///

 森田 縁は死んで異世界転生した。しかし、それは彼の願うところでは無かった。

 死んでしまう時、ようやく愛しの恋人の元に行けると思っていたからである。

ゆえに自分が異世界転生したと気付いた時には自暴自棄に陥ったのだ。しかも、ご丁寧にもほとんどが機械になってしまった自分の体のままだったので、これには自虐的に笑ってしまった。

 

「早いとこ死にたいねぇ」


 自分の家族と恋人を殺した相手を刺し違えて殺したエニシには、もう生きることに何の執着も無かった。向こうの平和は若い奴らに任せているし、早々に死にたいと願うばかり、マイナスでは無くプラス思考の死にたがりである。

 死にたい、だが自殺をすると恋人の居る天国に行けないかもしれない。そう考えると何か獰猛な生き物にでも自分を殺してもらうより他なかった。

 自分を殺してくれる相手を見つける為、エニシは一人森を歩いた。町で聞いた情報によると、ここには獰猛な獣がうじゃうじゃ居て、通りすがった人を手当たり次第に殺すらしい。

 これは良いことを聞いたと、縦横無尽に歩き回ったが、獣は見つけられるものの、その歯や牙や爪はエニシの体を突き破る程の威力は無く、彼の求める死を叶えてくれるには、いくらか役不足であった。


「はぁ、見た目が派手なだけで、ライオンや豹と変わりはないな。いつになったら死ねることやら」


 もう半ば諦めていたその時、ある一団に出会った。それはオークの盗賊団であり、オークたちは突然現れたエニシを見るなり、槍や剣を向けた。


「キサマ、何者だ?」


「変な格好してやがるぜ」


 エニシ的にはこの展開は良い感じである。明らかに敵意を持った輩、こいつ等なら自分を殺してくれるだろうと考えた。ゆえに煽ってみた。


「お前等に俺を殺せるかな?」


 俺を手に持った剣で斬りつけろ、槍で貫け、期待に満ちた目でオークたちを見ていたが、オークたちの怒りを買うことに成功したものの、その場で殺されることは無く、結局は荷馬車に乗せられてしまった。

 荷馬車の中には陰鬱な雰囲気が漂い、少女達が分かりやすいぐらい絶望の表情を見せていた。エニシは彼女達の身の上が気になり、一人の少女にワケを聞いてみることにした。彼女の名はローラといい、好意的では無かったものの少女達の事の経緯を話してくれた。なんでもオークたちが村を焼き、両親と仲の良い人たちを殺されたそうで、何処かで聞いた話だなと思った。

 

「君、ヒーローって知ってるかい?」 


 エニシは自分でもなんでそんな事を聞いたのか理由は分からなかった。ただヒーローの存在を彼女達が知っているのか気になっただけなのかもしれない。


「英雄なんて居ないんですよ。腹の立つ言葉です。見てみたいもんですね英雄」


 吐き捨てる様にローラはそう言った。

 それを聞いてエニシは自分の人工心臓が熱くなって来たのを感じていた。

 彼女達を助けたい。そう思うとさっきまでの死にたがりの男は何処かに行ってしまった様だ?


――真美子まみこ。そっちに行くのはまだ先になりそうだ。


 心の中で最愛の人の名前を呟き、エニシは再び戦うことを決意した。



 エニシが荷馬車を出ると、オークたちは進むのをやめ、一斉に彼を取り囲んだ。今ならば死ねるかもしれないが、死ねない理由が出来るばかりか、戦う理由まで出来たエニシにはココで殺されるワケにはいかなかった。


「お前等、予想以上に悪党だな。今更で本当にすまないが、お前達を生かしておくわけにはいかなくなった」


 エニシの言葉を聞いたオークたちはギャハハ‼と下卑た笑いを上げた。たった一人の矮小な人間が自分達に歯向かおうとしている。そのことは彼らにとって楽しい余興でしかなかった。


「悪党は笑う、フッ、そうこなくっちゃ殺し甲斐が無い」


 殺されようとしていたのに今度は自分が殺す側になるとは思いもしなかったが、エニシは天に右手を突き上げ、もう二度と口にすることの無いだろうと思っていた変身コードを口にした。


「深緑‼」


 その言葉を叫んだあと、エニシの体は緑色の光に包まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る