ZZZ

「何が起きているんだろう?」


 ローラはエニシの心配をするというより、荷馬車が停まって全然進まないことに疑問を持ち、尚且つ先程より激しい音が鳴っていることも気になったので、勇気を出してそっと外を覗いてみることにした。

 すると外を覗くや否や、血しぶきを上げてオークの首が飛んで行くのが見え、思わず「きゃああああああああ‼」と彼女は悲鳴を上げてしまった。


「ローラどうしたの?」


 女の子達の仲間の一人がローラに声を掛けたが、ローラには状況を説明できるの程の情報はまだ持ち合わせていない。




「次はどいつだ?ようやく体が温まって来たぞ」


 返り血を浴びるものの、体の自浄作用により血はすぐに消え、緑色の光沢のあるボディに戻るエメラルダー。その異様さがオーク達の恐怖を更に引き上げる。

 大勢の命を失っても、エメラルダーにダメージはおろか、攻撃を一つ当てることも出来ていないのだから、オーク達の戦意は喪失しかけていた。


「お前等‼なにをやっているんだ‼」


 怒号の様な声がしてかと思えば、のっそのっそとオーク達より倍はデカい巨体の黒ずんだオークが現れた。このオークの名前はオークキングと言って、文字通りオーク軍団のボスである。


「お、お頭、それがあの……あの男が強過ぎまして」


「言い訳は聞きたくねぇ‼」


 棍棒を振り下ろし、話し掛けて来た部下のオークの頭をボゴン‼と叩き潰したオークキング。悪党のボスらしく血も涙もない。しかし、そういう相手の方がエメラルダーにとっては都合が良かった。何の躊躇も無く殺すことが出来る。


「お前が俺の部下を殺しまくった奴か?キラキラ光って宝石みたいな野郎だな」


「あぁ、エメラルダーだ。お喋りする気は無いから、さっさと死んでくれ」


「くっくく、そんな強がりを後ろを見ても言えるかな?」


 オークキングがそう不敵に笑うので、エメラルダーは後ろを振り返ると、先程荷馬車で出会ったローラ達が並ばされており、オーク達が彼女達に鋭い槍を向けていた。


「なるほどな。やはりクズのすることは異世界でも変わらないな」


 オークキングの言っていることの意図が分かったエメラルダーは、両手に持っていたエメラルダーマグナムとエメラルダーソードを地面に落とした。


「ゲヘへ♪物分かりの良い奴だな。次は緑色の鎧も脱いでもらおうか?」


「あー、分かった。良いぜ。脱いでやるよ」


 エメラルダーがすんなり武装解除する様なので、オークキングも部下のオーク達もすっかり安心しきっていた。だがそこに隙が生まれたことは言うまでもあるまい。そしてその隙を逃すエメラルダーでは無かった。



「エメラルダーフラッシュ‼」


 エメラルダーから放たれた緑色の光が周囲に放射される。それによりオーク達は視界を潰される。


「ぐっ、おのれ‼」


 オークキングが視界を取り戻した後に見えた光景は、少女達を取り囲んでいた部下の死体と、再び武器を持ったエメラルダーの姿であった。


「き、貴様、あの一瞬で……」


 言葉を詰まらせるオークキング。得体のしれない男に自分が恐怖心を植え付けられていることに自身は気が付いてはいない。


「エメラルダーフラッシュは、ただの目くらましではない。光が放射されている間は超高速で動くことが出来る。実戦で見せたが理解したか?」


 エメラルダーはそう説明したが、オークキングにとってはエメラルダーフラッシュの能力など知った事では無かった。


「おい‼お前等‼一斉に奴に飛び掛かれ‼その隙に俺が棍棒で叩き殺してやる‼」


 オークキングはそう命令したが、オーク達の中にエメラルダーに立ち向かおうとする者は一人も居なかった。


「じょ、冗談じゃねぇ‼俺は逃げるぜ‼」


「俺もだ‼こんなのやってられるか‼」


 一人が逃げ出すとまた一人、また一人と、とうとうオークキング一人を残して全員が逃げてしまった。


「ゴラァ‼貴様ら‼待て‼待てぇええええええええ‼」


 森の中に虚しく響くオークキングの叫び。そんな彼のことをエメラルダーは憐れとも思わない。悪事を働く奴にはいずれ天罰が下る。そんなのは当たり前のことであった。


「一瞬で終わらせてやる」


 エメラルダーはエメラルダーマグナムを右腰のホルスターに直し、両手にエメラルダーソードを構えた。エメラルダーソードに全エネルギーを集中させると、エメラルダーソードのエネルギー刃は最大まで展開され、周囲の木々より高く伸びた。


「ま、待て……何が欲しい?女共ならお前にくれてやるぞ」


「お前に交渉する権利はない。塵となって消えて無くなれ」


 エメラルダーはそう冷酷に告げて、エメラルダーソードを振り上げ、それを一気にオークキングに向かって振り下ろした。


「ギャアァァアアアアアアアア‼」


 悲鳴を上げるオークキングだったが、死の運命からは逃れられない。光の刃がオークキングの体を縦に真っ二つにし、切られた際のエネルギーがオークの体に伝わり、オークの体はド――――ン‼と音を立てて爆発飛散した。


「エメラル断」


 爆炎の中、必殺技を呟くエメラルダー。

 異世界に英雄来りて悪を討つ。そんな夢物語が現実に起こった瞬間であった。










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