エピローグ

 緑色の戦士がオーク達をなぎ倒していく。それがローラが見た光景だった。

 大きな悪に弱い者が搾取される。そういう構図がこの世界では成り立っており、ローラはオークに連れ去られた時に全ての希望を失っていた。よってオーク軍団がたった一人のせいで壊滅させられるなんて考えもしなかった。

 あの緑色の戦士は誰なのだろう?先程の飄々とした男にしては体格が良くなっている気もするし、あんな風に強いイメージは無かった。だから、あの男=緑の戦士という風に結びつけることはローラには難しかった。


「ふぅ、これで大丈夫かな?」


 緑色の戦士はそう言うと再び光に包まれ、今度は元のエニシの姿に戻った。

 それを見ていたローラは心底驚いたが、これでエニシ=緑色の戦士なのだと結びつけることが出来た。


「皆、大丈夫だった?怪我はない?」


 優しい声で駆け寄って来るエニシ。だが少女達は警戒していた。さっきオークキングを殺したのを見るに、周囲に散らばるオーク達の死体の山を築き上げたのはエニシなのだと想像できたので、今度は自分達を殺してしまおうと思っているんじゃないかと勘繰ったのである。


「良かった、皆無事なようだね。それじゃあ、これからどうしようか?誰か馬車を運転できる人居る?馬車で近くの町まで行きたいんだけど」


 少女達は馬車の運転なんてした事のない者ばかりだったが、たった一人ローラだけは父に運転を習っていた。ローラは状況の整理も付いていないが、困っているエニシを見ていると放っておけなかったので、馬車の運転を買って出た。


“ガタンゴトン……”


 ローラの運転で森の中を荷馬車が進む、少女達は再び荷の方に乗り込み、エニシはローラの隣で周囲を警戒している様だった。

 ローラも少女達も100%エニシのことを信用したわけでは無かったが、強い者に逆らうことは土台無理だし、このまま町に行った方が彼女達にとっても良いことなので、エニシの提案に従わない理由は無かった。


「あ、あの、どうして私達を助けてくれたんですか?」


 意を決してローラがそう言うと、エニシは微笑を浮かべながらこう答えた。


「ヒーローを知らないなんて可哀想と思ったからさ。それに人を助けるのに理由なんて要らないだろ?」


「そ、そうなんでしょうか」


 ローラは知らない。「人を助けるのに理由なんて要らない」という言葉がエニシが昔愛した人の口癖だったということを。


「お、お礼、お礼をまだ言ってませんでした。助けてくれてありがとうございます」


「いえ、どういたしまして、まぁヒーローだから人助けが仕事みたいなもんだけどね」


 ヒーローという言葉を先程知ったローラだが、今となってはその言葉に優しさと力強さを感じていた。両親も親しい人もすべて失った彼女に、一筋の光が生まれた気がしたのである。

 ローラはエニシに聞きたいことは山程あった。あの姿は何なのか?何処から来たのか?どういう生い立ちなのか?だがそれらを聞くよりも、先にこんな事を聞いていみることにした。


「エニシさんはこれからどうするんですか?」


 ローラからの予想もしていなかった質問に、うーんと首をかしげるエニシ。何も決めていなかったが、最初に考えていた死ぬことだけは、もう選択肢から除外されていた。

 考え抜いた末、エニシが辿り着いた答えはこれである。


「そうだねぇ、君みたいに絶望した人を救う旅にでも出ようかな」


「……それ、とってもいいと思います」


 ローラの目からは突然涙が流れてきた。枯れたと思っていたが、エニシの心の温かさに触れて、彼女の本来持つ優しくて可愛らしい部分が戻りつつあった。

 そんな彼女の顔を慈しむように見ながら、エニシは第二のスーパーヒーローとしての生を頑張ることを心に決めた。



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英雄来たる タヌキング @kibamusi

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