情を利用したりって、悪い方法じゃないと思うんだ。


 あ、でも通知表を見れば、欠席がそこそこあることは分かっちゃうから、「お母さんには事後報告でいいよ」という日もある。

 それでも「意外と休みが多いわね」程度のことしか言われないから、私が休めているか、結局私に関心がないのか、まあどっちかだろう。


 嫌なことからうそついて逃げるような、弱い大人にるなるって?

 ほっとけ!

 具合が悪いのは本当だもん。ちょっと頑張れば、嘔吐リバースだって自由自在だしさ。


 でも今の時代、高校も行かないで働くのは覚悟が要るし、高校くらいは行く予定。成績や内申に響かない程度にサボり、ひたすら惰眠をむさぼって、漫画読んで、動画見て、ゲームやって気ままに過ごす。そうしてガス抜きをするんだ。


 高校に行った後のことは考えていない。

 私を奮い立たせようとして、「お前はやればできる子だ」とか言う大人が多過ぎてうんざり。

 ――そんなこと知ってるよ、「やりたくない」んだよ。

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