人間不信の俺は聖女の闇落ちを防ぎたい
折瀬理人
プロローグみたいな前置き
プロローグ
最初に確認しておくけれど、俺こと
名前からして間違いなく推す側の外野だ。
例えるなら、有象無象とか烏合の衆とか路傍の石とかだいたいそんな感じに近い。
たぶんそれは青が赤ではないとか、月と太陽は違うとか、それくらいはっきりしていることだ。
けれどそれでもどうしようもなく、決して手の届かない相手にも恋をする権利くらいは有している。
もっと言えば無縁の相手でも愛でて、愛する権利がある。
たとえば誰だって一度くらいは『理想』に恋をしたことがあるはずだ。
きっと一度くらい、遠い遠い誰かを、深く深く愛したしたことがあるはずだと思う。
漫画の登場人物。
アニメのキャラクター。
芸能人。
アイドル。
ユーチューバー。
あるいは、神様。とにかく何かしらあるはずだ。
俺にもあった。
否、ある。
ああもちろんわかってるとも。
分不相応。そんなの身の程知らずだって。
だからこそ、そこには大きな危険が孕んでいる。
何故なら、人が人を好きになるとき、そこには必ず己の願望が投影されるからだ。
黒髪で清楚そうだから処女のはずだとか、
王子様のようなイケメンだからアダルトビデオなんて見るはずがないとか。
真面目そうだから浮気はしないだろうとか。
美少女だからオナラやゲップをしないとか。
そんなふうに勝手に偶像を作り上げることから、だいたいの恋は始まる。
だからその期待が裏切られ強いショックを受けるリスクがあり、実際にショックを受ける。
これは相手が取り繕い好感度を上げる努力をしていると、よりダメージが大きくなる。
そういうわけで、誰かに恋をするということと裏切られるということは、切っても切り離せない関係にあるわけだ。
そんな悲しい状態にもし陥ってしまったら我々はどうすればいいのか。
怒るべきか、悲しむべきか、復讐すべきか。
忘れるべきか、それともなるほどと斜に構えて達観するべきか。
というわけでここで、そんな迷える子羊たちに向けて裏切りにまつわる名言をいくつか紹介していこう。
まずはネットでバズったことがある高倉健氏の発言から。
『人に裏切られたことなどない。自分が誤解していただけだ』
まさに男が惚れる名俳優の言葉だからこそ深みが増す発言だと思う。ダンダダンにも名前が出てくるし。
次に、この考え方の解像度を上げた発言を、名子役、いまや女優の芦田愛菜さんが答えている。
『その人を信じようと思いますって結構使うと思うんですけど、それがどういう意味なのか考えたときに、その人自身を信じているのではなくて、自分が理想とするその人の人物像に期待してしまっていることなのかなとと感じて、だからこそ人は裏切られたとか期待していたのにと言うけれど、その人が裏切ったというわけではなくてその人の見えなかった部分が見えただけであって、見えなかった部分が見えたとき、それもそれも人なんだと受け止められる揺るがない自分がいるというのが、信じられることかなって思ったんですけど』
さすが人生二週目、と噂されるだけあって秀逸な価値観だ。
最後に、僕がオタクの友人に勧められて読んでひどく感銘を受けたライトノベル、小野不由美著の十二国記の一場面を抜粋しよう。
「バカかお前は、あいつはお前を利用するために助けたんだぞ!? 善意で助けたわけじゃ……」
「善意でなくても良かったんだ、私を助けてくれたことには、変わりはない」
「あいつはお前を信用させて、お前を利用して、そして、お前を裏切るんだ!」
「裏切られたっていいんだ! 裏切られたって、裏切ったやつが卑怯になるだけだ!」
「お前も裏切らなきゃ生きていけないんだよ!」
「私は死なない。卑怯者にもならない! 善意でなければ信じられないか。相手が優しくしてくれなければ、優しくしてはいけないのか! そうではないだろう。私が相手を信じることと相手が私を裏切ることとは何の関係もなかったんだ。そうだ、私は一人だ、だから! 私のことは私が決める! 私は誰も優しくしてくれなくても、どんなに裏切られたって、誰も信じない卑怯者にはならない!!」
そしてこの言葉。
「世界も他人も関係ない。私は優しくしたいからするんだ! 信じたいから信じるんだっ!!」
自分が信じることと相手が裏切ることはまるで関係がない、とても殊勝な考えた方だと思う。
何故これに俺が感動したかといえば、少しばかり共感するところがあったからだ。
僕は基本的に他人を信用しない。信用しないから好きにもならない。人を見たら泥棒と思え、といういにしえの先達の教えに従って生きている。
理由は至極単純、単純明快。失望したり傷つくのが嫌だから。以上。
わかりやすく説明すれば臆病なんだ。
したがって、アイドルなんてものは絶対に推したりしない。
だってあいつら絶対に裏で男を作って遊んでるだろ。
こっちが貢いだ金を男に使うだろ。
好きになるだけ無駄。
信用するだけ不毛。
応援するだけ無意味。
好きになれば傷つくだけ。
愛すれば失望するだけ。
信じれば裏切られるだけ。
そして、希望は絶望に変わるだけだ。
だけれど、だからといって他人をまったく好きにならないというわけでもない。
俺が他人を信じるのは、『この人なら裏切らないだろう』と思うときじゃない。
『この人なら裏切られてもいい』と思ったときだ。
それがもし女性なら、この人に裏切られても何だかんだで最終的に許しちゃうだろうなという人を、愛する。
そう――信じることと、好きになることと、相手が期待に応えてくれるかどうかは直接的には関係ない。
裏切られてもいいから愛する。
何があっても最後まで推す。
結局、それが真の愛というものなんじゃないのか。
とはいえ、これはあくまで理想論だ。
そんな割り切れないよ、好きな人にはイメージ通りのままでいてほしいよ、というヘタレがもしいるのであれば、そんな人に俺は優しくこう言ってあげたい。
さもありなん。
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