第10話 ママと母

「ルイ…ルイ…ルイってば!!…」


「ルイってだれ?」

「あたし。昔から西野と涼ちゃんに店の外ではそう呼ばれてる。」

「聞いたことない。」

「最近3人で揃うことないしね。」


また昼ごはんを食べたあとにうたた寝しながら寝言を言っていた。


「ルイ!!…」


「涼太。…涼太ー。」


僕が起き上がるとルイが抱きしめてくれた。



「涼ちゃん、起きて。そろそろ出る時間だよ。」


すると僕はゆっくり目を覚ました。


「ルイ?…」

「何言い出すかわかんないから起こした。」

「ごめん。」

「別にいいけど。なんかあった?あたしに話したい事とか。」


「あった。」

「どんなこと?」

「…なんだったっけ?」

「思い出したらまた言って?」

「うん。。」


「ほら、コーヒー飲んで仕事するよ。」

「ふぁい…」


結月は2人を椅子に座って見ていた。




────────────閉店後。


「あ、待って。」

「どうしたの?」


タイムカードを切ろうとする金宮さんを止めた。


「あと10分だけ残れたりする?もし用事あるなら後日でもいい。」

「今日は大丈夫。仕事のこと?」

「いや、全く違う。」

「なら、今切ってもいいよ?」

「ダメ。俺のわがままだから。」

「…わかった。ありがとう。」


「あたし、居ていいの?」

「むしろ居て貰っていい?もし急ぎならどうしよう…」

「買い物行きたかっただけだから。あとで2人で行けばいいから大丈夫。」

「ごめん。ありがとう。」


「…プリンセスここ座って。」

結月を僕が普段座る椅子に座らせた。


「ばあやここ。」

「あたしばあやね。」

「召使いがいいか?」

「ばあやでいい。可愛いばあやにして。」

「うん、わかった。可愛いばあやここどうぞ。」


僕はパイプ椅子を脇から出してきてそこに座った。


「…あのさルイ。」

「うん。…あんた何うなされてたの。」

「…うちのクソクイーンから朝4時に電話が来た。」

「あぁ…。」


ルイが呆れた顔をした。


「うん。」

「で?なんて?あんたのは。」

「お金貸してって。」

「本当にどうにもなんないあのバカ!!いつまで涼太に付きまとう気?!」

「…相談したかったけど悩んでた。」


「…お母さん?」

「そう。」


結月に話はしてた。

でも会わせもしなければ小規模で開いた式にも呼ばなかった。

僕の方の母親席はルイに座らせた。


「結月に話して不安にさせたくなかった。」

「わかるけど、言ってくれてよかったんだよ?」

「お前も抱える癖あるから。なら、ルイにも話したかった。ルイもあとから知ったら結月と同じ事言うからさ」

「そうだね。あたしはキレるね。特にあいつがあんたを悩ましてるなら余計にね。」



「結月。」

「なに?」

「母さんに会いたい?」

「涼ちゃんが会いたくないなら無理に会う必要は無いよ。だって涼ちゃんの『お母さん』ってあたしが見てる限りでは金宮さんだし。」

「どう?俺のリアル母さんになる?」

「遠慮するわ。あんたみたいな言う事聞かない息子手に負えない。」


僕が笑うとルイも笑う。


「…あんたの笑った顔、アミそっくり。」

「ムカつく?」

「うん。ムカつくくらい可愛い。」


「……」


時刻は19時をはしていた。

すると、店の電話が鳴った。


朝のスマホの着信履歴を見ると、同じだった。


「母さんだ。」


そう言うと瞬時にルイが出た。


「…なに?」

「なんであんたが出んのよ。涼太を出して。」

「アミ、あんたまた酔ってんの?」

「ルイに関係ないでしょ。」

「お金ないってなんで?」

「男にだまされたの!でも涼太居るからなんとかなるでしょ!」

「あのね、涼太も結婚して可愛い奥さん貰ってんの。店だって忙しいし、あんたにお金貸してる暇無いよ!」

「なによ、いっつもそうやって母親ヅラしてさ!あたしが涼太の母親なんだけど?!」

「確かに産んだのはあんたかもしれない。でもあんたが放ったらかしてる間に様子見に行ったりうちの子と同様に育ててたのはあたし。あんた忘れたの?今の今まで私が見てたんだけど。ここの前のオーナーに話通したのも私。…全部私なんだけど?!あんたは自分の都合のいい時だけそうやってきてさ!あんた涼太がいくつの時からそうしてるか分かってんの?!児童相談所に連れてかれそうになってうちで面倒見るって言わなかったらどこにいるかもわからなくなってたんだからね?!それ分かってんの?!もうそろそろあんたの都合で息子振り回すのやめてくれる?!」


「……」

「なんか言ったらどうなの?!」

「…涼太と話させて。」

「出させない。」

「話させて。」


僕は結月を抱きしめていた。


「涼ちゃん。いいの?」


ルイはスピーカーにして全部僕らに聞かせていた。


僕は電話の前に立って母に話しかけた。


「ママ、ごめん。ママに貸せるお金はない。でもルイなら貸せる。ちゃんとお金以上のもの俺にくれてるから。ママ、確かに大変な中で俺を産んでくれたと思う。でも結局、ルイに甘えて放置したのはママだよね?だから嫁にも会わせたくないんだよ。だから俺、ルイが母親だと思ってる。箸の持ち方だって、靴紐の結び方だって…ボタンの閉じ方も俺、何も知らなくて、全部ルイだったんだよ?それにいっつもママは、俺に会い来る時酔っ払ってたよね?昨日もそう。今日もそう。でもルイは特別な日しか飲まない。飲んでも可愛い顔してすぐ寝るんだよ。誰にも迷惑かけない。…そんな女にママはなれる?」


「…ルイ、あんたまさか。」

「…だったらなに。」

「最低。人の息子になにすんの。」

「私の息子だから。私が涼太に何しようが私の勝手。あんたは一生涼太を満たせない。」

「涼太!!あんた何考えてんの?!」

「…ママ、酔い冷めた?産んでくれたことには感謝する。でも、俺の事ちゃんと理解してくれるのはルイだから。嫁とルイがいれば大丈夫だから。。ごめんね。じゃあね。」



―――――――――――――――――――――。


「涼ちゃん、あたしと一緒になってからはないよね?」

「ない。」

「それならいいよ。」

「でも結月、俺にはルイも必要。それわかって。」

「涼太から金宮さんとったらあたし相当悪魔。」

「あたしもあんたを離す気ないから。」


―――――――――――――――――――――。


「ルイ。」

「なに?」

「気を付けて。」

「ありがとう。」

「死ぬまでこき使ってやるから。」

「本望だわ。」


「……」

「よく言えた。本当にえらかった。それでこそあたしの息子。」

「ルイ…大好きだよ。」

「私も。」


――――――――――――――――――。

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